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小説:おとうとをさがしに②

 奇妙な音で目が覚めた。ペン先で荒い木目をこすっているような音だ。その音は僕に不快な印象を与えた。まるで悪夢が夢と現実の間を飛び越えて、僕を苛もうとしているように思えた。僕はその音がやむのをじっと待っていようとしたが、一向にやむ気配はない。僕は起き上がりスマートフォンのライトをつけて音のする方に向かった。音は弟の近くでするようだった。弟に近づき、ライトで弟を照らすと首元に親指くらいの大きさの虫がたかっている。払い落そうと手を伸ばすとおかしなことに気づいた。まるでパズルの1ピースが欠けているみたいに、弟の首元に正方形の穴があいている。こいつが弟を食っているのだ。この肉食虫をとらえるためにもう一度手を伸ばすと、そいつは僕の人差し指に飛び乗った。振り落とそうと必死に腕を回したが一向に落ちない。諦めて左手でつまもうとしたがその瞬間、虫は指先に嚙みついた。首筋に激痛が走り、鼓動が早くなる。立っていられなくなり、その場に倒れこんだ。血は濁り、血液の量が刻一刻と増えていくような気がする。血が口からあふれそうなのを必死でこらえ、虫の居場所を探した。やつは僕から離れて弟の方に向かって歩き出している。腕の力だけで体を這わせ、右手で握りこぶしを作った。腕を振り上げ狙いを定め、振り下ろす。硬さと柔らかさが混じった気色の悪い感触が右手に伝わる。床には虫がぐしゃぐしゃにつぶれている。安心すると僕は意識を失った。
(つづく)


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