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正義に見え隠れする復讐とは…

唐突な展開で恐縮だが、悪役がいるからこそ正義が成立する。
例えば悪を必要とするヒーロー物などはこれに当てはまる。
さて、それでは悪の定義とは?
または正義の定義とは?
などと反対に質問されると、明確な答えを出すのはとても困難である。

こういった事柄とは直接関係ないかも知れないのだが、邦題「ボーダーライン」を紹介したい。
物語そのものは難しくはないのだが、背景に潜む憎悪がこの作品のテーマを混乱させている様だ。
因みに原題は「Sicario」である。
スペイン語で「殺し屋」という意味である。

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この物語の核となるFBI捜査官のケイト(エミリー・ブラント)は女性ながらも正義感に熱い人物だ。
映画の冒頭からかなりショッキングな映像に目が止まる。
人が吊られたシーンや腐敗した遺体など、リアリティを求めた結果、目を覆いたくなる映像も多々ある。

突如、ケイトは国防総省のマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)率いるチームに抜擢される。
このチームに課せられた任務は、誘拐事件の主犯とされる麻薬カルテルのボスであるマニュエル・ディアスの捜査だ。

チームの中に無口で影がありそうなアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)をケイトは気になる様子だ。
それは無理もない。
目が鋭く、冷淡な顔で平然と相手の息の根を止めそうな雰囲気が漂うからだろう。

チームは国境を越えメキシコのシウダー・フアレスという場所に移り、カルテルの幹部であるディアスの弟を拘束している地元警察から引き取り、アメリカへ帰還しようと国境付近の高速道路に入る。

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移動中、緊張が走る。
その理由とは、道路が渋滞し身動きが取れない状態だからだ。
更に危険なのは、内部の警察官にも敵に雇われた者が交わっているからだ。

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少なくとも国境を渡るまで神経を尖らせていないとならない。
時には心理戦となる。
その場合、折れた方が負けだ。
即ちそれは死を意味する結果となるからだ。

左右を見渡すと、武装した車を確認する。
更に緊張が高まると、チームは油断を許す事なく相手の出方を観察する。
すると武装した車の方から仕掛けて来る。
車に挟まれた状態で銃撃戦となり、多くの民間人は流れ弾に当たらぬ様に身をかがめながら、銃弾が止むのをただ待つのみだ。

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この作品の要となるメインテーマは、汚職の他にも裏切りと復讐が交差する。

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ネタバレしない程度に種を明かすと、国防省のマットはマフィアを撲滅すれば他は関係ない。
一方のアレハンドロは国防省に雇われた臨時の工作員でしかない。
またアレハンドロはマット以上に野心家で、彼の過去を紐解くと、カルテルの大ボスであるアラルコンに妻と娘を殺害されたのだ。
こういった理由があって、アレハンドロは捜査に加わり復讐の時期を待っていた。

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しかし、ただ殺してしまうと合法ではなく違法となる。
そこでケイトをチームに加えた理由に隠された本当の意味は、FBIの権限を利用した限りなく灰色の捜査を企てた作戦でしかなかったのだ。
当然、マットはアレハンドロの気持ちを掬い取り操作に加えた。
先ほども述べた通り、マットには復讐など無関心なのだ。
必要なのは結果のみ。
そこでお判りの様に、最も割に合わないのがケイトである。

全て正義という名の偽善的な捜査に加担してしまったからだ。

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正直、この作品は万人受けする映画ではないのは確かだ。
最初から最後まで真っ当な人であれば腑に落ちない事だらけだからだ。
但し、個人的にはこれらが本当の現実だと思う。
現実から目を背けないといった、製作側の意図がこの作品に盛られているから個人的には好きな映画作品でもある。

いや〜、それにしても、エミリー・ブラント演じるケイトがマットとアレハンドロに利用されつつも、事実から目を背けない体当たりな演技はとても良かった。

そして何よりも、復讐だけに執着した冷酷なアレハンドロを演じたベニチオ・デル・トロの演技も最高に光っていた☆

またも個人的な意見を述べるならば、邦題である「ボーダーライン」はイメージ的に判りやすく考えられたタイトルだが、やはり現実味を優先させるのであれば、本題である「Sicario(スペイン語で殺し屋)」の方がより緊張が高まると痛感するのだが、どうだろうね…

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