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森博嗣『春』『夏』『秋』『冬』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.03.19 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

森博嗣さんのS&Mシリーズ『すべてがFになる』『有限と微小のパン』に出てきた天才・真賀田四季のシリーズです! 

期待通りに、S&Mシリーズや主人公犀川創平(と西之園萌絵)が描かれた四季シリーズとなっていて満足でした。

『春』四季が5歳から13歳になる年の春までの話。
『夏』四季、13歳。『すべてがFになる』の殺人事件の真相が明らかにされる。(高校生の犀川も一瞬登場)
『秋』その後の四季と、犀川&萌絵との再会を軸に展開。犀川の生い立ちも判明。
『冬』4部作の完結編。成熟する天才四季の内面をのぞく。

驚いたのは、シリーズでありながら、4冊それぞれの読み心地がまったく違ったことでした。

『春』

読み慣れるまでに苦労したのが『春』。当初、物語を語っている”僕” が、

奇数節の”僕”―多重人格である真賀田四季の中の「栗本其志雄」
偶数節の”僕”―四季の兄・「真賀田其志雄」の別人格である「透明人間」

であるという書き分けに気づけなかったため、”僕”のセリフの矛盾点に惑わされながら読み進めることとなりました。しかし、これが、天才のつかみ取れない感じなのかな……とも思わされました。

『夏』

『夏』は、恋とは、愛とは、生きる目的とは、欲望とは、後悔とは……、「自分の外にあるもので、自分の中に取り込めないものの存在」について、我々とは異なる時間軸にいる天才少女の思考に触れていくようでな一冊でした。

『秋』

『秋』は、ファンサービスの一冊。S&Mシリーズの犀川と萌絵のその後や、『夏』でも登場したVシリーズの保呂草潤平と各務亜樹良のその後、そして、瀬在丸紅子の登場と四季に関わってきた登場人物達がメインに動いて物語を進めていきます。その中で、自分中心の世界でのみ生きるしかない四季が浮かび上がっていく趣向でした。

『冬』

『冬』は、『すべてがFになる』『有限と微小のパン』における会話を断片的にちりばめられながら、彼女の内面がモノローグのように重ねられていく構成です。時間も空間も越えたところにいる四季、年も取らず百年後にも存在している四季であることが腑に落ちるまで、『春』と同様のつかみ取れない浮遊感で読み進めました。とはいえ、もしかすると四季は別人格として犀川を取り入れたのかも知れない、との思いに至った時、それは、四季シリーズで浮かび上がってきた彼女ならでの生き方の完成形であり、肉体が死んでも好きな人間を生かそうとする四季の神髄を見たような気がしました。