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星組公演『眩耀の谷』で浴びる謝珠栄ワールド!

面白いアイデアや素晴らしい作品を見つけると、私は図々しくも
自分にもこれが閃いた可能性があったか?
これは私の今後の創作活動に転用可能か?
ということを考える。

そして、昨日見た宝塚歌劇団星組公演『眩耀の谷』に関して言えば、私がどれだけ文献を引っ張り時代考証したとしても、どれだけ時間をかけて頭を捻ったとしても、絶対真似できないなと思う作品だった。

『眩耀の谷』は星組新トップスター礼真琴のお披露目公演として、宝塚ファン界隈で注目されている作品だが、演出家オタクの私は「激推し演出家兼振付師 謝珠栄先生の初の書き下ろし作品だと⁈」という観点からかなり高い熱量を持って劇場へ向かった。

謝珠栄作品との出会いは2013年の『月雲の皇子』そして2018年版『凱旋門』だ。

『月雲の皇子』は現月組トップスター珠城りょうの初主演作品であり、私が心酔する演出家上田久美子先生のデビュー作だ。
『月雲の皇子』については愛が深すぎるので、長文記事を別で書く予定だが、この作品の振付を担当していたのが謝珠栄先生だった。
古代日本の大和朝廷と対立する土着の民族「土蜘蛛」のプリミティブなダンスに釘付けになった。
宝塚のダンスってタキシードやドレスを着て優雅に踊るか、着物を着てしなやかに踊るか、軍服や甲冑を着てキレキレに踊るかのいずれかだと思っていた。
曲線的でいて、パワフルで、野性味を感じさせる土蜘蛛のダンスは私の宝塚観を覆すものだった。

そして、2018年版『凱旋門』は故・柴田侑宏先生が演出した2000年版の再演で、謝珠栄先生が振付だけでなく演出まで担当された作品だ。
第二次世界大戦直前のパリに集まった亡命者たちの物語で、全体的に静的な作品だが、やはり目がいったのはダンス。
ナチスの兵隊の逆立ちのような斬新な動きが脳裏に焼き付いた。

凄い!この振付師めちゃくちゃ凄いぞ!

あの、いかにも保守的な劇団で次々ダンス革命を起こしている。
なんなんだろうこの人…!と思って調べてみた。

謝珠栄
大阪府吹田市出身
宝塚歌劇団に57期生男役として入団後、わずか3年で退団し、NYへダンス留学。
帰国後、元いた畑の宝塚歌劇団のみならず、劇団四季、東宝、松竹、野田秀樹主催の劇団 夢の遊眠社など様々な劇団で振付師・演出家として活躍。
自身もTSダンスファンデーションやTSミュージカルファンデーションを立ち上げオリジナル作品を発表する。
台湾出身の父は在日華僑のリーダー。
2000年:第55回文化庁芸術祭優秀賞受賞(宝塚歌劇団『凱旋門』)
(Wikipedia参照)

あぁ…天才だ。
ここにも天才がいる。

中華系のルーツを持ち、アメリカで学び、ありとあらゆる劇団で腕を磨いた謝珠栄先生の宝塚への凱旋は、出戻りなのに黒船来航といった感じだったのではないだろうか…?

こんな華々しい経歴を持っているにも関わらず、宝塚ではこれまでオリジナル作品を作っていなかった謝珠栄の脚本家デビュー作が『眩耀の谷』だった。

古代中国を舞台にしたこの作品は、音楽も衣装も、そして踊りも、全て「本物」の中華を感じさせた。
こんな表現ができるのは、本当にルーツを持った人だけだ。付け焼き刃じゃどれだけ努力をしても手に入らない本物の表現だ…。

言語化しなきゃいけないのにできない…。

少数民族が群れになって踊るプリミティブな踊り
乙女たちが長い布をはためかせる優雅な舞
男達が血気盛んに踊る勇ましい剣の舞

そのすべてがあまりにも素晴らしく、私の筆力では語りつくせないのが辛い。
謝珠栄ワールドはリアルの場で浴びるように体感しなくては本当の良さが伝わらないんだと思う。

あえて辛口コメントをするとすれば、謝珠栄先生はどこまでもダンス畑の人なんだな、と思う。
『眩耀の谷』は中国の子供が寝る前に読んで貰っていた昔話の絵本みたいな感じの作品だ。
E.M.レマルクの長編小説を絶妙に削ぎ落としながら90分に綺麗に納めた『凱旋門』とは物語の厚みが違う。
また、『月雲の皇子』は古事記や日本書記に載っている昔話を上田久美子先生が膨らました作品だが、上田先生が自らの想像力を持って、会話や伏線を張り巡らせて昔話の空白を埋める一方、謝先生の『眩耀の谷』は昔話で持て余した尺をすべてダンスで埋めます!という感じだった。

多分、脚本家畑の人だったら2番手が演じた将軍を主役にして、断腸の思いで我が子を斬る葛藤とか、かつて愛した女の一族を滅ぼしに行く葛藤とか、とにかく葛藤を書くんだろうな、と思う。
というか私だったらそうする。
(もちろん宝塚のスター制度のピラミッド構造とか当て書き文化とかは存じ上げておりますけれども、うえくみの完璧すぎる脚本が一重に大好きなのです。)

脚本家畑の演出家と振付師畑の演出家の違いはこういう所に出るのだな、と思った。

『眩耀の谷』はダンスを見る作品であり、もはやショー。
でも、そこらのショーより圧倒的に凄みのある本物のエンターテイメントショーだ。

最後に、謝珠栄先生の振付って宝塚界で一番難しいと思っていて…。
あの振付で一糸乱れぬ群舞ができる星組、レベル高すぎない?!

星組作品、1番見ている回数少なかったんだけど、よかった魅力に気づけて…!
2番手の愛月さん、フランツ・リストの時から密かに推しているし、これからは毎公演いかなきゃ!と思いました。

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