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パッケージデザイナー向け金型知識~その4~

金型の話が長々伸びています。どうしよう。どうもウチダです。
前回の話では以下のようなざっくりとした抜き勾配の目立たない型の抜き方を紹介しました。
正直文章を1~2行書いた程度でイメージを伝えるのは非常に難しいので、今回はちょっと図をつけて見ようと思います。お付き合いください。

■抜き勾配の目立たない型の抜き方6選

1.勾配が付く面を曲面にする
 →スパッとしたモダンなイメージにしづらい
2.思い切ってガッツリ六角柱形にする
 →割とゴツゴツする。男性的な印象になる
3.ギリギリまで勾配を小さくするよう打診する
 →不良率が上がったり歩留まりが悪くなる可能性が上がる
4.型が開く方向に製品の深さを浅くする
 →形状が限定される。容量を保てない。
5.秘技斜め抜き
 →抜き深さが深くなり、抜けにくくなる
6.奥義スライド型
 →最強の奥義。かなりわがままが効くが、とにかく価格が上がる。

上の6つを紹介しました。一つ一つ見ていってみましょう

1.勾配が付く面を曲面にする

上の図のように、型の抜き方向に平行な面(赤い部分)を曲面にしてしまいます。特に曲線の最も凸になったところに型の割りをつければ、理論上型は成形品に引っかかりません。
曲面は数学的に、面には線で、線には点で接するのみですから現実的に成形品が型にへばりつくことはありません。

プロダクトデザインの領域では、意匠的な効果も含めてこのようなR面を「張りR」や「張り面」なんて呼んだりします。
厳密には、肉眼で見た平滑面がヒケたり、痩せたりして見える現象を抑えるため、あえて平面部分に曲面を凸に張るという意匠的技術です。この「張りR」技術に加えて円弧の数学的性質を、型を抜く勾配として使用する方法がこの1番の方法です。

個人的には非常に無難でポピュラーな解決策だと思っています。
ただこの場合、円弧の最凸部分に型の割り目の線(パーティングライン:通称PL 以下PLとする)が通るため、一番張り出したところに妙な線が入っているという状態を避けられなくなります。(この線を全力で目立たなくさせるのが腕の見せどころです。)
また、言わずもがな垂直面ではなくなるため、モダンでスパッとしたイメージにはなりにくくなります。


2.思い切ってガッツリ六角柱形にする

この方法は潔く六角形にして「もともとそういう形でしたよ」というごまかし方です。宮迫さんのCMでお馴染みのスカルプDという男性向けシャンプーのボトルはこの六角形にする方法を使用している例です。(※画像1)

(画像1)

この六角形にする方法を使うと、六角形の角にPLが通るため、PL目立ちにくくなります。男性向けの商品やなんとなくスポーティだったり、ダイナミックなイメージの商品では使いやすい方法になります。
反面女性的な曲面形状や、たおやかでラグジュアリなイメージのモノには使用しにくい欠点があります。

3.ギリギリまで勾配を小さくするよう打診する

この方法はパワーオブパワー方式です。パワー系営業マンよろしく、外注先のエンジニアさんの足をなめてでも、無理を通して貰おうという作戦です。
代案もなくぶっこむと100%苦い顔をされる方法ですが、ある意味一番手っ取り早く効果的な方法ではあります。
ただ僕がエンジニアなら、この手の無知なクライアントのお願いは手八丁口八丁でごまかしてなんとしてでも阻止しようと抵抗すると思います。
裏返すと、こちらの知識や交渉力が試される方法と言えます。
この方式を通す場合は

・無知を認める
・難しい事をわかった上で頼んでいるという態度を示す
・自分なりに考えた意見やアイデアを話す
・上記どれでも無理そうなら、どうすればこの条件を通せるか聞く
・めっちゃ大口契約である→無理してでも外注先にメリットが有る

このあたりの条件の最低一つはクリアしておく必要があると思います。
リスキーですが、成功すればクオリティが上がるないしは、もっといい方法を教えてもらえます。


4.型が開く方向に製品の深さを浅くする

これの方法は文章だとすごく分かりづらいですね。型を浅くするというのは、上の図のような感じで、製品の高さを低くする方法です。
こうすると勾配面の長さが短くなるため、勾配がついていても目立ちにくくなります。更に例を挙げます。

上の図では、aもbも同じ長さ、同じ角度です。
が、高さが違うだけでこのくらい別物に見えます。右のほうがはるかに勾配面が目立っていますね。例えば左の図を更に低く薄くすると、勾配面はほとんど目立たなくなります。なので、比較的製品の高さが低い場合は勾配は目立ちにくくなります。


5.秘技斜め抜き

この方法は結構器用な方法です。故に秘技です。知っておくと結構頭良くなると言うか、意外とアイデアを諦めずに済むようになります。

単純な原則としては、どうしても勾配面を見せたくない方に勾配をつけず、代わりに向かい合った面(図の赤い部分)に予定した勾配の二倍の勾配を付けます。んで、型(というよりは製品)を予定勾配の角度傾けて抜きます。
こうすると、結果的に両方の面に予定勾配をつけたことと同じ状態を作れるため、型を抜きつつ勾配面を片面だけなくすことが出来ます。

例としては、Vitra社が「パントンチェア」(※画像2・3)がこの方法で抜いてるんじゃないかと思われます。おそらくですが…

(画像2)

(画像3)

おそらく画像3の角度で品物を傾けて型を抜いていると思います。
それ以外の方法だと間違いなく引っかかります。後は次に説明するスライド型や割型の類でないと型が抜けないと思われます。やたら高価なイタリア家具の中では、比較的安価な商品であることも考えるとスライドとか複雑な型は使ってないと思いますが…


6.奥義スライド型

コイツはほぼ最終奥義です。スライド型というのを簡単に説明すると、変形合体する型です。

この図では、勾配を付けたくない面に接触する部分を、小さな別の部品にしてしまい、その部品を引っこ抜く(スライドさせる)ことで無理やり抜けない型を抜いてしまう技です。
(ちなみにこの図は説明のために描いたものですが、これでは多分抜けません。)

この金型は金型屋さんの技術の粋を集めたもので、かなりの精度を要求されます。必然的に型の価格は上がります。
また型が動くという都合上、摩擦による劣化が激しく、保守料金もかさみます。型自体が複雑な加工、設計になるため納期も長く取らなければなりません。
制作で手間暇がかかっている上に管理も大変な型なので、よほど予算がない限りは最終奥義に取っておいたほうが良いと思います。

コイツを地で行ったのが「初代iPod shuffle」です(※画像4の一番左)

(画像4)

コイツのヤバさについては別の記事を書こうと思うので、そのときはよろしくおねがいします。


以上が、6つの詳細な説明になります。
かなり長くなってしまいましたが、読んでいただけると嬉しいです。

それではお休みですー。


(トップ画像:https://www.kai-wai.com/area/atsubetsu/2436
 画像1:http://scalp-d.angfa-store.jp/
 画像2:https://designkagu.com/SHOP/5164127.html
 画像3:http://www.ricasa.jp/detail/000901.htmlを加工
 画像4:https://ja.wikipedia.org/wiki/IPod_shuffle)

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