天浜線の転車台3.

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さあいよいよ、見学ツアーが始まる。こっからが本番ってんで駅に戻ると、ガイド役の加藤さんという元気のいい女性職員さんが将軍KY若松さん風にメガホンで案内をしてくれる。マスクした上に声を張ってメガホンだから大変そうだが、このお喋りが軽妙かつ、なかなかお上手で聞いてて楽しいのだ。
並のローカルタレントよりよっぽど喋りが立つぞ加藤さん。
小さなお兄さんが来ているのを見つけて
「お兄さん、こんな時なんていうのかな!?しゅっぱーつ!?」
進行!と言って欲しかったらしいが、小さなお兄さんは照れてしまってお父さんらしき男性の影に隠れてしまった。仕方がないので
「じゃあコッチの大きなお兄さんたち、しゅっぱーつ!?」
コッチに振って来た。
「進行!!!!」
と元気よく抑え気味のトーンで叫ぶ大きなお兄さんたち。私以外にも何人か、ちゃんと進行!してくれた。声を張り上げるにも気が引ける世の中だが、元々こういうイベントに順序良く参加する鉄道マニアは声を張り上げたり怒鳴ったり列に割り込んだりしないので大丈夫なのだ。

さてここでも天浜線の歴史や現在などのお話を聞きつつ、順にツアーをめぐる。古い駅舎、かつて使われていた給水塔、社屋や駅員さんのお風呂場(蒸気機関車の頃は石炭で真っ黒になってしまうんでお風呂場があったのだそうな)には、車両に付けるヘッドマークが色々と飾られていた。ヘッドマークいいよな。プロレスラーで言えば覆面のようなもので、やっぱりコレが先頭車両でまあるくペカペカ輝いているとワクワクするね。
ブルートレインとか特急列車なんかも、図鑑で各車のヘッドマークを見るのが好きだった。

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そして今回のツアーの、はしだのりひこ…ではなくクライマックス。お前は夜汽車にでも乗るつもりか、というハウフルスっぽい繋がりの選曲。

線路に車両を乗せたまま回転させて方向転換する転車台。

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日本でも数少ない現役稼働中の転車台である。転車台の跡だったか何かは武豊にもあったはずだが、ここは今でも動かしている。私もきかんしゃトーマスぐらいでしか見たことなかったんだけど、これが見たくてココまで来たのだ。
凄いよ、扇形車庫と転車台の組み合わせ。

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要するに蒸気機関車は猪突猛進、前にしか進めないのでコイツに乗せて方向転換させてあげなきゃならなかったんだな。
でも最近の機関車や鉄道車両は両方向に運転出来たり運転席があったりして方向転換が容易になっている。なので転車台自体も減って珍しくなったんだけど……ここ天竜浜名湖鉄道さんの本社車庫では現役稼働中。しかも別に文化財だから仰々しく動かしてカネ儲けに使ってるんじゃなく、フツーに日常業務に使用しているのがまたいい。
単純に施設が古いので整備や洗車をするのに使わないとそこに入れないってだけらしい。この辺りの軽い自虐や洒落を交えた加藤さんのガイドで、時に感嘆し時に笑い、時に新たな知見を得て。楽しく見学出来ました。
いやほんと、加藤さん、下手なラジオパーソナリティより喋りがうまいですよ。YouTubeとかネットでラジオやってる人は見習うといいと思う。軽すぎず硬すぎず、資料館の見学中は邪魔にもならず、ずっとちゃんと喋ってくれてるからそっちの勉強にもなる。

転車台の裏手には古い建物を……古い古いと書いているが、良くも悪くも古い建物を基本に形成された場所なので当たり前っちゃ当たり前なんだけど、ホントに、何十年も使い込まれて、こうじゃなきゃ出せない風合いが染みついてにじみ出ていて、いい場所なんだココが。
で古い建物を改装した資料館がある。ツアー中にしか見れず、他のお客さんもいるので(この日は二十人ぐらいいたと思う)ゆっくりじっくり見られなかったけど、これも面白かった。当時の道具、機材、駅名標から空襲警報の看板まである。

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いま液晶画面や電光掲示板、下手するとスマホにアプリを入れてリアルタイムで見れる情報が、当時は全部、手書きで人力だったわけだ。というか、いま34歳の私が子供の頃も、まだそんなに変わらなかったと思う。列車の到着時刻を示す案内板だって、真ん中に時計があって、数字を書いた板がパカパカ回るやつだったし。夜もヒッパレ!みたいなアレね。

これだけたっぷり見て350円。天浜線ご利用でお越しの場合は250円。安い。安すぎる!
鳳来寺山の自然科学博物館も安かったが、ここも破格である。これで文化財やらひとつの鉄道路線そのものや周辺の生活・歴史を知ることが出来る。
こんなに豊かなことはない。
天竜浜名湖鉄道さんありがとうございます……!楽しかった。ほんと、いいものみたし、いい話を聞けた。

長年、格闘技ファンと鉄道ファンをやってて(ほかにも趣味興味は色々あるけど)この二つに関しては
追いかけるタイプ

さかのぼるタイプ
が居て。私は後者だと思う。格闘技は結局たいして強くならなかったけど、例えば一つの技や選手、流派の歴史なんかを知るのが楽しいし、鉄道にしても新型車両に乗りたい!とかよりは、この路線はこうで、この車両にはこんなことが…ってのが楽しい。
なので、それこそ戦前から歴史があって、もはや半分おとぎ話みたいなエピソードに事欠かない天竜浜名湖鉄道さんはとても魅力的なコンテンツであり、それが今でも沿線の生活を支えるインフラでもあり、なんというか、こういう会社、路線、あらゆる施設設備とそれに携わる人々がフツーに存在出来て豊かに生活できるってのが真に豊かな社会だとも思う。
ハナシが大きくなりそうなので「路線変更」もとい元の線路に戻りまして。

帰りは都田(みやこだ)駅で途中下車してカフェで紅茶を頂く。

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都田駅は…なんというか駅舎の8割が既にカフェなのだ。
天竜浜名湖鉄道は何処までもアタマが柔らかいというか、ローカル線のなりふり構わない駅舎の活用法って感じで好きなんだけど、ココや新所原駅のウナギ屋さん、天竜二俣駅のホームラン軒さん以外にも駅舎にフレンチレストランがあったりパン屋さんが入ってたりする。かと思えば何十年も時間が止まったような駅舎もあって、この混交具合がまた妙味でもある。寸座駅なんか、小さな無人駅だけど浜名湖が一望出来て、いいロケーションだもんな。
豊橋鉄道さんも渥美線の駅でやってみてはどうだろう…?昔ゃ南栄駅にミスドが入ってたりしたけども……田原市にトヨタ自動車があるうちに、神戸(かんべ)や豊島、やぐま台あたりを……。

で都田駅の駅Caféさん。

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駅舎の8割を占めるアートの展示やオシャレな自転車、ホームに隣接したテラス席。美味しいコーヒーや紅茶。若い頃の三田村邦彦さんみたいなシュっとしたハンサムな店長さんが居るお店です。

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私はハニーブッシュティーというのを頂く。アフリカの茶葉を使ったオーガニックティーらしい。これに分厚くて美味しいクッキーが付いて550円。
いま値段を確かめに検索してHPを見たけど、よーわからん。とりあえず北欧でマリメッコでドロフィーズでブレーンバスターでパイルドライバーらしい(横文字を並べときゃいいってもんじゃねえぞキッド)。
難しいアートだコンセプトだはサッパリわからんが、とにかくこのハニーブッシュ紅茶とクッキーが美味しくて。クッキーはお土産に販売もしているので、お茶味とプレーンの二種類を買って持ち帰ったぐらい。
正直言えば、私の普段の生活からするとオシャレ過ぎて、この手合いのお店の、この手合いのムードって乾燥したハーブに近寄れない小さめの昆虫みたいに感じるタイプのお店(イケ好かないってハッキリ言えよ)で、近所の大豊ビルにも、こういうオサレコンセプのお店が増えてて、そこが不安でもあるんだけど……これが日常を離れてしまえば、
あっ、こういう空間も、いいね
何て言えてしまうから、まあ結局あいまいな感覚なのだろうな。自分の知った場所なら別になんてことないんだもん。行ってみればわかる。迷わず行けよ、行けばわかるさ!

都田駅から新所原、豊橋駅まで帰って来た。
かつては、ここから二俣線として、あの線路、あの町に繋がってたんだな。
駅から東西に延びる線路を見て、いつも、アレを辿って行けば横浜でも広島でも、何処でも行けるって凄いな!と勝手にドキドキしていたガキのころの私が、また一つ知らない町を歩いて、物知りになって戻って来た。
今度は何処へ行こうかな。早く何処へでも安心して向かえる、そして、こういう文章を書くのにイチイチ見えない何かを気にしなくていい世の中になるといいな。

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