日髙敏隆「動物と人間の世界認識」(2007)

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ユクスキュルの「環世界(Umwelt)」を日本に広めた、動物行動学者の草分け・日髙さんによる、”動物と人間の世界認識”の違いについて平易な文体で述べられた入門書的な一冊。

「環世界」とは、私たちや動物それぞれが、「まわりの環境の中から、自分にとって意味のあるものを認識し、その意味のあるものの組み合わせによって、自分たちの世界を構築している」(p38)ような世界のことです。

私たちは、客観的な世界を生きていると思いこんでいます。例えば、同じモンシロチョウを見ているとしましょう。私たち人間は、それがオスであろうとメスであろうと、白い羽根に黒い模様が入ったのが「モンシロチョウ」だと思っています。しかし、モンシロチョウの目から見ると、これが全く異なる色に見える――モンシロチョウには紫外線が見え、そしてモンシロチョウのオスは「紫外色」とでもいうべき色をしています。モンシロチョウには、私たちが絶対に見えない色の世界が見えているのです。

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こうした、それぞれの動物が、自分にとって意味のあるものを認識し、それによって世界が構築されているのだ、つまり「客観的な世界は存在しないのだ」と述べているのがユクスキュルの環世界論です。

この本を読んでいると、不思議な感覚にとらわれます。「紫外線」が見えている世界とは、一体どのような色をしているのでしょうか。昆虫の触角や前肢は、触れるとその場所の化学的性質(においや味に近いだろうと想定されるもの)がわかるそうです。全く僕たちの知らない、五感とも全く違う「なにか」を感じられる世界とは、一体どのようなものなのでしょうか。逆に言えば、私たちは五感しかありません。動物たちが構築する環世界は、私たちの感覚自体を問い直させるような、スペキュラティブな心象を起こさせる魔力を持っています。

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そして環世界論は、動物学的な「多元主義論」でもあります。「私たちは同じひとつの世界(One-world world)」に生きているのではなく、全く異なる世界に生きているのだ、というのが多元主義論ですが、動物の種族ごとにだけではなく、同じ人間である私たち一人ひとりが構成する「環世界」も、きっと本当は全く異なっているはずです。私たちは、全く異なる世界に生きている。本著はその前提に立つことを要請する、とても示唆的な一冊ではないでしょうか。


19/10/31
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