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没落脚本家(短編小説)

「明日までに、映画の脚本を仕上げないといけないのに!1ページも!出来ていません!終わりです!」

「高らかにそう宣言されてもですねえ…。」

会議室で向かい合う2人。かつてクリエイター集団として名を馳せたこの事務所も、今や社長兼脚本家の滑川とマネージャーの似鳥の2人しかいない。クリエイターは1人、また1人と離れていった。それははっきり言って、滑川の才能が劣化したからであった。

「かつての人気シリーズのリメイクはどうですか?時間もかからないし…。」

「もう権利も売ってしまっているじゃないか。残っているのはこの建物だけだよ。それも、次の映画がヒットしなければ売らなければならないだろうね。」

「そ、そんな…。とにかく何か書いてくださいよ!」

「思いつかないんだよ!何も!何年脚本家やってると思ってるんだ!もうアイデアなんか1つもないよ!絞って絞って絞り出したから、俺の脳みそはカラカラだよ!」

滑川が子供のような駄々を捏ねるのは、決して彼の先天的人間性のせいではない。自分の才能が枯れた事を認めた先にある、壊れなのだ。

今はこうだが、かつては日本映画界に滑川という名前は轟いていた。どこへ行っても、貴族のような扱いを受け、気が狂うような額をかけたパーティーに毎晩顔を出していた。脚本家としては、大袈裟な台詞回しが特徴の派手な作品ばかり書いていた。何を書いても売れた。滑川の書く文字は、金そのものだった。

その調子乗りの果てに作られたのが、クリエイター集団だった。面白いじゃん、というノリで訳のわからない人物を受け入れた。「まだ理解されない才能を保護して育てるのがヒットクリエイターの社会的責務」という言葉をアルコール無しで言う事が出来た。今では、ウイスキーを瓶ごと空けてもこんな言葉は出ないだろう。

調子乗りの果てに、人としての心を失い、ヒット作が書けなくなった。同じようなものばかり書いて成長しなかったので、気がつくとジリ貧になっていた。クリエイターたちも、泥舟から逃げ出すように居なくなっていった。高い物は全て売った。割と金になった所を見ると、高いものを買うのは投資としても役に立つのだなあ、という事を実感した。かつての自分に食わせてもらっているようなものだ。

驕る平家は久しからず、という言葉の通りだ。今の自分には、何もない。ただ指を咥えて明日を待つ事しか出来ないのだ。しかし、それがなんだか嫌じゃない。今はとても穏やかな気持ちだ。運命を受け入れる覚悟ができた、という事なのだろうか。

…。

「という内容の脚本なんだけど、売れると思う?」

「いやあ、絶対無理だと思いますよ。誰がおっさんの失敗談を見に映画館行くんですか。」

「だよなあ…。」

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