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パーティー・アニマル(短編小説)
パーティー、なんのためにあるんだ?
誰かの鶴の一声なのか。世の中には、自分の思っている以上のパーティー需要があるのか。でも、服屋の店員がよく言う、「ちょっとしたホームパーティーなんかでも着られる服ですぅ」のちょっとしたホームパーティーなんか1度しか呼ばれた事ない。あれは要するにちょっとした合コンだった。参加費まで取られて知らない女にイジられるという、地獄の空間だった。しかも、全員ラフめの格好をしていた。畜生、詐欺じゃないか。
自分にとってパーティーは何の意味もないもので、ある種世の中にボコッと突き出たバグのようなものだと思っている。それなのに、今僕はパーティーにいる。世の中とは、とても不思議な場所だ。
ホテルの広間を貸し切って行われたパーティーは、だらけきった空気が蔓延していた。野良猫の井戸端会議みたいな、しょうもない空気だ。食べ物と飲み物はまあ美味いが、参加料1万円に見合うかと言われれば疑問だ。髪の毛を糊で固めたような男と、歌舞伎役者みたいな女しかいない。そして、野良猫の縄張り争いみたいなぎこちない会話が続いている。ここは猫カフェだったのか。
「やあ、楽しんでる?」後ろから声がかかる。ここに僕を招待した男だ。学生時代の友人で、今は政治家の秘書をやっている。
「まあ、それなりに。」
「相変わらずクールだなあ。人生もっと楽しまなきゃ。ああそうそう、後で先生にひと言ご挨拶してくれよ。先生、お前の会社のロボット技術に大層興味があるみたいなんだ。」
「ああ、分かった。」
彼はにこやかに手を差し出した。僕が握手に応じると、彼は途端に距離を詰めて、耳元で囁き始めた。
「人の見てる手前ああ言ったがな、挨拶なんかするな。金なんか全部むしり取られるぞ。」
「え?」
「挨拶したら、先生は必ずお前にパーティー券を買わせ続ける。そして、他の連中と競争させて、もっともっとパーティー券を買わせる。そして残った数人だけ美味しい思いをさせるんだ。お前の資金力じゃ、他に勝てない。養分にされるだけだ。」
「じゃあこのパーティーの意味って…。」
「集金だよ。選挙には金がいるんだ。」
そう言うと、彼は僕から離れた。「まあ、そういう事だ。」ニヤニヤと笑いながら、言葉をつづける。
「なるほどなあ。みんなパーティーしたがる訳だよ。儲かるもんなあ。」
「国からの金より、よっぽど確実な収入源さ。」
「でも、政治家くらいだね。パーティーで金儲けしてるのなんて。」
「…昔お前をホームパーティーという名の合コンに呼んだだろう。実質合コンの。」
「ああ…。お前、まさか。」
「参加費の差額、ありがとうな。家賃にさせてもらったぜ。」彼はそう言うと、どこかへ消えてしまった。
私は呆然としてしまった。ふと、自分の手に何か握られているのに気づいた。さっきの握手の時だ。見てみると、1万円札だった。私はそれをポケットに入れると、黙って会場を後にした。
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