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世界の終わり(短編小説 過去作品と同内容)

世界が滅ぶ事を知ったのは、Twitterでレスバトルをしていた時だった。

相手が急に反論してこなくなったので、思いっきり煽っていたら、TLがそれどころではなくなっていた。よく分からないが、巨大隕石が落ちてくるらしい。マジか。

それにしても、普段不幸を垂れ流しているアカウントが、死にたくないと呟いているのは滑稽である。普段、あんなにこの世界を憎んでいたじゃないか。その点、僕は違う。世界が滅ぶというのに、心は澄み渡っている。人生でここまで上機嫌なのは、初めてかもしれない。

しかし、その上機嫌はすぐに消えた。やる事がないのだ。普段はアルバイトで食い繋ぐフリーターだが、もうその必要も無くなった。バイトなんか死んでも行くものか。とはいえ、やる事があるのかと言われれば、ない。

突然、電気が消えた。電力会社の人間が、仕事を投げ捨てたのだろう。そりゃあそうだ。地球が滅びるっていう時に、仕事なんかしていられない。電力会社の人間で、電力会社で働きたいと心から思っている人はかなり少ないと睨んでいる。

しかし本当にやる事がない。Wi-Fiもないので、インターネットも見れない。この分だと、ガスも水道も止まっているだろう。小腹が空いたのでカップラーメンを食べようと思ったが、それすら不可能だと気がついた。寝るくらいしか、やれる事がない。

仕方ない、寝るか。

…。

気がつくと、もう夜だった。外のどんちゃん騒ぎで目が覚める。窓を開けてみると、道路はもう飲み会をやる若者で占拠されていた。最後に酒を飲んで騒ごう、という魂胆だ。現実逃避ともいう。馬鹿な連中だ。しかし、彼らからするとこうやって昼寝をして時間を浪費する方が馬鹿なのだ。個人的には、昼寝は最高の娯楽なのでその指摘は当たらないが。とにかく、ここまで過ごし方が別れるか、とびっくりした。

真っ暗な部屋の中で、僕は体育座りをして待った。隕石を待った。早くこないかなあ。待ちきれないよ。子供の頃、サンタクロースがまだいると信じていた頃のようだ。とにかく、僕は隕石を待った。終わっている人生を終わらせたかったのだ。

夢もない。希望もない。自信もない。頭も良くない。最悪の四連コンボが揃ってしまった僕の人生。隕石は、それを全てなかったことにしてくれる。桃鉄の徳政令ガードみたいなものだ。それってつまり、最高という事だ。

人類は破壊と再生で過ごしてきた。いや、地球全体がそうだ。そして、宇宙の中でも、そうだ。地球が壊れたって、きっとまた新たな惑星ができるのだ。願わくば、地球消滅の話が出てた時に、Twitterでレスバトルするような生命は作らないでほしい。今までの思い出も、やりたかった事への後悔も、ないもない。バウムクーヘンのように、歳を重ねても中心は空洞なままだった。

飯も作れないので、体操座りで待っていると、ようやく隕石が近づく音が聞こえてきた。悲鳴や哀願を無視して、ぐんぐんと来ている。

一方俺は、また眠ろうかと画策している。眠った状態じゃ、熱風にさらされる感覚は味わなくていいからだ。

とにかく、こうして俺の人生は終わった。人生の終わりなのに、千文字ちょっとでこの状況を説明できる。これ、この世界に俺いなくても良くない?

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