2拠点生活のススメ|第140回|長生きって何のため?

老人ホームにいる父から、慌てた様子で電話があった。

何やら大変だというのだが要領を得ない。最初はビックリしたのだが、良く話を聞いてみると、体重計の電池を交換したら動かなくなったということのようだ。

父の持っている体重計は、体組成計付きのもので体脂肪やBMIなどいろんな数値を測れる。父は毎朝この体組成計に乗り、すべての数値を長年に渡って事細かに記録している。この記録が途切れてしまうことは、父にとっては一大事なのだという。

なんだ、そんなことかと一安心。

しかし、父は私のそんな態度が気に入らないらしい、父には深刻な問題なのだ。

とにかく体重が測れないので困るの一点張り、どこかで体組成計付きの体重計を買ってきて欲しいという。見に行ってやりたいが、コロナ禍においては、家族と言えども施設内の立ち入りは禁止。電池の問題だと思うから、取り急ぎ施設の介護士さんに見てもらうよう説得。ダメだったら、買って、すぐ送ってあげるからと電話を切った。

その後、数日経つが連絡が無いので、多分解決したんだろうな。


父は今年90歳。

電話をするとカラダの不調をいろいろ訴え、もうダメだとか、長くないとか言うのだが、介護士さんに話を聞くと「お元気ですよ」と言われる。いろいろ持病はあるにはあるが、まだ一人で何でもできるし、認知症というほどでもない。

前に体調管理の表をエクセルで作っていると自慢げに見せてくれたことがあった。よく見ると、プリントアウトされた表に手書きの数値が書き込まれている。どうも表だけをエクセルで作って、数値は手書きで書いているようだ。自慢げな父に「パソコンでデータを残したら」とは言えなかった。きっと紙に記録されていないと信用できないんだろう。

まあ90歳でパソコンを使えるのだから、それだけでたいした物とも言えるのだが、一方で困ったこともある。

とにかく、少しでも体調が優れないと、インターネットで自分が当てはまる症状を片っ端から調べ、突然 脳梗塞かもしれないなどと言い出す。インターネットで見つけた記事を信じ込み、医者の大丈夫という診断に文句を言う。普通は医者に大丈夫と言われるとホッとするものだが、機嫌が悪くなるとはいかがなものか。

確かに施設に巡回してくるお医者さんは、忙しいので元気そうな患者の話をじっくり聞くほど暇では無い。医者がまともに相手をしてくれないという父の気持ちも分からないでもないけど、せっかくインターネットができるんなら、もっと楽しいことに目を向ければいいのに、なかなかそうはいかないようだ。

たまには、連れ出して気分転換させてやりたいが、コロナ禍ではそれも難しい。


長生きというのは、必ずしも幸せとは限らないのだろうか。

長生きには、健康だけでは足りないものがあるようだ。

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