The story of a band ~#42 rolling stones ~
7月18日。地元横手市にある『mock』というlive barで、dredkingzはライブを行った。
mockは、かつて駅前にあり、dredkingzの宣材写真を撮ったところであるが、事情により移転していた。そこでは、若手バンドを中心とした企画が奇数月に1回のペースで行われており、店長は、そうした企画に対して快く場所を提供してくれていたのだった。dredkingzも出演をこちらからお願いしたところ、企画者から了承されたのである。
地元でのライブは非常に珍しく、かつてお世話になった場所ということもあり、是非レコーディング前に出演してみたいと思っていたのである。
おしゃれなバーであるが、きちんとステージや機材が用意されており、防音設備も問題ない。正面はプロジェクターで映像が映し出されるので、演出にはもってこいだ。
ライブは、数組が出演し、初めてdredkingzの演奏を見た人もいた。ライブは盛り上がり、今後も地元ライブをしたいと思わせるものであった。
「いやあ、地元にもこんなかっこいいバンドあったんですね~!」
「CDあるなら、ください。」
「また、やってくださいね!」
そうした声は、更に自信へとつながっていく。
dredkingzがレコーディングで東京に行くことが分かっているため、荻窪club doctorの店長ブッキーから今河に提案があった。
「レコーディングあるなら、ついでにライブやらない?」
つまり、1日目はライブをやり、2日目はレコーディングという計画だ。
「いやあ、おもしろそうだけど、俺ののどが心配だなあ。次の日のレコーディング大丈夫かなあ(笑)。」
ボーカルとして最高の歌を録音したいと思っている仁志だっただけに、前日のライブは少し心配だった。それでも、喉のコンディションをなんとか保つようにすると決め、今河にライブの出演承諾を伝えた。
8月。蒸し暑い東京。新宿の宿泊先のビジネスホテルに到着し、荷物だけを預けると、早速荻窪に向かった。見覚えのあるライブハウスのはずなのに、新鮮さを感じた。
ライブには、かつて北千住のDandelionで共演した相葉が客として来ていた。更に、結成当初のECHOESギタリストであった丘もいた。丘は今回のライブの出演者でもあった。また、今河の大ファンであるという榎本も出演者であり、交流の輪は幾重にも広がった。
今回の東京ライブは、新生dredkingzの初陣。
「バンド力を見せたい。」
そうした誠司と仁志の思いは、今度こそ客に届けたかった。今河オンリーのバンドではない。
明日に控えたレコーディングの心配など一切せず、全力のパフォーマンスをした。
思いは形となって表れた。
これまでとは違う気迫が、相葉に感じられた。dredkingzの演奏に対し、相葉は、「なんか、金の匂いがする!」という最高の褒め言葉で評価した。つまり、相葉によれば、dredkingzは金の取れるバンドに成長したと言うのである。
丘もdredkingzの良さを高く評価していた。
「いやあ、また一緒に演奏したいよね!お世辞抜きでかっこよかったよ!」
ライブ後は、販売用CDも手作りのステッカーも完売し、楽しい打ち上げとなった。
翌日の午後。MV撮影のために必要なレコーディングがエンジニア磯部のスタジオで行われた。
一曲だけのレコーディング。数曲のレコーディングも可能であったが、この一曲にすべてを懸けたいという強い思いがそうさせた。
木造のおしゃれなスタジオを再び訪れ、誠司も仁志も感無量だった。一度止まった時計が、また動き出したように感じられた。
「では、始めに皆さんでプリプロ(※仮録音のこと)しますんで、各自セッティングをお願いします。」
通常レコーディングは、各パート別で行い、ミックスダウンするが、このときは、滞在時間の延長はできないため、ミックスダウンを完了する時間も含め、より効率的にレコーディングを行う必要があった。一斉録音である。
ミステイクすることも考えられるが、何度も演奏している曲なので、「ミステイクはほとんどないはずだ」と4人とも自信があった。
一斉録音し、もし気に入らない部分があった場合は、修正も出来るので、この曲のレコーディングだけであれば十分可能であった。
準備が整った。今河と神崎、誠司と仁志の二手に分かれ、それぞれのブースから一斉録音を行った。
録音はあっという間に終了。
「さすが、もう、手慣れてますね(笑)。よかったんじゃないでしょうか(笑)。こちらで一回聴いてみましょうか。」
磯部がにこやかに言った。
磯部が録音したばかりの曲を流す。4人は、ソファに座りながらじっくりと耳を傾けた。
誠司も仁志も一発で「おお~!」という手応えを感じた。
「どこか修正したいところはありますか?」
「俺のAメロのベースラインをもう一回録り直したいんですが・・・。」
「分かりました。」
神崎は、ベースラインの部分を修正。数回練習した後、再度録音。納得のいくベースラインとなった。
その後、ボーカルの録音となり、時間をかけることなく、終了した。前日のライブによる喉の不調は一切なかった。それに、以前と比べ、歌は安定しており、技術力が格段に向上していることが仁志自身感じられた。
全体的に特に問題点はなく、磯部のミックスダウンの時間となった。たった一曲でもミックスダウンには多くの時間を要する。その分、磯部のエンジニアとしての手腕が作品をさらに素晴らしい作品にする。
ミックスダウンが終了した。時間をかけてミックスしてくれた磯部には、感謝の言葉がいくつあっても足りないくらいであった。今後もきっとお世話になることは間違いない。
「はい、おまちどおさま。できたばかりの音源。4人分録音しましたので、もし、あとで修正が必要なときは連絡下さいね。」
できたばかりの音源入りCD-Rを手にし、皆、充足感に満たされた。
その後、今河は、別の宿泊施設のため、誠司・仁志・神崎の3人とは別行動となった。
3人は、飲み屋で今回のライブやレコーディングを振り返った。今後の様々なアイディアが浮かんでくる。
23時。飲み屋を出て、宿泊施設に向かう。
日中の蒸し暑さは大分マシになっていた。
「転がるなら、どこまでも転がり続けてやるよ。」
決意に満ちた思いを胸に、東京の夜の光は、これから続くバンドの行く先を照らしてくれているかのようだった。
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