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The story of a band ~#45 決意の背中~

3月30日に行われるライブに向けて、最終調整が行われていた。ライブを想定した音楽室での通し練習も、残すところ終盤に近づいている。

そんな時だった。

「ごめん、何かさ、曲数減らしてほしいんだけどいいかな?」

今河からの提案だった。

「えっ?どうしたんですか?」

3人は、今河を見ている。

「なんか足が思うように動かなくて。ほら、貧乏揺すりみたいに聞こえるでしょ?」

(ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド・・・)

確かに曲が終了し、次の曲に移ろうとするタイミングでバスドラが小刻みに鳴っている。わざとではない。しかし、今河の右足は、痙攣しているかのようにペダルを踏み続けていた。

「どうしても、『Stay』とか『Naked king』みたいなローテンポの曲でうまく動かないんだよね。」

今河の提案を受け、新曲『Naked king』をやらないことにした。『Stay』は唯一のバラード曲のため、なんとかごまかしながらやれるということで、そのままになった。

今河の足の不調はこれまでもあったが、今河本人からその不調を訴え、曲数を減らすというような提案をもちかけることはなかった。そのため、3人は今河の体調を心配した。


休憩中。dredkingzのライブのゲストに、東京でプロのサックスプレーヤーとして活躍している志保が、バンドとコラボすることを今河から聞いた。

志保はかつて今河からドラムを教わっていた経緯もあり、今河とよく連絡を取り合っていた仲である。そこで今回、コラボ参加が実現したという。

志保がコラボするのは一曲のみ。ロックサウンドにサックスが似合うのは『Detonate』しかない。ライブのエンディングをさらに盛り上げられるだろう。

そして、かねてからの音楽仲間である高橋研が、イベントにスペシャルゲストとして招かれ、今河の還暦を共に祝ってくれるという。

高橋研は、ミュージシャンとしてはもちろんであるが、有名ミュージシャンへの楽曲提供など、今もメジャーの音楽業界で活躍している人物である。

「おもしろい企画になりそうですね!」

「そうだね。あとさ、TBSの取材も入るらしいし、ライブハウスはきっとぎゅうぎゅう詰めだよ(笑)。」

「あ、そうなんすね!前は練習中にいなくなったから、今度はバッチリ、バンドの映像もおさえて欲しいですよね(笑)。」

ライブの話で盛り上がり、4人は再び通し練習に入った。

曲数は減ったが、その分、客とのコミュニケーションを多くとれるメリットもある。

今河の体調への不安はあったが、ライブをとことん盛り上げ、今河の還暦を祝いたいという思いが強くなった。

~このライブは、dredkingzのためではなく、今河さんに捧げたい~


3月30日。

ライブの準備でできることはすべてやった。

4人は車で新庄駅まで移動。その後、新庄駅から、いよいよ東京に向かう。

ホームには、東京行きの新幹線はすでに到着していた。

ホームをゆっくりと歩く今河の背中を、仁志は写真に収めた。

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今河自身、足の不調は心配であったかもしれない。しかし、それを感じさせないほど、背中には今回のライブに対する決意が感じられた。

「さあ、行きましょう!」

4人は、高ぶる気持ちをおさえ、東京へ向かう。




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