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Vulfpeck(ヴォルフペック)の正式メンバーが4人だけである理由――なぜ、Cory Wongは正式メンバーではないのか?

KINZTODr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、4回目の連載になる。では、講義をはじめよう。

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LAのミニマルファンクバンド、Vulfpeck(ヴォルフペック)の演奏を支えているメンバーは多い。リーダーのJack Stratton(dr,key,gt)を筆頭に、Joe Dart(b)、Theo Katzman(vo,gt,dr)、Woody Goss(key)、Antwaun Stanley(vo) 、Cory Wong(gt) 、Joey Dosik(sax,key,vo) 。

※なぜヴルフペックではなく、ヴォルフペック読みなのか?ということは、以前の連載で解説をしている。

マディソン・スクエア・ガーデンのライブでは、Nate Smith(ds)、Charles Jones(vo)、Chris Thile(マンドリン)などのおなじみの顔も参加している。

これらは皆「Vulfファミリー」であり、信頼関係のある友人どうしでもあると思うが…意外にも、Vulfpeckの正式メンバーは少ない。

・Jack Stratton(dr,key,gt)

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・Joe Dart(b)

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・Theo Katzman(vo,gt,dr)

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・Woody Goss(key)

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この四人だ。

えっ?Cory Wong(コリー・ウォン)は?最近はほとんどの動画に出てるし、Joey Dosikも、Antwaun Stanleyもずーっと一緒にやってるよね?

・Cory Wong(gt)

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・Joey Dosik(sax,key,vo)

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・Antwaun Stanley(vo)

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だが、彼らは「正式メンバー」ではない。正式メンバーの4人は、2011年にVulfpeckが結成されたときのメンバーだ。Antwaun Stanleyは実は、Vulfpeck結成以前のJackのファンクバンド「Groove Spoon」から交流があるメンバーだが、それでも正式メンバーではない。

これについては、Jackのインタビューで明言されている。

We have a couple musicians amongst our friends that act as recurring guest musicians, and that occasionally write for us, or we for them. Like singer/pianist Joey Dosik, guitarist Cory Wong and above all of course (singer) Antwaun Stanley, the greatest vocal talent I’ve heard in the past ten years.

ジャック:私たちの友人のミュージシャンのうち、何人かが定期的にゲストミュージシャンとして参加していて、時々私たちのために、あるいは私たちが彼らのために曲を書いてくれています。シンガー/ピアニストのJoey Dosik、ギタリストのCory Wong、そして何より、過去10年間で私が聴いた中で最も素晴らしいヴォーカルの才能を持つ、シンガーのAntwaun Stanleyだ。

これはどういうことなのか?どれだけCoryがVulfpeckに貢献していても、後から参加したメンバーは仲間じゃない、ということなのだろうか?

いや、そういうことではない。Vulfpeckはそういう関係性のバンドではないのである。

Cory WongにしてもAntwaun Stanleyにしても、Joey Dosikも、実はVulfpeckに割いている時間はかなり少ない。これはあえて、Jackがそういうシステムを構築している。それはもちろん、正式メンバーであるTheo Katzmanらも全く同じであり、みんな、Vulfpeckがオフの間は、自分のツアーに出ている。

Vulfpeckのライブ、レコーディング、ツアーは、それらの合間を縫って、非常に短時間で行われているのである。

さて、では一体それはなぜなのだろうか?

もっと皆で一緒にいて、同じ釜の飯を食い、ずっと寝食を共にしたほうが、バンドとしての結束が深まって、いい音楽を作り続けられるのではないか?

いやいや、まったくもってそうではない。むしろ逆なのである。

これこそまさに新時代のバンドマネージメントであると言わざるを得ないのだが――Jackが見ているのは、彼のインタビューで何度も語られているのだが――「持続可能性(Sustainability)」なのだ。

 I’ve been in those situations and we’re definitely not doing that, the focus is on sustainability.

ジャック:我々は本来であればそういう状況(筆者注:皆が正式メンバーになり、制約が増える状況)になっていますが、それはあえてやっていません。私は「持続可能性」に焦点を置いています。

I want to keep making albums for sure, preferably one a year. We’ll play more live shows, but not too many. We could easily play 150 shows a year, but that would kill the band.

ジャック:これからも年に一回はアルバムを作り続けたいと思っています。ライブはもっとやりますが、あまり多くはやりたくないですね。年間150本のライブをすることも簡単にできるけど、それではバンドが死んでしまう。

普通は成功すればするほど、そのバンドにおける時間的な負担は増え、予算も上がり、ツアーの日数も倍増していく。

しかし、Vulfpeckの演奏に携わるのは、リーダーのJackを含めて、すべてが驚異的な才能を持つメンバーばかりだ。ほとんどのメンバーが自分がリーダーとなるバンドを運営し、そのための曲も書き、アルバムを出し、ツアーに出ている。

だが、Vulfpeckのツアーが年間150日になってしまったら?

メンバー各々のバンドはどうなる?Vulfpeck一本でやっていくために活動休止?自分のバンドとVulfpeck、どちらを選ぼうか…。

と、なるだろう。これは「持続可能性が低い選択肢」なのだ。

「持続可能性(Sustainability)」とはこの場合、つまり「どうすればバンドが素晴らしい時間を保ち続けられるか?」「どうすれば解散せず、友好的で、継続的なリリースを続けることができるのか?」ということだ。

例えばJB'sが、P-FUNKがそうだったように、厳しい制約、あいまいなギャラ、圧倒的な拘束時間、というものは、素晴らしいバンドを数年で瓦解させてしまう。またSouliveがそうだったように、最初の数年間はバンドに心血を注ぎこんでも、最終的にソロ活動により打ち込むようになり、バンドは新曲を出すのを止める…というような例も、とても多く見受けられる。

Jackは歴史に学んでいる。

メンバーの時間的拘束を減らし、個人の生活や成功を後押しできるようなバンド形態…それが、彼の考えている「持続可能性(Sustainability)」なのだ。

JackはVulfpeckに関わってくれているミュージシャンが、ちゃんと自分の名前で成功することができるように、Vulfpeckとして活動する時間を最小限に抑えている。つまりVulfpeckの正式メンバーとなることで負担が増えることのないよう、あえて正式メンバーではなく、ゲスト扱いのままにしているのである。そうすれば、皆、空いた時間でVulfpeckに関わり続けてくれるだろう。

それが、「どうすればバンドが素晴らしい時間を保ち続けられるか?」という謎に対する、Jackの答えなのである。

I can assure you our band has the least amount of time spent together vs. international success in history, I will assure you that.

ジャック:私たちのバンドは、一緒に過ごした時間が、国際的な成功と比較して、歴史上最も少ないと断言できます。

Today, the band is almost never together. While Stratton and Katzman live in Los Angeles, Goss has relocated to Chicago and Dart has stayed in Ann Arbor. Members also dabble in solo projects.

現在、バンドはほとんど一緒にいることがない。Jack StrattonとTheo Katzmanはロサンゼルスに住んでいるが、Woddy Gossはシカゴに、Joe Dartはアンアーバーに住んでいる。メンバーはソロ・プロジェクトにも手を出している。(2017年時点)

“The core vision has always been sustainability, and a big part of that is even trying to have other projects succeed simultaneously with it,” Stratton said. “So I think Theo doing his thing, Joe, Woody and me doing our stuff are all important to the sustainability of Vulfpeck counterintuitively."

ジャック:コアとなるビジョンは常に「持続可能性」であり…それはバンド以外のプロジェクトも同時に成功させようとしていることです。だからテオが自分の仕事をしていることも、ジョー、ウッディ、そして僕が自分自身の仕事をしていることも、ヴォルフペックの持続可能性にとっては逆に重要なことだと思うんだ。

また、ゲストミュージシャンとして活動しているCory Wong自身も、そのスタンスについてインタビューに答えている。

コリー・ウォンヴルフペックは実は時間的な負担が小さくて、毎年数回のレコーディング・セッションと30回くらいのライブがあるくらいなんだ。つまり年間で50~70日間の活動ってことになる。ほかの活動をするには十分なペースだよ。(出典:ギターマガジン2018年11月号)

コリー・ウォン:このバンドでみんなと約束しているのは、あまり真剣に取り組みすぎないことなんだよ。音楽を楽しみ、友人たちと戯れるような気持ちを大切にしているんだ。(出典:ギターマガジン2018年11月号)

私も15年ほどバンドのリーダーを務めているから共感できるという経験談でもあるのだが…いま、バンドを長い年月保っていくためには、もはや各々の経歴・仕事・生活・家庭というものを尊重することが必要不可欠である。それはプロとアマでもちろん違いはあるだろうが、本質的なところでは大きくは変わらないであろう。

近年、世界中で重要視されているSustainability。

もはや、ファンクもSustainabilityの時代に入ったのである。


最後に…Jackは、金銭的な面でも厳しく、「Sustainability」に挑戦し続けている。パーラメントがニール・ボガードというパトロンを失って一瞬で崩壊したように、それも「持続可能性」にとっては非常に重要な要素なのだ。

Stratton: “I’m the only one in the band who’s always been interested in the business side of making music. Spotify is a good source of income because we own all the rights. That wouldn’t be the case if we’d be signed by a label.

ジャック:バンドの中で唯一、音楽を作る上でのビジネス面に常に興味を持っているのは私だけです。Spotifyはすべての権利を所有しているので、良い収入源になっています。レーベルと契約していたら、こうはいかない。

So Vulfpeck kind of represents a space where we can achieve stuff independent of any financial risk and it actually is pretty profitable because it’s insanely low cost. I mix it I, release it, I do the design, the videos, and there’s no way I’d rather spend my workweek! It’s so fun, so I’m protecting it to remain that way.

ジャック:Vulfpeckは金銭的なリスクとは無関係に何かを達成することができ、実際には非常に低コストであるため、かなりの利益を得ることができます。私がミックスして、リリースして、デザインやビデオを作って…でも、やってられるか!と思うことはありません。とても楽しいので、これが続くようにしています。

レーベルに属さず、マネージャーもつけず、すべてを自分達でコントロールするJackとVulfpeck。そのコントロールは、メンバーとの関係性や、ビジネス的なもの全てに及び、それらを「持続可能(Sustainable)」に変え続けているのである。


以上、Dr.ファンクシッテルーの講義にお付き合いいただき、ありがとう。

「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」では、他にもたくさんの記事を無料で公開している。よかったら是非ともご覧いだたきたい。

トップ画像出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Vulfpeck#/media/File:Vulfpeck-at-crystal-ballroom-may-26-2017.jpg
メンバー画像出典:VULFPECK /// Live at Madison Square Garden





◆著者◆

Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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