見出し画像

分かれ道

高校生の頃、僕は男子校に通っていた。彼女は女子高。ある私鉄の終着駅が、二つの学校の最寄りだった。

7時35分発の電車の前から2両目、最後方のドア近辺が定位置だった。二人並んでつり革につかまり、窓の外を眺めながら電車に揺られた。いつも黙ったまま。目を合わせることはなかった。

改札を出ると、北にまっすぐ伸びる道を並んで歩いた。二人きりになると、僕らは堰を切ったように、いろいろな話をした。他愛もない話題なのに、いつも笑顔が絶えなかった。

駅から10分くらいのところにある十字路まで、毎日一緒だった。そこを右に曲がると僕の学校。左に曲がると彼女の学校だ。交差点で遅刻ぎりぎりまで話をすることが多かった。時々触れる彼女の手が、柔らかく暖かかった。

左右に分かれて歩き出す。僕が振り返ると、いつもこちらに向かって手を振る彼女がいた。お互いの姿が見えなくなるまで、何度も何度も振り返りながら、それぞれの学校に向かって歩いた。

紺の制服が良く似合う、小柄で愛くるしい彼女だった。
優しい声、笑顔がとても素敵だった。

あれから三十数年の月日が流れた。私の青春を鮮やかに彩ってくれた、愛しの彼女。今頃どこで何をしているのだろう。
元気でいるのだろうか、幸せに暮らしているのだろうか・・・


今朝、私が「今日の出張先は醤油の名産地だから、卵かけごはん用の醤油を買ってくるよ」と言ったら、「じゃー私は、いつもより上等な卵を買っておくね」と言っていた。

今頃は近所のイトーヨーカドーじゃないかな。


画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?