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『存在と時間』を読む 全88本

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2021年10月の記事一覧

『存在と時間』を読む Part.15

  第16節 世界内部的な存在者においてみずからを告示する環境世界の世界適合性

 この節では、手元存在者として使用すべき道具が、何らかの理由でその使用の適性を失ったときに、眼前存在者として認識されるという事態を考察します。
 前回に引き続き、刀鍛冶の例で考えてみましょう。刀という製品を製作するためには、道具としての槌や炉、材料としての鉄などが必要です。刀匠はそうした道具に囲まれた自身の仕事場にお

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『存在と時間』を読む Part.16

  第17節 指示とめじるし

 これまで手元存在者としての道具の存在構造を解釈してきましたが、そこで明らかになったのは、「指示」という現象でした。この指示と指示全体性が、何らかの意味で世界性そのものを構成する役割をはたすということで、この節では手元存在者の存在から出発ながら、それに基づいて指示そのものの現象を明確に捉えることが試みられます。そのために注目される道具は「めじるし」です。

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『存在と時間』を読む Part.17

  第18節 適材適所性と有意義性、世界の世界性

 この節は、世界の現象の正体について語られる重要な節になります。その過程で複数の「~性」という概念が登場することになり、1つの現象についてこうした概念が重ねられるように使用されることになります。たとえば、道具的な存在者の存在は手元存在性ですが、同時に適材適所性でもあるというように説明されることになりますので、混乱しないように注意しましょう。

 

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『存在と時間』を読む Part.18

 第18節の続きからになります。

 世界のうちのすべてのものにその適材適所性をみいだす現存在は、それらの適材適所性によって自己の目的を実現しようとします。適材適所性という概念のうちには、そもそも「~のため」という目的の概念が含まれていたのであり、これが世界性の全体の目的連関を形成するのです。

Das im folgenden noch eingehender zu analysierende

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『存在と時間』を読む Part.19

 前回の節でA項が終わり、ここからB項に入っていきます、この項では、デカルトの実体の概念が「広がり」という空間的な概念に依拠するものであることを指摘しながら、このような実体の概念によって取り逃がされた存在論的な問題構成のありかを指摘しようとします。デカルトのこの概念は、ハイデガーの世界と世界内存在の概念による分析とは正反対なものとして「もっとも極端な事例」と言われていました(Part.18参照)。

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『存在と時間』を読む Part.20

  第21節 「世界」についてのデカルトの存在論の解釈学的な考察

 実体についての存在者的な意味での語りと存在論的な意味での語りの混乱は、「世界」についてのデカルトの問いの混乱と結びつくことになりました。この節の初めの段落で、ハイデガーはデカルトの存在論について3つの問いを立て、その3つの問いにいずれも否定の答えをつきつけます。

Die kritische Frage erhebt sich:

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『存在と時間』を読む Part.21

 ここから第3章のC項になります。

C 環境世界の<まわり性>と現存在の「空間性」

 この項は、現存在について時間性という観点から考察するに先立って、その空間性を考察するという課題を遂行するものとなっています。これまで指摘されてきたように、人間についての考察は、眼前存在者のありかたに基づいて展開されることが多かったのでしたが、ハイデガーはこれを批判しながら、世界のうちに存在する事物の存在様式と

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『存在と時間』を読む Part.22

第23節 世界内存在の空間性

 現存在は世界のうちに存在することで、すでに「辺り」によって規定されているような存在者であり、手元存在者が世界内部的に存在するのに対して、この存在者は世界内存在として、世界のうちに内存在するのでした。この2つの存在様式の違いに基づいて、それらの空間性にも違いがでてきます。この節では、世界内存在としての現存在の空間性について確認されることになります。
 この考察で現存

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『存在と時間』を読む Part.23

  第24節 現存在の空間性と空間

 世界内存在としての現存在は、配慮的な気遣いのうちで、自分の周囲に手元存在者を集め、それによって生活の場である「辺り」を構築しています。この「辺り」において、現存在はさまざまな存在者を「開けわたす」ことによって、それに適材適所性を割り当ててきたのでした。世界はそれによって「意味」をもつようになり、「有意義性」を獲得します。
 現存在はこの「辺り」に対して「方向

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『存在と時間』を読む Part.24

 第4章 共同存在と自己存在としての世界内存在、「世人」

 前回予告したように、この第4章では、世界内存在の第2の契機である「誰か」と問われる存在者である現存在について、「日常性において現存在であるのは誰なのか」という問いが問われます。
 この章は3つの節で構成されており、第25節では、この現存在の「誰か」という問いがどのような場面から問われるかを明らかにしながら、「自己存在」という概念について

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