レースで熱中症にならないために今からできること

オリンピックのマラソンが終了しました。

競技データを見ると、気温は28℃を超え、3割以上の選手が途中棄権しており、相当過酷なレースであったことがうかがえます。 過去のデータをみても、オリンピックは気温と湿度が完走率と記録に関連深いそうです。

さて、労作性熱中症が夏場のスポーツでは対策が必要である。
これは皆さんご存知かと思いますが、熱中症はレース前の事前準備でも予防することができます。

本音をいうと、夏の大会には出ないほうが良い と考えていますが、それぞれの事情もあることでしょうから、今回は夏のレース本番で熱中症にならないために、今からできることをご紹介します。

熱中症の既往がある方は熱中症を繰り返しやすい傾向にあります。過去に経験のある方は特に注意して取り組みましょう。  

暑さ順応をしておく

レースの前に、レースと同じ暑さで走れるように身体を鳴らしておきます。 暑さを慣らす、と聞くとなんだか根性論のように聞こえますが、きちんと科学的に実証されている方法です。

我々の体温調節をつかさどる自律神経も、汗をかくための汗腺付近にある筋肉、さらには体表血管、心臓も、いきなり暑い環境では仕事をしてくれません。本番まえに暑さ環境に馴らしておく必要があります。

理想的には目標とする競技と同等の熱ストレス下で2週間のトレーニングを行うことが望ましいとされています。ほとんどの適応は最初の1週間で起こります。暑熱順化のためのトレーニングは、1日60分以上行い、体温や皮膚温の上昇、発汗を促すことが必要です。 オリンピック選手も試合の2週間前ほどから日本に入国していましたが、これは日本の高温多湿の環境下に身体を慣らすためにとても重要な期間なのですね。

普段から平日も外ライドを行っている方であれば、すでに暑さ順応はできているとおもいますが、心配なのは週末ライダーの方々です。 平日は冷房の効いた部屋でローラー、休日にのんびり外ライド、という方が、久しぶりにレースやロングライドに、というのが実は危険。 普段から乗っていないし、外も出歩かない、ということであれば、最低1週間かけて、同じ気温で同じ強度を出す練習をしてみましょう。むずかしければ平日のローラー練習を外でやってみるだけでも、本番の熱中症リスクをさげることができます。

 

太らない

意外と知られていないのですが、肥満は熱中症のリスク因子です。

これの理由は、肥満体型の方は熱を逃すのに適した体型ではないからです。言葉が悪いですが、体型が球体に近いほど熱中症になりやすい、と言えます。 熱を逃がすためには、表面積が大きいほうが有利です。 一方、肥満体系のような球体に近い場合、体表面積が小さくなり、熱放散の効率が悪くなってしまうため熱中症のリスクが高くなってしまいます。

ちなみに、これは動物でも同様で、温暖気候にすむ動物よりも寒冷地方に住む動物の方が、丸っこい大柄の体型をしていますが、これは体表面積を小さくして熱を逃さないようにしているのです。詳しくはベルクマンの法則で調べてみてください。

「最近太ったけど、久しぶりに試合にでるか」と意気込んでいる方。 その克己心、挑戦する野心は大変すばらしいのですが、熱中症のリスクを考えると、痩せてから出場するか、真夏のレースを避けるという判断のほうが賢明と言えます。


ウェアを準備

当然ですが、ウェアもとても重要な要素です。 熱中症対策、という観点から考えると、衣服は速乾性が何よりも最優先です。 汗はかいただけれは熱を下げず、汗が乾くときに気化熱を体表から奪うことで体温を下げてくれます。 湿度が高いジメジメした環境では、汗が乾かないので熱中症リスクがぐんと上がります。暑さの中で運動するときは、通気性がよく、蒸発しやすい素材の運動着を着用しましょう。衣服が汗で飽和して乾かなくなったら、衣服を交換する必要があります。

普通のサイクルウェアではまず問題になりませんが、ウェアを持っていない方は、最低でもスポーツウェアを着用してください。 イベントレースではコスプレ参加する方もおり、レースを賑わせる興行の一種です。私もいつかコスプレ参加してみたいと密かに思っております。夏のコスプレ衣装は速乾性を大事にしてください。

 

寝る

寝てください。寝不足はお肌と熱中症の大敵です。 理由は寝不足が体温中枢機能を低下させるためです。

体温調節の中枢は自律神経ですが、この自律神経は寝不足になるだけて簡単に崩れ、体温調節が下手くそになってしまいます。 (自律神経の話は次回のfunride連載で詳しく説明しているのでお楽しみに) 睡眠不足で夏の大会にでるのは自殺行為であると心得てください。


活動前の水分補給

レース前の水分補給は、熱中症に非常に有効な予防法です。 具体的には、体重1kgあたり6mLの水分を2~3時間おきに摂取する必要があります。このプロセスは、トレーニングや競技を開始する約4~6時間前に開始します。

例えば、昼10時からのレースだった場合、遅くとも朝6時ごろから給水を開始します。私の体重の場合ですと合計700-900mlほどを試合前に飲み切っておく計算になります。 なお、この時の水分補給はスポーツドリンクである必要はありません。塩分と糖分は普通の食事で十分量摂取できるので、お好きな飲料で大丈夫です。


ライド中の水分補給や水浴びの練習をする

レース中にできる熱中症対策はこまめな給水と水浴びです。 ライド中にボトルを触るときはどうしても片手or両手放し運転になります。そしてレース中ではこの難易度がさらに上がります。 ツールドフランスでも、オリンピックマラソンでも、給水行為は練習しているし、それでも失敗する難易度の高い行為です。普段からしっかりボトルを掴んで飲む練習をしておきましょう。


強くなる

興味深いことに、同じ環境下では熟練度が高い選手ほど、熱中症になりにくい、というデータがあります。おそらくですが、体温調節に関与する心臓機能や血管の発達が強いことが由来していると思われます。 熱中症にならないために、強くなるのも、ちょっと脳筋なアドバイスに聞こえますが、一理あるのです。しのごの言わずに練習あるのみ。

潔くレースを中止する勇気をもとう

繰り返しますが、医療者かつライダーとしては、正直に言うと夏場にレースを開催してほしくないのが本音です。それほど、日本の夏は高温多湿で危険な環境なのです。 そして熱中症の怖いところは、病識がない、つまり自分で気づきにくい点です。 レース中、自分や仲間に激しい疲労感やふらつきなどの症状が現れたら、すぐに運動を中止して医療スタッフに連絡しましょう。レースを中断する勇気もアスリートには必要です。  

まとめ

・熱中症は事前に対策できる
・慣れる、寝る、飲む、そしてちゃんと練習しとく
・異変を感じたらすぐに中断  

引用文献:uptodate, Exertional heat illness in adolescents and adults: Management and prevention


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