先日,「妹の四十九日」と題した文章を書いたところ,それを読んだ友人が本書「悲しみの秘義」を紹介してくれた.最近読んだ本の中でこれが一番自分の心に響いたと言って.すぐに購入して読んでみた.深く心に染み入った.死者と生きるということ,悲しむということ,読むことと書くことの意味など.
「もしあなたが今,このうえなく大切な何かを失って,暗闇のなかにいるとしたら,この本をおすすめしたい」と,巻末の解説に俵万智が書いている.その通りだと思えた.
本書「悲しみの秘義」に収められている文章は,2015年1月8日から6月25日にかけて,毎週,日本経済新聞夕刊に掲載されたものである.文庫化に際して,「死者の季節」が追加されている.
26の短い文章を読んで,何か大切なものを拾うことができたように思う.
本書全体を通して,若松英輔氏が書いているのは,大切な人が亡くなるのは悲しいことだけれども,それはその人の存在がなくなるということではないということだ.むしろ,その人をもっと身近に感じることでもある.
本書には多くの引用がなされている.宮沢賢治,須賀敦子,神谷美恵子,リルケ,プラトン,小林秀雄,ユングらによる,死者や哀しみや孤独についての文章である.しかし,ひとつだけ,「声を出して,ゆっくり読んで頂きたい.一度ではなく二度,読んで頂きたい.」と書かれた文章がある.石牟礼道子が,水俣病で亡くなった坂本きよ子という女性の母親から聞いた言葉だという.
若松英輔は書いている.「書かれた言葉はいつも,読まれることによってのみ,この世に生を受ける」と.この娘を想う母の言葉も,声に出して読まれることで,生を受ける.
本書「悲しみの秘義」において,さらにその「あとがき」において,若松英輔は自分の想いを書くことの大切さと難しさを書いている.「人は,書くことで自分が何を想っているのかを発見するのではないか.書くとは,単に自らの想いを文字に移し替える行為であるよりも,書かなければ知り得ない人生の意味に出会うことなのではないだろうか」と.その上で,「想いを書くのが難しいと感じられるなら,印象に残った言葉を書き写すだけでもよい」とも書いている.
もし大切な人をうしなって苦悩している人がいたら,本書を手に取ってもらえたらなと思う.私に紹介してくれた友人に感謝している.
目次
1 悲しみの秘義
2 見えないことの確かさ
3 低くて濃密な場所
4 底知れぬ「無知」
5 眠れない夜の対話
6 彼方の世界へ届く歌
7 勇気とは何か
8 原民喜の小さな手帳
9 師について
10 覚悟の発見
11 別離ではない
12 語り得ない彫刻
13 この世にいること
14 花の供養に
15 信頼のまなざし
16 君ぞかなしき
17 模写などできない
18 孤独をつかむ
19 書けない履歴書
20 一対一
21 詩は魂の歌
22 悲しい花
23 彼女
24 色なき色
25 文学の経験
26 死者の季節
単行本あとがき
文庫あとがき
解説 俵万智
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