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音大から経験ゼロでIT業界へ 「誘いはすべて乗る」井口和彦さんの人生哲学

異色のキャリア

「声を掛けてもらえるうちが華ですよ。だからどんな誘いでも断る理由はありません」

ドヴァのICT Platform Services Divisionで営業責任者を務める井口和彦さんは、年中休む暇もない。取引先や友人・知人に誘われた飲み会、イベントなどには基本的にすべて駆けつける。コロナ以前は、ほぼ毎晩何かしらの予定が入っていた。

「断らないこと」を信条とする井口さんにとって、ドヴァへの入社も迷いはなかった。

ただ、一つだけ、普通の人であれば、躊躇(ちゅうちょ)したかもしれない点がある。それは井口さんの“異色”のキャリアに関係する。

井口さんは国立音楽大学の声楽科出身。大学を卒業後、アルバイトの掛け持ちをするなどして「30歳をすぎるまでまともにサラリーマンをしたことがなかった」(井口さん)。そこからIT業界に飛び込んだのだ。もちろん知識や経験はまるでない。それでも不安はあまりなかったというのが、井口さんの人間性を表している。

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「誘ってくれる方々の気持ちに応えるのを最優先したいです。それに振り返ってみると、全然違う世界に飛び込むことは、人生の節目で何度もありました」

井口さんはいかなるキャリアを歩み、今どのような思いで仕事に向き合っているのだろうか。

剣道部からコーラス部へ

「お兄ちゃん、うちこない?」

誘いは突然だった。縁あって知り合ったドヴァの土橋社長から、ある日、前触れもなく声を掛けられる。ずっと自分の特性について見ていてくれたとのことだった。

「ITを全く知らなかったし、(土橋社長のことを)厳しそうな方だなと思っていました。ただ、ここで環境を変えるのは面白いのではと、飛び込みました」

思い切りの良い行動は、井口さんの持ち味といえる。実は、音大進学も幼少のころから決めていたというような話ではなく、全く想像すらしてなかった結果だった。

中学まで剣道部だった井口さんは、高校に入り、コーラス部の顧問でもあった担任の先生から「お前、ちょっと合唱しないか」と誘われた。

「スポーツ学校だったので、全国から凄腕の生徒が集まります。剣道を続けるのは難しいけれども、帰宅部は嫌だなと思っていました。コーラス部であれば、お金はかからないし、全員レギュラーだからちょうどいいなと」

先生の誘いに乗って軽い気持ちで入部し、それまでとは一転、音楽漬けの毎日になった。そして高校3年の10月に突如、先生から「お前、音大に行くか?」と言われた。それが進路を音大に決めた理由だった。

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「ピアノもまともに弾けないし、受験勉強はそれなりに大変だったんですけどね」と井口さんは笑う。実際にはピアノもその時に初めて購入し、猛特訓が行われていた。

そんな井口さんだったから、畑違いの世界に飛び込むことへの抵抗はほぼなかった。何とかなるだろうと、2007年4月にドヴァへ入社した。

母校へ通勤

最初の仕事は、母校の大学にあるメディアセンターの学生や教職員のIT活用をサポートすることだった。

「元々は母校のネットワークを入れ替える案件があって、ドヴァと取引のあるSIerから調査業務を依頼できないかという打診があったそうです。そこで社長が『なんなら卒業生を送り込むわ』という返答をして、その直後に私に声が掛かりました。そういえば、お兄ちゃん、卒業生だったよね、と。もう社長の頭の中では既に決めていたわけですよ(笑)」

オフィスには行かずに、毎日母校に通勤するかたわら、ITの知識習得にも余念がなかった。「プロトコルって何? IPアドレスって何? という状態でした。会社と密にコンタクトをとりながら、まずはドヴァの専門領域であるネットワークの本などを読んで勉強しました」

入社して1年半が経ち、案件の調査期間が終わって本社に戻った井口さんは、技術部門に籍を置く。全くITが分からないものの、会社の方針で、所属する以上はテクノロジーに対する理解が必要との方針から、社員はいったん技術部に配属するというルールがあったからだ。

とはいえ、もちろんシステム開発をするわけではない。デザインの仕事には多少の覚えがあったため、顧客のホームページの修正だったり、名刺のデザインだったりしていた。その後、どう考えても技術ではなく営業向きだろうとなり、それ以来、ずっと営業ユニットで働いている。

深夜の電車で試験勉強

当時は営業ユニットといっても社長と井口さんくらいしかいなかった。また、営業とはいっても、そこはエンジニア集団の会社。ITにある程度は精通してなければならない。「まずは舐められないように資格に挑んだら? 特に日本は、その分野のプロでない人からの判断指標の一つが資格の保有だったりするから」と社長に言われ、ネットワーク機器ベンダーの米シスコシステムズが実施する「シスコ技術者認定」を目指した。

会社としても、パートナーランクの昇格を考えていたところだった。そのためにも取得者が増えることは大歓迎だった。

井口さんは寸暇を惜しんで勉強した。日中は客先への訪問があるため、帰社は午後6時ごろになる。そこから見積もり作成などの残務処理を午後11時ぐらいまで行い、帰りの電車で参考書を開いて勉強していた。1年ほど経ち、試験に無事合格。会社もパートナーとしてのIT業界内での評価が高まった。井口さんは「自分が少しは会社の役に立てた」と喜んだ。その後も2年ごとに試験をパスして、資格を継続している。

エンジニアに気持ち良く働いてもらいたい

そんなドヴァの営業ユニットももはや二人ではない。人数の増えた営業ユニットで大切にしているのは、「技術ユニットのメンバーがやりたくないという仕事は受けないようにする」こと。加えて、技術サポート料の値切りには応じないなど、「エンジニアファースト」を徹底している。

こうしたスタンスである以上、場合によっては、案件を断ることもある。営業として納得いかないことはないのだろうか。

「お断りした案件については、エントリーしてくださるビジネスパートナーさまにお願いすることもあります。収益は減ってしまいますが、技術ユニットのメンバーが気持ち良く働けなければ仕方ないと割り切っていますし、ビジネスパートナーさまが取り組みたい仕事の場合は喜んでいただけますので」

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エンジニアファーストは会社としての姿勢でもある。技術ユニットに対して、社長も「やりたいことしかやらなくていいよ」と明言しているし、営業ユニットもエンジニアに対して、「どんな仕事やりたい?」「どんな仕事を取ってきたら活躍できる?」などとお伺いを立てる。ただ、これは迎合しているわけではなく、エンジニア、特に若手を伸ばしたいという、井口さんの親心でもあるからだ。

「若いエンジニアは『自分は会社の役に立ってないのではないか?』と悩んだりしています。最初からできなくて当たり前。まずは会社を好きになってもらうことが第一です。好きになってもらうには、自分が活躍できる場があること。そのためには何かしら成功体験が必要なのです」

上から言われて振られる仕事と、自らが手を挙げて担当する仕事ではまるで違う。後者の方が当然楽しいし、成果が出れば評価もされる。だから、新しく入ってきたメンバーには、必ず、どんな仕事をしたいのかを井口さんは聞くようにする。

成果も出ている。ドヴァにはWebサイトを制作する若手エンジニア主体のチームがある。以前は営業がふわっとした案件しか持っていかないため、部署としての売り上げがあまりなかった。井口さんがメンバーに尋ねたところ、もっと大きな案件に挑戦してみたいと訴えた。

そんな折、大手クラウドベンダーから簡易的なWebページ作れないかと相談があった。すぐに受注し、このエンジニアチームに投げたところ、先方の期待を上回るスピード、クオリティでサービスが立ち上がった。これが決め手となり、その後はレギュラーサービスとして立ち上がることとなった。それと同時に、個別営業をしなくても売り上げを創出する仕組みもできたのだ。メンバーたちは自信をつけ、「他のベンダーとも協業を広げていきたい」と意気込んだという。これらが実を結び、今では大型案件も受注できるようになったという。

生きている間は笑おうじゃないか

井口さんが他人に尽くすのは、仕事だからというわけでもない。サービス精神が旺盛で、とにかく人を楽しませたいという思いがある。

「お客さま先へ行くと必ず、滑ってもいいから笑いを取りにいきます。お客さまのことを徹底的に調べて、笑いのネタを探しておくんです。不謹慎な笑いでなければ、相手も自分を笑わそうとしてくれているんだなと分かり、楽しんでくれます」

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座右の銘は、「どうせ人間は泣いて生まれ、泣いて死ぬ。じゃあ生きている間は笑おうじゃないか、わっはっはっははー!」。元プロレスラー、アニマル浜口さんの名言である。

社内でも井口さんはムードメーカーだ。人前に出て話したり、歌ったりするのは苦ではない。現在も活動を続ける合唱団でも団長を務めるなど、挨拶や司会をするのに慣れている。他の人よりも心に余裕があるため、「笑い」を込めることを常に考えているそうだ。

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「会社のイベントは全部参加するし、他の飲み会の誘いも全部参加しようと思っています。誘われているうちが華。できる限り楽しみたい。いずれ人間は皆、死んでしまうのですから」

次回は、楽しく生きることをとことん追求する井口さんの素顔をお伝えする。

井口和彦(いぐち・かずひこ)
1973年、埼玉県生まれ。小、中学生時代は埼玉県鷲宮町(現久喜市)で剣道を、高校は埼玉栄高校コーラス部に所属し、部長として初の県大会金賞。国立音楽大学に進学し、声楽を蓮沼善文、小川雄二、クルト・ヴィドマーの各氏に師事。大学卒業後、飲食店アルバイトを経て2007年4月にドヴァに入社。現在Sales Unitのリーダーに。趣味は浦和レッズ、F1鑑賞等、多数の趣味がある。また、所沢バッハ・アカデミー横浜モーツァルト・アカデミーの演奏アシスタントを務めている。

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