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77 - 音楽の話⑤、芸能、サーカスと刹那

フランス語でヒナゲシをコクリコというが、これは雄鶏の鳴き声の擬声語で、それではなぜにヒナゲシが雄鶏なのかといえば、その色が雄鶏の赤いとさかをを連想させるからだそうだ。どうもあまりデリケートな想像力とはいいがたく、私たち日本人には理解しかねるところがあろう。(『フローラ逍遥』)

77(*76はこちら

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): (ギターを弾く音 ♪)

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): 最近演奏は?

JC: ギター?

C: バンドのサポートで太鼓叩いてなかった?

JC: あぁ太鼓……飽きるの早い。もう行ってない。打楽器は思想が野性的になってあんまりよくない。

C: そうなの?

JC: 良い意味でも悪い意味でもね。リズムに集中するというのは野蛮な行為だよ。

C: そう。

JC: メロディーがあって、コードがあって、リズムがあって。三位一体だよね。なんであんなにいっぱいタムがあるドラマーがいるんだろうって……あの人達は意外と繊細な人種ですよ。ヘビメタのドラマーなんかは意外と繊細。本当はギターが弾きたい。

C: はははは。そうなの。

JC: うん。だけどギターはもっと上手い人がいるから仕方ない。

C: どういう相関関係が……エフェクターの数とか?

JC: あぁ。ギターもエフェクターが多い人は本当はキーボードやりたい。シンセサイザーやりたい。

C: シンセサイザーの上手い人はほんとはピアノやりたい?

JC: もちろんそうだよね。

C: ピアノがすごい上手い人は本当はバイオリンやりたい?

JC: ふふふ。バイオリンかビオラか。いいライン選ぶ人だね。

C: バイオリン上手い人は本当は200年前に生まれたい?

JC: うぅん……そうね。「歴史とは」と思って生きてると思う。はははは。

C: みながないものねだり。

JC: みんなほんとは……コンダクターになりたいんじゃないかな。だけどコンダクターは家系だから。ははは!

C: あの家の子じゃないと。

JC: あそこの家のあの人の子じゃないと駄目なんだよ。はははは。

C: オーラが違う?

JC: そうやって教育受けてんだからやっぱり違うんだろうね。

C: 遺伝子操作みたいなもんでしょう。

JC: そうそう。それが本当の意味での遺伝子操作だよね。環境がほとんど。8割以上は環境が影響を持ってるから。

C: だから混ざるの嫌がるのね。

JC: うん。だから……この環境が無理だ、となったら差異が生まれるよね。

C: サイババも生まれる。

JC: そう。サイババ。はははは。いたね。砂を金に変えるんだっけ?

C: 手から聖灰がわさわさ。小麦粉みたいな。

JC: 砂金じゃなかった?

C: 小さかったからよく知らない。心霊手術と似てる?

JC: 手品でしょう。インドの芸能を政治的に……中国の場合はサーカス。雑技団。ああいう武芸・民芸。「芸能」ね。そういうのを国際的な目的として政府が管理して育てるというのはあるから、やっぱりレベルが高い。

C: コロナの最初の頃を思い返すと、広がりと同時にシルク・ドゥ・ソレイユが破綻したね。

JC: そうだった。あそこは国際的なエンターテイメント集団だからね。象徴的。

C: 象徴的だね。

JC: カナダが軸で、カナダのフランス系の人が作ったのかな? 行きたいと言われて、一回観に行ったのね。

C: へえ。

JC: すごい面白かった。

C: はなれわざ?

JC: そこはテレビで見ればいいからどうでもいいけど。ははは。シナリオがあって、ストーリーの途中でお客さんに好きなミュージシャンを聞くんだよね。マイクを持ったピエロが客席を歩いて、みんなが言うじゃん、好きなアーティストを。それをほとんど聞かずに勝手に言っていく。

C: ほん。

JC: 「ボンジョビ!」「エアロスミス!」とか。「サザンオールスターズ!」とかね。ショーは盛り上がってて、どんな名前でも盛り上がっていくわけ。その中でいきなりピエロが「武満徹」と言ったのね。

C: ほお~。

JC: 「武満徹!」誰も知らないでしょう……。そこでフランスのレベルの高さを一瞬で見せつける。

C: わざと?

JC: わざとでしょう。武満徹は……あぁ、文化大国ってそういうことか、と。「リューイチサカモト!」とか言ってる時はまだかわいかったけど、武満徹まで行かれると「えぇっ!」ってなる。会場で自分だけ。はははは。

C: 「伊福部昭!」だとどうだっただろうね。

JC: もっと知らんって。ははは。エスプリなんだろうね。技術は当然凄いもんだったけど、シナリオもエスプリが効いていて。『メン・イン・ブラック』じゃないけど、真意は誰も知らなくても……エンタメだよね。完璧にエンタメで成立してしまう。サーカスの刹那みたいなものも彼らはすごい好きだから、昔見たイタリア映画、フェリーニが描いたピエロみたいな上手な描写はあったね。

C: そうなんだ。

JC: 日本にも多分あるんだろうけど……。

C: 木下大サーカスにはない?

JC: ははははは! 木下とボリジョイしか知らないから。うぅん。木下も行ったことある。

C: 小さい頃になぜか連れて行かれる。

JC: サーカスが華だと思って生きてきた人生と、サーカスが刹那だと気付いた人間との生き方は……多分全然違うよね。

C: うん。

JC: サーカスに、旅芸人にあるバックボーンの切なさ。いわゆるロマから始まるような、日本で言うとサンカとか。そういう地に足を着けられない人々の美しさを見出せない人は……。ははは!

C: でもその刹那がメジャーになったら困るでしょう。

JC: そこはそう。みんながみんなこっちじゃ困る。成立しない。はははは。

C: みんながみんな超絶技巧にハンカチ濡らしてたら……。

JC: それはもう……あまりにもアートすぎて。

C: 技見て、幼少からの想像を絶する鍛錬ばっかり想像しちゃったらさ。

JC: 50年代のフランスすぎる。みんながそうなってるのはおかしい。あり得ないこと。そうなる前にこうなって良かったと思うのも一つの楽観だよね。期待するけどね、そういうシュールと美意識をもし多くの人と共有できたらどんな感性が生まれて来るんだろう……と。

C: ほぉ。

JC: うん。

C: 一回だけ体験したことある。会場中が「一個の生き物」と感じた演奏に居合わせた事は一度だけある。

JC: 出来るのは出来るんだろうね。そういうのって……下手くそなバンドばっかり集まってるライブハウスに行って、お客さんの方を見てるとたまに見る感覚というのはあるのね。そういう「美しさ」みたいな。もっと良い音楽があるのをみんな知ってるけど「今は今だ」と、やっぱりどこか引き込まれてるのね。そういうのが良いなと思う時もある。

C: 違うって。

JC: 違うの?

C: 自分自身もその一部じゃないとさ。今言ったのって観察者の目線じゃん。

JC: 自分だって埋没してるからその中に。観察者って言わない。だから味わえる。

C: 違う違う。

JC: なんで違うの! はははは!

C: 一個の生き物だってば。

JC: それはね、楽器やらないからだよ。ステージ上がって、下りてみればどこでもあり得ることだから。「観察して」とか大袈裟な言葉なだけであって、どこに行ったって味わうことだよ。当然それだけじゃなくてもっとどうしようもないライブもあるけど、ある程度の演奏力と熱意があればそれって起こってるからね。

C: 起こっててもいいよ。いいけど。

JC: はははは! なんで自分だけ外にはみ出されるのよ。ははははは。まあやってる側っていうのは没頭してはいけないわけだからね、常に。変な話だけど。ある種の客観性の中にいるから気付かない部分がいっぱいあって、でもパッと外を見たら、思ってるより人は夢中で見てる。

C: うぅん……。

JC: 思ってるより冷めてないの。作り手がそれを疑い出すと、表現そのものがブレていくから良くないよね。みんなはもっと、思ってるより憧れてるからね。

C: そこに対する信頼がなくなったな。

JC: 今はね。はははは! 自分もそうだよ。だけど後で言われて気付く事も多いなぁと思う。

C: そうだね。

JC: ステージに上がる事の意味が分からないままステージに上ってるミュージシャンというのは、ミュージシャン「に」憧れてたり、ステージに上る「事」に憧れてる子達だから。そういうエネルギーもいいと思うけど、それを理解した上で演奏できる人達というのが本当のミュージシャン。そういう人はめちゃくちゃ少ない。これはメディアのせいだと思うし、日本だけじゃないのかもしれないけど。

C: うん。

JC: 分かりやすく言うと、それをもうちょっとみんなに「還して」いかないといけない時代が始まる。みんなが芸術家になる。それがすごく重要だから。

C: うん。

JC: 良いんですよ、ライブハウスって。雑く言うと。行かないけどね。

C: 行かない。

JC: 感動しちゃう。音楽……音楽はこれからすごい意味を持つからね。

C: ステージに上がらないからだよと言われるとなんだかなぁ。

JC: ははは! 思ってるより起きてる。思ってるより冷めてないからね。

音楽の話①

(Rec 10 ここまで/*一覧はこちら


2022年9月8日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)
#doubles_studio_talk でトーク部分を一覧で表示出来ます。

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