67 - 音楽の話②
67(*66はこちら)
Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): 「ジャンル」って面白い。1ジャンルにこだわって聴く人の事わかんないからこそね。
Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): 一番多様性のある聴き方をしてるなと思うのはテクノDJ。
C: へえ。
JC: ただの今までの出会いというのもあると思うけど。
C: 分解して聴いてるのかな。
JC: テクノの人は色んな音楽聴いてるなぁ。不思議だけど。ずっと四つ打ちじゃしんどいんじゃない? はははは!
C: 飽きてるのか。
JC: 飽きてくるだろうね。やっぱりちょっとゆっくりしたい時もある。まぁテクノでもトランスとかになるとトランスしか聴いてない人多いよね、トライバルとか。そういう傾向がある。そういう人ってだいたい……偏見かもしれないけど、トランスとダブしか聴かない。
C: それドラッグとの関係じゃないの?
JC: どうしてもそれぞれの趣味趣向で聴き方が変わってくるからね。聴き方じゃなくて効き目が。音楽って良くも悪くもドラッグカルチャーっていうのがあると言えばある。
C: うん。
JC: そういう人達はそういう音楽……リズム、ビートにはまりやすいというのはあると言えばあるね。プライベートを聞くと納得する、なるほどなって。これは当然リスナーの傾向だから、ミュージシャン達の傾向だとは自分は言ってないよ?
C: はい。
JC: 作ってる側は別にニュートラルだと思うけどね。
C: リスナーの傾向って見てて面白いよね。今わかんないけど、EDMのリスナーとか。
JC: あぁ、服から分かる。服装見れば。だから一つの信仰みたいなものだと思う。その仲間に自分がいるっていう安心感。いわゆる「類友」みたいなことってやっぱり起こることがある。良い事だと思う。悪い事ではないと思うよ。
(約30分間の長い脱線)
C: 音楽の話どこ行ったっていう。どこで終わったんだっけ……JCが地域ごとの「地図としての音楽」と言ったけどさ、
JC: うん。
C: ジャンルとして既にある、いわゆる民族音楽って聴くの?
JC: 聴く聴く。
C: 何かとミックスされてないやつね。
JC: 聴く。うん。本当にそれがどこまでそうなのかはちょっと分かりかねる所はあるけど。色んな国、色んな地域でいっぱい聴いてた時期ってのはある。今も聴くね。
C: 例えばどこの地域?
JC: アフリカとか南米……それこそ笛だけとか。どこでも。ガムランとかも好き。音楽旅行だよね。
C: 取り入れようともする?
JC: 絵を描く時の気分とか。結構あるかもしれない。そうそう。
C: 聖歌は?
JC: グレゴリオとか。いっときめちゃくちゃ聴いてた。
C: 黒人教会のとか。
JC: あぁ、ゴスペルの原形みたいなのとかね。聴いてた。色んな国とか地域の、いわゆるワールドミュージックのセットをいくつか持ってた。夜な夜なそういうの聴いて……行くのはテクノのクラブ。そんな感じ。
C: ほん。
JC: 民族音楽って踊りと必ずリンクしてる。カルチャー的な背景が音楽で分かる。服とかでもあると思うけど地域の面白さがある。「行っちゃおう」みたいな人は行くもんね。自分はあんまり旅行も行かないから余計そういうのがあるのかもね。スピーカーから「相互作用で行く」みたいな。
C: なるほどね。
JC: 実体験もすごく重要だけどね。違う物見るっていうのも大事だよね。
C: 「ワールドミュージック」って言い方が……これふざけた話だなぁと思うけど、言い方がコロニアルだから「グローバルミュージック」と呼ぼう、みたいな。ラティーナって雑誌が前あって唱えてたんだけど、本当にふざけたことだなぁと。
JC: ははは。自分の考えるワールドミュージックというのは、いわゆる民族音楽というのが世界的に認知されていって、で、他の国でそれが一つのムーブメントになって、その国がその影響を受けて作ってきたら「ワールドミュージック」だと思ってるのね。
C: ほう。
JC: 例えばアフリカのどっかの民族音楽をフランスのレコード会社が録音しに行きました。フランスに帰って発信しました、売れました。で、フランス全体がその音楽に影響を受け始めましたって、その初期の段階がワールドミュージック。だから民族音楽とワールドミュージックって、自分はそこで線引きを勝手に作ってて。みんなが言うワールドミュージックって民族音楽のことも含めて言ってるでしょう?
C: いや、エンヤのことでしょう。
JC: エンヤのこと! 違うでしょう! ははははは!
C: え、エンヤのことじゃん。
JC: それは歌姫っていうの。
C: 辺境の裏声の妖精のことをワールドミュージックと言ってる。
JC: 多重録音のことを言ってる。はははは。
C: ははははは。エンヤのこと。
JC: ワールドミュージック……エンヤのことワールドミュージック。そうね。それは……なんだろう、その国の新しい「ポップ」にしてるわけでしょう?
C: うん。
JC: 言ってみたら国の伝統じゃん、ケルトだって。それワールドミュージックとは言わない。
C: 言ってるんだって。
JC: 言わない。それは多重録音。ふふふ。
C: はははは。
JC: 「エンヤ」ってジャンルだから。エンヤまで行ったらジャンルに入れちゃ駄目。
C: だいたいエンヤのこと。
JC: そうなんだろうね。ジャンル分けについてはみんなの方が自分よりうるさいかもしれない。
C: よりアナーキー。
JC: 比べてもついていけないかもしれない。みんなの方が細かいかもしれない。まぁ音楽にジャンルなんかないよって、それはそうなんだけど。音楽いっぱい聴いてる人同士だとジャンルって結構便利なんだよ。
C: 便利。
JC: そう。例えば凄いオルタナティブな、あり得ない前衛的なスクラッチばっかりみたいな……ほとんどノイズみたいなレコードを聴いてても「あっ」と、「この人ちょっとポップだね」ってあるわけだよね。
C: あるある。
JC: そういう「ジャンル」だったら便利だと思うけど、そうじゃないもんね。
C: そうじゃない時代が終わると思うと良い事だよね。
JC: そうね。「これが売れてます」みたいな、昔のようなメインストリームがなくなるというのを嘆いてる人も多いじゃん。今は流行がないから。
C: 大きな物語を欲する人はいるよね。
JC: そうそう。派生するモノを探しに行く人も減っちゃうよって、メインストリームがあるからアウトサイダーがいるんだって考え方も当然あると思うんだけど。それも一つの考え方ではあるんだけど、「自分自身の聴きたいモノ」を持たなきゃマズい事になっていくんだと思う。
C: うん。
JC: みんなが聴いてるのが嫌だって所から始まった人達もいるからね。考え方として当然あってもいいんだけど……そこを嘆いててもこれからは始まらないんだと思う。
C: うん。
JC: メインストリームがなくても聴く人は聴くでしょう。本なんてまさにそうじゃんね。全くないまま来てるけどちゃんと読んでる人は読んでる。
C: うぅん、完全な同意は出来ないけど。
JC: ははははは。
C: 本……本読んでる人いない。
JC: はははは! そう? そうなんだ。
C: 本買ってる人はいるかも。読んでる人はいない。
JC: 飾るの?
C: 背表紙を感じる。わたしはするからね。否定的に言ってないよ。
JC: 十分そういうの効果ある。
C: 時々読んでみたりもするけどね。赤瀬川原平も「買われた本が読まれた率が知りたい」みたいなこと書いてた。そりゃそうだと思った。でも買わないと出ないからね。微力でも、こういう本が出て欲しいなって本は買うようにしてる。じゃないと本当に……どれが駄目とは言わないけど、既に大変だからね、出版物も本屋も。
JC: そうね。
C: 向こうから遠ざけてるみたいな本ばっかりになってる。わざとかなって。例えば漫画でも、同じ作者の同じ作品でコロナ前後で明らかに表情がおかしくなっちゃってるのとかある。明らかに登場人物の顔が引きつってる……。辛いなぁと思って読むと、やっぱりあとがきにくだらないこと書いてある。そういう時に「これで最後にしよう」って……。全然話変わるけど、飲食店のアクリル板とかね。
JC: あぁ。
C: 行かないから、きったねえパーティション! 囚人じゃないんだから。「客が来ない」じゃないよ。そんなとこ行かないって。
JC: うん。遠ざけてる。アクリル板……やっぱり透明な理由があるんだろうな。あれが真っ黒だったら想像力が生まれちゃう。
C: それすごい面白い考え。また脱線、失礼。音楽ね。
JC: あんまり最近ね、自分は本を買うというより読み返すのがほとんどだけど。音楽もそうかな。最近のを聴かなくなった理由というのはコロナが原因じゃないんだけど。新しいモノは自然に勝手に入って来るだろうっていう。だからわざわざ追いかけない。人から聞いたとか、「これ面白かったよ」って。それを自分が面白ければ「いいな」と思うだろうけど。
C: 新しい、新鮮って今にだけあるわけないもんね。
JC: ずっとそうやって聴いてたんだと思う。良いアルバムだなって、それ作った人が聴いてた前のもっと良いのが……「その前のその前の」って。結局その順番の方が新しさに昇華されていく。今のモノにいくら触れたって、自分の中で「新しい」ってのはめったなことじゃないと出て来ないから。だからってアナログ嗜好でも権威主義者でもないんだけど。表現の新鮮さってのは別に「今」に求める必要はないから。コロナ以降に世の中の表現が変わったというより、もっと前に変わったというか、どこかで……「予定されていた」というかね。
C: なるほどね。
JC: 「始まったか」という。文化込みだと思う。政治だけじゃなくて。
C: それ聞くとやっぱり先行ってるなぁと。
JC: いやいや。ははは。
C: わたしはまだまだ時間と地面歩いてる。
JC: 良いモノ良いなと思うほど……最近の音楽なんていうのは、歌詞がどうとかアイデンティティーがどうとか、そういうのはほんとにどうでもいい。最近のは何で聴くかっていったら本当に「音」でしか聴いてなくて、これ面白い録音してるなとかそれだけなの。空気感までは絶対変えられない。別に2年前からとかじゃない。昔から閉鎖的なの。ふふふ。
C: 音だけで。音と映像……しかも「15秒だけ」になっちゃったみたいな時代に。
JC: 最初に音楽と映像をくっつけたのはMTVでしょう。大罪ですよ。ははは! その時代を生きてきたし確かに面白かったけどね。まぁ「今」っていうタイムライン、現代的とか現在進行形とかってのはほぼほぼ「メディア」だっていうのは……昔から全部思ってたことなんだろうな。
C: 先行ってる。
JC: はははは!
(つづく)
2022年7月28日 doubles studioにて録音
ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)
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