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66 - 音楽の話①

ここは停滞の恐怖を感じさせる。定住の感覚。ここに住まなきゃいけなくなったらどうしよう?(W・バロウズ)

66(*65はこちら

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): 予告通り「音楽の話」。JCの個人史が聞きたい。

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): 音楽……最初は普通にあったやつよ。

C: 家に? 親の?

JC: ビートルズ、ストーンズ、ディランとかね。そうそう。そのカッコよさを再認識するのは随分後になるけどね。自分の旅に出るわけだから。

C: 反発して?

JC: 反発はなかったけどね。流行ってる曲も聴きたいじゃんという感じで。

C: すんなり良いと思えたんだ。ロックとかフォークとか。

JC: 好き。今でも好き。カーペンターズとか。

C: カーペンターズは話が脇道に逸れそうだね。カレン……。

JC: 面白いよ。音場がちょっと違う。ポップス、バンド系、歌謡曲とか、けっこうポップに聴いてたと思う。だけどやっぱり自分でギターを弾き出すと、当たり前だけど聴く音楽も変わっていく。離脱し出す。

C: 離脱?

JC: そう。みんなの聴いてる音楽とはちょっと離れてく。

C: 楽器って身に付くほどやったことない。自分で弾く人の聴き方ってやっぱり違う。

JC: ギターだけカッコいい曲とか……音楽全体がダサくても「このギターやばいな」って、それだけでも離脱が始まるんだろうね。

C: 分解し始める?

JC: そうそう。一回解剖学みたいになる。全体で見なくなる。じき自分で書いて録るようになると余計にそれが進行する。「いい録音」「面白い音場」とか。曲の内容より音場が気になってくる。

C: 音場(おとば)ってどういう意味?

JC: すごく単純に言えば、録音してる時の「パン」。右左に振ってる場所が、マイキングが、とか。

C: 位置?

JC: 位置……まぁ録音環境とかかな。環境もあるしミックスもあるし。それがどうやって録音されてどういう作品になってるかの方が重要になってきて、音楽そのものを忘れていくくらい……いっときは夢中になるんじゃないかな。

C: 楽しそうだね。

JC: 自分が録ってそれがスピーカーから出て来ることが面白いよね。それが人に聴いてもらってどこに面白さがあるだろう、とか。そういう事にやっぱり夢中になる時期というのがあったよね。そこのバランスが取れてるのが良い作品になっていくし、そこから色んなジャンルを聴くようになっていった気がする。

C: 節目節目で一曲ずつ作品を挙げて進もうよ。言ってることが分かりやすくなるんじゃないかな。

JC: 難しいね……。ざっくりしてるよね記憶って。

C: ははははは。

JC: 「この曲が何かを変えた」とかでしょう?

C: いやいや、もっと単純に今の話なら「音場が面白い曲はこれかなぁ」とか。整理されてなくてもっと個人的なのでいいよ。

JC: ……ないんだよね実は。

C: ないんだ。自分が弾いて録るってことか。

JC: 細かく色々あるけど。音で聴くようになると自分史的にもてんでばらばらに聴こえてくるし。歴史的にというよりは、唯一残るとしたら地域的な「地図としての音楽」ね。

C: 地図としての音楽。面白い言葉だね。

JC: 地域性は面白いよね。アジアだったらこういう音階、アフリカだったらこういう音階とか。そういうのは色んなジャンル聴いていくと自然に面白いよね。

C: うん。

JC: 例えば「イギリスはちょうど湿気が機材にいい影響を生んだからいい録音が多い」とかね。本当かどうか知らないけど。

C: 「カリフォルニアの乾燥が良い」とか。

JC: そうそう。音質が違うとか、そういうのもテクノロジーじゃん。「あの録音はそういうの使ってたんだ」って、音楽ってテクノロジーの側面もある。テクノロジーで良くなった部分、悪くなった部分を鑑みながら聴いてる。音で。

C: ふん。

JC: テクノロジーの変遷、民族の違い……色んな複合的なものがいっぺんに入って来る。どのアルバム聴いてもいっぺんに入って来るから、「なるほどね」と思う所が中に一か所あるとそれだけで気になる。最近のやつ聴くと無いのがほとんどだけどね。

C: グローバル化してるの?

JC: うぅん……。

C: グローバル機材?

JC: ある程度あるかもしれないな。例えばドラムとベースはブルックリン。ここ「ドン!」と東京。それが分かって混ぜてやってるなとなると、面白い音場作ってるなって。

C: 新鮮なのはあるよね。時代も地域も全部素材扱いしちゃうようなのとか。

JC: コラージュで色んな物を引っ張り出して作っても「そこ」の音になる。実はそれがすごく重要で面白い所。結局グローバルな音っていうのは存在しないんですよ、不思議なことに。やっぱりあらゆる影響を受けてそこにしかない音になっちゃう。

C: 録音になるとってこと?

JC: 録音になると特にそうだよね。

C: garagebandでビーンと鳴らした弦の音はグローバルな音じゃない?

JC: ない。

C: ないね。ないわ。ははははは。

JC: ないでしょう。結局その個人を聴くことになるからね。今だとデータのやり取りで録音するわけだから、ここで録ったやつをあそこでマスタリングしました、で、「どっちの音が勝ってる?」って。そこまで気になるようなアルバムだったらいいよね。

C: それね、そう……。

JC: そうならなかったらその後聴かないわけだから。そこまで調べて腑に落ちるのが自分の好きなアルバムってことだし。この曲変だなとか、録音場所それぞれ違うなとか、それは気になったから追いかけるわけで。で、なるほどって。

C: 今の話で……二つある。

JC: うん。

C: 一つは録音が誰、マスタリングが誰とかがブランド化していった時代があるでしょう。あれが嫌だったよね、わたしは。

JC: ははははは!

C: もう一つはそこからの派生だけど、ビョークが”Medalla”を出した時にマトモスの質問ばっかりされてキレてたんだよね。Sharon Van Ettenが”Tramp”を出した時にも「ナショナル、ナショナル」って。すごい嫌がってた。

JC: おん。

C: 特に女性アーティストが意欲的な作品を出すと男の名前が前に出るという……フェミニズム的に位置する問題だよね。

JC: 確かにあるだろうね。重要な所。

C: でしょう。

JC: それを突き詰めちゃうと「音楽のマーケティングって?」って。

C: そうそうそう。ネームタグで大いに利用してる場合もあるわけだから。

JC: そこを触れずに音楽の話をするのは果たしてこのご時世に……。ははは。具体的なアーティストを出せないのはそこにある。

C: さらに陰謀論的に言っちゃうとさ、

JC: はははは。

C: 「悪魔だから全部駄目」って。これは芸術で心が動いたことが「ない」人がやりがちなね。その方向に行っちゃうのが危ないんだよ……。

JC: そうね。危険危険。めちゃくちゃ感動してきたからね。

C: 「売れてる物は駄目だよ」とか。そんなことないから。

JC: そんなことない。

C: ね。

JC: 売れてる方がいい。

C: ははははは!

JC: いいんですよ。なんでいいかって言うと、さっきの話に戻るけど、「良い機材・良い音」なのよ。これが決定的なの。自分が「聴く」ということは。そいつらが何であろうといいわけ。多少良い曲だったらそれで合格くらいの。

C: そうそう。

JC: 音場が違うんだよ。下品な言い方すれば、ド素人がいくら頑張って録ったって安い音しかしないんだって。わざわざ高い機材を買って家で聴いてるのにわざわざそれ聴かないって。

C: 自分の場合は「売れてる物=駄目」が行き切っちゃって、一回もう……ほんとに手焼きのCD-Rしか聴かないみたいな、そういう時期が2年ぐらいあった。

JC: あったよ。売れてないモノが好きって時期。

C: 一巡した上で言うけど、どっちにしろそういう問題じゃないから。

JC: うん。

C: すぐ「マスターテープに黒魔術がかけられてる」とかさ。

JC: はははははは。

C: そういう話も好きだしそういう話もするけど、芸術に感動するということと、

JC: 一切関係ない。

C: 関係ないんだよ。

JC: 関係ないんです。全く関係ない。

C: そこはJCと話す時に共有してる事だよ。

JC: めちゃくちゃ大事なことですよ。

C: あんまり駄目駄目ばっかりだと白けちゃうし。

JC: そうそうそう。感動ですよ。感動できればいいよ。「音悪いやつなんか聴くか」ってさっき言ったけど、音悪くても当然感動するやつはあるよね。「極端に言えば」ってことね。メジャー否定っていうのは一時的なアイデアに過ぎない。色んな音楽の環境やフォーマットがあるわけだし。

C: あぁ、うん。そうなんですよ。

JC: はははは。

C: わかるよ。

つづく


2022年7月28日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)
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