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65 - 真面目芸術雑談

すべて大丈夫ですよ、たぶん。これを読んであなたが無用に心配するといけないから、ぼくは何とかなるけど――(A・ギンズバーグ)

65(*64はこちら

Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ/以下”JC”): そうやって……掻いくぐってかぎ分けてまで情報を追いかけるエネルギーって普通はないんじゃない?

Chantrapas(シャントラパ/以下”C”): そうだね。

JC: 無いと思う。「これはデフォルト」「これはスピンだな」とか。だから究極……創造性のある日常をちゃんと送ってないと、必要なものが分からなくなる。

C: 白けと闘うわたしの勤労意欲はめちゃくちゃ高いよ。

JC: ははははは。そうなの。

C: 仕事が生きがいにじゃないけど、自分の特性に向き合うとやっぱり「普通」なんだよね。

JC: そうね。

C: わたし自身普通だよ。本当に。じゃあ何するって言うと自分の仕事するしかない。

JC: あぁ。うん。

C: 「じゃあどんな仕事する?」っていう。真面目で普通な人間ですよ。

JC: 一番良い事。その……自分はけっこう不真面目だと思うんだけど。

C: そうなの?

JC: そう。

C: たまに聞かれるけど……「JCさんどんな人?」って。

JC: うん。

C: どこで出会うの? って。実はよく知らないという。

JC: はははは。

C: よく知らないままずっと話してる。

JC: 普段ね……普段……いつも喋ってるようなことを考えてる。

C: ははははは。創造的な生活。

JC: 創造性がないと駄目とか、そんなことはあんまり思わないのは思わない。当たり前じゃなきゃね。

C: 創造性は無理強いできない。

JC: 出来ないし自分にも課さない。

C: 普通が、ニュートラルの置き所が大事でしょう。

JC: うん。「創造的な毎日を!」とかさ。クリエイティビティ持たなきゃって思うのはしんどいというか、やめた方がいい。

C: そこにどうやら覆いや枷があるなら取り除いてみたら、とは思う。

JC: うん。

C: 「ほんとに普通? 押さえつけられてない?」って。そんな事は思うね。

JC: こう……描かなきゃなと思ってしんどいけど描く時もあるし、描きたいなと思って描く時もある。どちらかじゃないといけないなんてことは全くないわけでしょう? どっちでもいい。あんまり重要じゃない。偶然の要素も十分ある。上手くいかないだろうなという日に描いてみるのも大事だし、上手く描けそうな日にあえて散歩に行くのもいいだろうし。そこにルーティーンとか理論とかない。

C: じゃあそこがわれらの差異かもしれない。

JC: うん。

C: あえて強調するけど、わたしは形式にこだわる所があるからね。

JC: あん。

C: ハネケとか好きなのも……(ミヒャエル・)ハネケが好きで(グザヴィエ・)ドランが嫌いなのも理由は一緒だよ。ハネケの絵画的なフォルムが好き。ドランは……あんまり好きな言い方じゃないけど、生理的に合わない。あの様式美は。

JC: そうね。例えばシナリオも良くてキャスティングも良いけど、どうしてもフィルムの質感が好きになれない、とか。いい歌詞だしいい演奏だけどどうしても録音が好きになれないとか、良いアイデアだし良い構図だけど使ってる絵の具がどうしても気に入らない……とか。結局そういう所が自分の好き嫌いになる所まで、ある種の「芸術」というものを好きにならなきゃいけないと思うのね。

C: ふん。

JC: これは創造性を支える上で大事な母体になっていて、そこが差異じゃん。だから、そこの底上げが来るところまで文化が中心になっていく世の中というのが理想なんでしょう。それを待っている……人が多いんじゃないかなと……信じたいんだけどね。ははは。

C: 違いそうな感じがする。

JC: ふふふふふふ。言ってみたけど。

C: 違いそう。

JC: うん。コンセプチュアル的な物はあまり評価の対象にならないと自分がよく言うのはそこにあるんだよね。コンセプトだけ面白くてもどうなのって。いつもある。先に何も起こらない。

C: うーん。

JC: 例えばさ、山登りしようとなって、天気悪かったらどうしようもないじゃん。引き返すしかないでしょう?

C: うん。

JC: そういうことだと思うのね。天気悪いのに行っちゃうのは芸術じゃないと思う。自分はね。天気悪い日は帰んなきゃ駄目だし、天気悪いのに「行け行け!」と言うのもおかしいわけ。やっぱり外からの影響というのが大きな要因を占めてる……実は「ほとんど」を占めてるというのが重要。

C: 雨に例えるならば、

JC: うん。

C: 今の世の中は「晴れた日に傘を渡し、」

JC: はははは! そうですね。

C: 「雨が降ったら傘を取り上げる。」

JC: そういうことだからね。

C: 半沢直樹の一コマね。

JC: うん。

C: そういう世の中だから……。

JC: そうね。元気なのに注射打つ……。そういう意味では「封印されてる」というレベルじゃないかもね。

C: そんなのでも、そこに気付きさえすれば全部に対応することだからね。

JC: うんうん。

C: 掻いくぐってかぎ分けてが面倒だから「もうええわ」ってなるんであって。大ヒットドラマでたくさんの人が見たんでしょう? それが覚えてるのが「土下座させてスッキリ」だけじゃ、あまりに勿体なくない?

JC: そうね……。

C: 大事な事も言ってくれてる。作品としちゃ見れないからね、コンセプトだけが面白いで終わる範疇なのかもしれないけど。ただの人生訓かもしれないけど。

JC: あぁ。

C: 見たなら見たで得るものあったっていいじゃん。

JC: 無いんですよ。

C: それがすごいことだなぁと。

JC: 無いのに見させる、という不思議な世界もある。

C: すごい狭い範囲の表現の自由で……見てみるとほとんどの作品でキャッチ出来る部分はある。ナイストライはある。本当に駄目なだけの時もあるけどね。大体何かある。

JC: ふふふ。

C: 一言聞けただけでも「価値あったな」って思えるから。全部良いよね。うん……全部良いよねじゃないんだけど、結局は!

JC: はははは! 全部は良くない。

C: 結局はわたし自身の好きなものというのはめちゃくちゃ狭いんだけど。理想は「全部いいよね」って感じ。

JC: そうだね。全部……は良くはないけどね。全部は良くない。人それぞれあるじゃん、良いトコ悪いトコ。「自分と違うな」と思っても好きだなって思える、モノに対するキャパシティーが大きいほど入って来るものも多いよね。なんで数見なきゃいけないか、読まなきゃいけないかというとそこにある。

C: うん。

JC: ハリウッド的な「今」しか作用しない物っていうのはそれなりに何らかのポピュラリティがあるからそれを探しに行くし、当時売れなかったのになんで今なんだろうというのを見るのは、「今の自分だから分かる」ことに限りなく近くて……どっちもわかんなきゃね、結局。

C: うん。

JC: だから……その裾野みたいなものが文化的に出来上がってる人と、「今」という時代からしか出来上がってない人とでは、同じ情報すら処理する能力が違う。これが結構デカい差になってきてるのかもしれないと思う。

C: 差ね……差が生み出せてるかどうかはわかりませんが。

JC: いやいやいや。自分も自信はないけど。

C: 『どですかでん』(黒澤明監督、1970年)だよね。

JC: どですかでん。

C: 本人普通なんだけど、周りから見ると変人みたいな。

JC: 変人しか出て来ないからね。

C: だけど変人の巣窟にもちゃんと井戸端会議が出現するわけじゃん。

JC: そうそうそう。

C: あれがすごいよね。あの井戸端会議ないとね。

JC: あそこが大事。

C: だよね。あの同じ境遇でも井戸端会議を作っちゃう。「人間とは……。」

JC: あれが「人間力」でしょう。

C: ほんとにすごい。本質だなぁ。

JC: ああいう作品の作り方自体が無くなっていったんだろうな、と思うよね。もっと個別主義のまま終了する作品の方がやっぱり……CIA的に都合が良かった。はははは。

C: 黒澤は危険?

JC: 『どですかでん』は危険だったね。

C: 『夢 DREAMS』(黒澤明監督、1990年)も。

JC: 『夢』もアウトだね。

C: 日本兵の、

JC: あのシーン印象的。

C: 死してなお一小隊の幽霊が全員……隊長の「回れ右! 進め!」の命令聞くんだよね。すごいよ。

JC: もっかい見ないとちょっとあれだけど、覚えてるもんなぁ。

C: どっちもJCに勧められて最近観たからね。わたしは記憶に新しい。黒澤明はでっかいね。

JC: そうね、作りがデカいね。特に『夢』はそういう感じがした。スピルバーグが一緒だったというのもあるけれど。

C: 前はあのデカさが苦手だったんだよね。

JC: 空間的に。「質量」みたいな。

C: 徐々に変わっていってる。JCに「時代劇も好き」と言われて、わたしまだ時代劇は全然好きじゃないから見れないし言う事ないけど。

JC: ははははは。時代劇好きとか落語好きっていうのは、江戸時代なかった説に早めに手を打っておこうという事な気もするけどね。「あってもいいんだよ」って。

C: ちょんまげ結ってた?

JC: 「結っていいよ」って。

C: ははははは。

JC: なんなら今からでもいいんだよ、明日からあなたが結ってもいいんだよって、それを言いたい。

C: ちょんまげね……。

JC: そうそう。SFもね、子供の頃『スター・ウォーズ』観た時なんかも、ストーリーは全然覚えてなくて思い出せないけど、ただの「デザイン」だったよね。デザイン的に面白かった。

C: お洒落だなと。

JC: うん。お洒落だった。カッコいい。戦隊モノよりデザインが洗練されていたという、それくらいのこと。

C: 全部見直しだなぁ。

JC: いやいや。

C: かつて面白くないと思ったもの、逆に面白いと思ったものも。もっかい見たいのいっぱいある。

JC: 音楽なんかでもオーディオをちょっといじる……ケーブル換えたり電源換えたりすると、音ちょっと良くなったり変わったりするでしょう。前聞いてたあれどうだろうとか。絶対ダサいから今聞かないんだけど……そのダサいと思ってたものが覆る可能性はあるよね。「この音で聴いたらいい音なんじゃ」「自分が誤解してただけなんじゃ」って。「あの人達はそこを聴いてたんだ!」って。

C: やっぱりダサくて冷や汗出そう。

JC: たまにバン! って来るよ。「ここ聴いてたのか!」って思うと……そういうのっていいんだよ。個人的なことだから。見返す面白さってそういうのでいいんだと思う。

C: このまま音楽の話しよっか。予告してたね。

JC: そうね。

つづく


2022年7月28日 doubles studioにて録音

ダブルス・ストゥディオ
Johnny Cash (thinker/artist) & Chantrapas (designer/curator)
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