84/365 【ズーン】 舞台「ピサロ」
お前は神を信じていない。
だから怖れる。だから約束を破る。
私を信じよ。(中略)
おまえのために死を飲み込んで吐きだしてみせる。
「黄金」を求め、スペインからインカ帝国に攻め入ったピサロ将軍。キリスト教を広めることは土着の人々を救うことだと豪語してはばからない聖職者。支配欲に突き動かされ、自分以外はみんな虫けらのように見下す王の代理人。戦争による一攫千金を求める貧しいスペイン市民たち。
価値観も文化も違う相手に対する不寛容と想像力の欠如を露わにしながら、征服軍はジャングルを抜け、インカを目指す。
とうもろこし畑が広がる肥沃な大地を持ち、聡明な王が支配するインカ帝国は、豊かさゆえに戦いを選ばない。「与えられているものが十分」だから、餓鬼のような「白い人」の思惑が理解できない。結果、何の武器も持たない民が大量に虐殺されていく。
「国が豊かになれば争いは無くなる」という大河ドラマ「麒麟がくる」の十兵衛を思い出して、ハッとした。豊かになるのは、1国ではダメなのだ。世界中、みなで豊かにならなければ、結局争いは無くならない。
そんな戦いの中、「私生児」という出自にコンプレックスを抱き続けていたピサロは、同じく私生児だったアタウワルパの生い立ちを知り、次第に心を開いていく。
矜持を失わない凛としたアタウワルパの姿に影響されていくピサロ。二人の間に、愛のようなものが生まれる。だがその絆も、あっという間に引き裂かれてしまう。
私は人間には殺せない。私を殺せば父なる太陽の最初の光を浴びて、私はよみがえる。
ピサロが心からこの言葉を信じていたかは、分からない。でも、そこに一縷の望みをかけ、ピサロはアタウワルパの火あぶりだけは止めさせる。
その結果、アタウワルパはキリスト教に改宗させられた上、絞首刑にされる。「ヴェニスの商人」のラストで改宗させられたシャイロックを思い出した。人から神を奪う蛮行を、人は人に対して繰り返している。
そんな我々に、神のご加護は与えられるのだろうか。
今、世界の大都市でドロドロとした差別感や猜疑心が噴出している。逆に、今まで無かったような繋がりも連帯感も生まれている。ウィルスのような爆発的感染力を持つのは、果たしてどちらが先だろう。
人間はどちらを選ぶだろう。
冒頭のプロジェクションが、報道で毎日のように流れてくるコロナの映像のようでドキッとした。コロナという言葉も、元々は太陽コロナを連想させる言葉だ。思いもかけない共時性に胸が詰まった。
宮沢氷魚くんの、神の子そのままの純白さと凛とした背中の美しさよ。それとは真逆な、傷だらけのゴツゴツとした身体を懸命に奮い立たせ、地べたで悶え苦しんでいる渡辺謙さん。ラストの2人の姿にズーンとなりながら、劇場を後にした。
新生PARCO劇場。綺麗で見やすい作りになっていた。
外につながるテラスのような場所もあり、そこのドアを開けて換気対策もしっかりしている。人が一箇所に固まらないような設計にそもそもなっているようで、そこは先見の明なのかな。
天井高いロビー。
入り口ではサーモグラフィー検査が実施され、至るところに手指消毒用アルコールが置いてある。
開幕のアナウンスでは、予想外の咳の際に口元を押さえられるよう、ハンカチをスタンバイさせておく事が推奨されていた。
客席には空席もちらほらあったが、そういう選択もありなのだ。劇場が開いてさえいれば、どちらを選ぶこともできる。
来月もう1回見る予定。その時に、私はどう感じるのだろう。世情はどうなっているだろう。
帰りの電車が、渋谷を経由したとは思えないほど空いていた。
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