見出し画像

父親レッスン (ショートショート)

「あなた!!早く起きて!!仕事遅れるわよ!」

私の1日はこのように妻の金切り声で始まる。

「ん〜。分かってるよ〜。」

私はベッドから起き上がると、1階のキッチンに向かった。

「パパおはよ〜。」

「あら、あなたおはようございます。」

息子と妻は既に起きている。

「おはよう。」

そう返し、私は妻が用意してくれたコーヒーを飲み、仕事にむかった。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「ねぇ、パパ。僕も妹が欲し〜い。友達のたかし君に今度妹が出来るんだって。」

「息子がいい子にしてたら妹ができるかもな〜。」

「そ〜なの?僕いい子にするよ!ところでパパ赤ちゃんってどこから来るの??」

正直この質問には困った。

妻に目線で助けを求めたが、妻も困っているらしくひとつも目を合わせようとしない。

咄嗟に私は、

「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんだよ。」

と教えた。その場しのぎの答えではあったが、中々上手くこたえられたのではないか。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「おい!クソ親父!!!」

「親に向かってその態度はなんだ!!もう1回言ってみろ!!」

息子が高校に進んでから衝突することが多くなった。

思春期だからしょうがないと腹をくくった。

ここで息子の将来のために甘やかしてはいけない。

厳しくしないといけない。そう思った。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「父さん、母さん。今までお世話になりました。」

とうとうこの時がやってきた。

高校卒業の時だ。

出ていってしまうのは少し悲しい気持ちもあるが、嬉しいという気持ちの方が何倍も大きかった。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「父さん久しぶり。そしてこの娘が、、、」

久しぶりに息子が帰って来たと思ったら、なんと嫁さんを連れてきた。

まだ籍は入れてないらしいが、ゆくゆくは結婚するらしい。

中々、美人の気を使える良い娘だ。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「はい、カット!!!ここまでで、上級家庭の父親レッスンは終わりです!」

「ありがとうございました!!」

なかなか楽しかった。

私ももうすぐ父親だ。

嬉しいことではあるが不安も大きい。

そのため、この父親レッスンというものに参加してみた。

父親になった時のあるあるのシチュエーションを予め予習できるというわけだ。

「これでレッスンは終わりです。お疲れさまでした。」

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

いよいよこの時が来た。

私のレッスンの成果を見せつける時が。

「あんたー!起きなさい!仕事遅刻するよ!!」

「ん〜、分かってるよ〜。」

私はそう言い、ベッドから起き上がると1階のキッチンに向かった。

既に息子と妻は起きていた。

「妻、息子おはよう。」

「あら起きてたのね、おはよう。」

「パパ〜。うわああああああん。」

「え?この時はどうすれば?よーしよし。泣くな〜。」

やっとのことで息子を泣き止ませ、コーヒーで一服しようとすると、テーブルにはコーヒーは用意されてなかった。

「妻、コーヒーは?」

「は?あんたが自分で作りなさいよ。」

「え?もう!予習と全然ちがあああああう!!」

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

私は苛立つ気持ちを抑え、父親予習レッスンを企画してる会社に問い合せた。

すると、向こうは細かく詳細を教えてくれとの事だった。

私がこと細かく詳細を説明すると、レッスンの講師はこういった。

「あ〜、受講するレッスンのコースが間違ってましたね。貴方さんのご家庭だと月2000円からのプランですね。」

どうやらこういうことらしい。

パンフレットを確認してみると、選べるコースが3つあった。

①上級家庭 月30000円~

②中級家庭 月5000円~

③下級家庭 月2000円~

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

どうやら我が家は下級家庭らしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?