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AI導入で企業が挫折するのはなぜ?―AI「以外」の壁にどう立ち向かうか

はじめに

こんにちは、Doryと申します!
あらゆる業務をAIエージェントで変革するべく、Algomaticという生成AIスタートアップで自社サービス開発や法人向けのAI導入支援に取り組んでいます。

この記事では、AI技術を現場の実業務に導入しようとしたとき、企業が高確率でぶつかる「3つの壁」について、自身の経験も交えて記載していきます。


【この記事には何が書いてある?】
・AI技術を使って業務を変革しようとするとき、必ずぶつかるのは「AI以外」の壁であること
3つの壁を乗り越えなければ、AIによる業務改革は進まないということ

【この記事の想定読者】
・AIを自社にも取り入れたいと考えている経営者の方
・AIの社内推進がミッションの、いわゆる「AI推進室・DX推進室」の方
・その他、AIの力で自社を変えたい!と考えている方

以下、本文では簡単のため「AI」という表現を多用しておりますが、具体的には「大規模言語モデル(LLM)を搭載した法人向けサービス・プロダクト」を想定しています。適宜、読み替えて頂ければ幸いです。


爆発的なスピードで普及するAI技術

ChatGPTが2022年12月にサービスを提供開始してから、全世界で1億ユーザーを達成するまでに要した期間はわずか2か月でした。
電話が1億ユーザーに到達するまでは75年、携帯電話が1億人に使われるまでは16年、インターネットの場合は7年を要したことを考えると、私たちはこれまでの人類史にないスピードで、時代の変化を経験していると言えます。

「社内ChatGPT」を導入すれば万事解決…というわけでもない

時代の変化に伴い、私達の仕事現場にもAIが浸透し始めています。
OpenAIが公式提供しているChatGPTの法人プラン(
ChatGPT Teamや企業各社が提供している法人向けチャットAIツールなど、企業が導入しやすい生成AIサービスも市場に数多く登場してきました。

日清ホールディングスさんパナソニックコネクトさんデジタル庁さんを筆頭に、AIの業務活用にいち早くチャレンジし、成果を出されている企業さんの事例も流通しはじめています。2024年前半は、AI活用の一周目の成果が目に見えてきたタイミングなのだと思います。

出典)https://www.digital.go.jp/news/19c125e9-35c5-48ba-a63f-f817bce95715

一方でAIの導入に苦戦している企業も数多く存在しています。
職業柄、プライベート含めてAI活用に関するご相談はよく受けているのですが、以下のような場面を日本全国のあらゆる会社さんでこの約1年半、見聞きしてきました。

  • お金をかけて「自社専用チャットAI」を開発したのにも関わらず、ほぼ誰も使っておらずアカウント作成率がKPIになってしまっている

  • 高い金額をコンサルに払ってAIの運用規定やセキュリティルールを整備したが、ツール自体は社員の誰も使わない

  • AI利用を盛り上げようと有志が「草の根AIチーム」を作って社内Slackに記事などを投稿しまくるも、大多数の社員からスルーされ孤独

  • AIに興味のある社員を任命して「ひとりAI推進室」を立ち上げるも、全社で導入の機運が低すぎて、絶望した担当者が退職してしまう

  • 日々の業務に追われる中で、AI推進部門から「eラーニング受けろ!」「AIの資格とれ!と勉強のプレッシャーを受け続けて現場が辛い思いをする

「これだから日本企業はダメなんだ!」みたいな紋切り型の主張をしたいわけでは一切ありません。そもそも、パラダイムシフトのタイミングで新しい技術を業務に取り入れるというのは、本質的に困難なものです。上手く行っている方がすごいという期待値だと思います。

AI導入に取り組むと、必ず「AI以外」の問題にぶつかる

DXなどの文脈でも繰り返されてきた議論ではあるのですが、企業がAIに取り組むとき、最終的にぶつかるのは必ず「技術以外」、すなわち「AI以外」の壁です。
「AIの導入で業務がラクになった
「AIの導入が上手くいかない
という両者間の差分を突き詰めて考えていくと、最終的には以下の3つの壁を突破できているかどうかに収束してきます。

・1.業務プロセスの壁
・2.組織・カルチャーの壁
・3.ビジネスモデルの壁

「AI以外の壁」が立ちはだかる


1.業務プロセスの壁

業務プロセスの壁」は、業務プロセスを組み替えることなくAIを導入しようとし、あえなく失敗に終わってしまうパターンを指します。

「精度が100%でないから役に立たない」は本当か?

大規模言語モデルに限らず、機械学習全般に言えることではありますが、その原理上、100%の精度は保証されません。
モデルの進歩によって減少しているものの、大規模言語モデルはその仕組み上、事実と異なる内容の出力ハルシネーションを一定確率で常に発生させてしまいます。

実際には「すぎのこ村」という商品があったためハルシネーションである


しばしば「大規模言語モデルにはハルシネーションがあるから、まだまだ業務に取り入れられない」というフレーズを耳にします。これは一見すると「AIそのものの技術的な問題」を指しているように思えます。しかし、突き詰めて考えていくと、実は「業務プロセスを変えられない」という真の問題が背後にあることに気づきます。

AIによるアウトプットにミスや誤りが含まれる場合、直感的には「業務の生産性が落ちてしまう」と捉えがちです。
しかしながら、業務プロセスそのものをAIを前提に作り変えることさえできれば、大きなメリットを得ることもできます。

たとえば、以下は弊社のグループ会社での事例です。

  • 1日100件程度の処理が必要なルーチンワークを、AIで代替できないか試したケース

  • AI単体の精度は85%程度で、15%程度は常に誤り(ハルシネーションなど)が存在する状況だった

  • しかし、AIによる「たたき台」を人間がレビューするという業務フローに作り変えた結果、人間のみで作業するよりも品質は変わらず業務全体の生産性が約10倍以上になった

つまり、業務プロセスの組み換えさえできれば、精度が100%でなくても大きなメリットを享受できるのです。

業務全体を組み替えるのがAI活用のベストプラクティス


「AI単体の精度」でなく「業務全体が回るか」を見る

AIを業務に組み込む際のポイントは「AI単体の精度」でなく「業務プロセス全体の生産性」を評価することに尽きます。

OCR等の文脈でも以前より言われていることではありますが、ルールベースでなく機械学習ベースの技術を用いる以上、100%の精度を実現することはほぼ不可能です。実業務でAIを活用し大きな恩恵を受けるためには、「AI単体の精度が良いか?」という目線でなく「業務プロセス全体として生産性が良くなっているか?」という目線が必要です。

よくよく考えると、我々人間も一定の確率で(大なり小なり)ミスを起こしており、それを防ぐためにレビュー二重チェックといった業務プロセス上の機構・仕組みが設けられています。
この発想を人間だけでなくAIにも適応すれば良いだけではあるのですが、私達は「機械は精度100%でなければ活用できない」というバイアスに、ついつい引きずられがちです。
こういったバイアスを壊し、業務プロセスそのものを組み替えられるかどうかが、AIによるメリットを享受するうえでの分岐点だと考えています。

2. 組織・カルチャーの壁

「組織・カルチャーの壁」は、「ツールを一通り揃えたものの、AI活用の機運が全く社内で高まらない…」というパターンです。

まず大前提として、2024年時点で世の中の90%はAIに興味がないし、「エーアイ?使ったとて、給料上がるの?」くらいの認識です。この状態を突破し、いかにAIを自然と使いこなせる"AIネイティブな組織"を作れるか?が第2の壁です。


AIに対する「アレルギー反応」を招いていないか?

AIを使いこなせない社員は、今後代替されてしまう」などの不安煽りコミュニケーションは社内のAI活用において必ず反対勢力を生み出します。
また、企業活動を支えているのは生身の人間であり、「生成AIを導入すれば人件費が削減できコストカットにつながります!」というロジック一辺倒のコミュニケーションでは組織は動きません

特に、外部パートナーと一緒にAI活用を進める際「AI導入に遅れてるアナログなお前らにAIを教えに来てやったで」という態度の開発会社・コンサルタントが来ると悲惨です(そして、こうした企業は悲しいことにまだまだ多いと思います)。
そうした開発会社・コンサルタントが現場に入ってしまうことで、社員の方々が抵抗感忌避感を持ち「AIアレルギー」を持ってしまう悲劇も耳にします。こうなってしまうと、AI導入プロジェクトは空中分解していきます

AIが"自然と"浸透する組織構造を作らなければいけない

目指していきたいのは、全社員が抵抗感なく、AIを"自然と"利用するカルチャーです。
打ち手としては、結局のところ唯一の正解はなく

  • 力学を生み出すKPIとインセンティブの設定

  • 組織全体の熱量を高めるカルチャー施策

  • 熱量あるAI推進リーダーを呼び込む採用戦略・パートナー戦略

といった様々な施策を、長い道のりではありますが、複合的に推し進めていく必要があります。

「AI導入することで、私の仕事が奪われてしまうのではないか?
「また新しいツールの使い方を覚えないといけないんじゃないか...」

こういった発言を「現状維持バイアスだ」「時代についていけない人たちのコメントだ」と切り捨てるのは簡単です。
しかしながら、切り捨てても「組織の壁」は乗り越えられません。感情面のケアも含めて、社内での機運を高めていく巻き込みが必要です。


3.ビジネスモデルの壁

これはイノベーションのジレンマにも近い話なのですが、現行のビジネスモデルを採用している限り、AIの導入に後ろ向きにならざるを得ないようなケースも多々存在します。
すなわち、積極的にAIを導入するインセンティブがないどころか、「AIを導入してしまうと、既存ビジネスにマイナスの影響がある」というパターンが「ビジネスモデルの壁」です。

【例1】派遣やSESのようなビジネスモデルを採用しているパターン

準委任契約や派遣契約のビジネスを行っている、いわゆるSES企業さんや人材派遣企業さんによく見られるパターンです。
こういった企業の経営層の方とお話をすると、以下のような趣旨のコメントをお伺いすることが多々あります。

  • 「AIで作業工数が半分になってしまったら、顧客に請求できる金額(時給)も半分になってしまうので、むしろ生成AI導入は推し進めたくない」

  • 「人月で契約をしているので、そもそも業務生産性が上がろうと下がろうと経営層に与えるインパクトは小さい

  • AIツールの利用可否はお客様に委ねられるので、自社として積極的に導入を推し進めようとは思わない」

要するに、AI導入に対して経営的な旨味が一切見出せないパターンです。そのため、現場から「ChatGPT Teams使いたいです!」と要望が出たとしても、稟議や決裁の過程で有耶無耶になり、導入が見送られることもしばしばです。

【例2】「人材のブランド力」が高収益の源泉になっているパターン

主に広告代理店さんやコンサルティングファームさんに見られるパターンです。
「当社には優秀なクリエイターが多いから、お客様が高いお金を払っているのであって、AIを使っていると”バレて”しまったらブランド力が下がりかねない。だから、どんなに成果が期待できたとしても、オフィシャルにはAIを使えない」というジレンマを抱えている会社さんは、数多くいらっしゃるのではないでしょうか。


「ビジネスモデルの壁」はトップにしか壊せない

こういった「ビジネスモデルの壁」を乗り越えるには「AIに仕事を任せるほど売上が増える」「AIに仕事を任せるほどコストが下がる」といった形で収益モデルやインセンティブを再設計する必要があります。

とはいえ、これは言うは易く行うは難し…で、経営層を含めてこのジレンマを根気強く解消していくしかありません。現場や「AI推進室」「AI導入責任者」だけの努力ではもはやコントロールできない次元であり、トップのコミットメントが強く求められるエリアです。

経営者が「AIについて調べて、一番いいやつを社内導入しといて」と右腕的なポジションの方に丸投げし、その方が現場と経営との板挟みで疲弊している…みたいな場面をよく見かけます。それもそのはずで、このビジネスモデルの組み換えはトップにしかできない意思決定です。トップによる強い意思決定こそが、「ビジネスモデルの壁」を壊す唯一にして無二の手段だと言えます。


最近、Digital Transformation(DX)になぞらえてAI Transformation(AX)という言葉も登場しています。

AXにおいて重要なのは、AIツールを業務に導入することでもなければ、既存のプロダクトにAI機能を追加することでもありません。
・"AI以前"の時代に生まれた企業(=あらゆる企業)が
・AIがコモディティ化するまでの今後数年の「執行猶予」の間に
ビジネスモデルをAIを前提としたものに組み替える
ことこそが、AXの本質だと私は考えています。


📢最後に宣伝です

ここまで「業務プロセス」「組織・カルチャー」「ビジネスモデル」の3つの壁について記載をしてきました。
壁の壊し方に特効薬や銀の弾丸はなく、トップの強いコミットメントによるトップダウン施策と、組織や業務を変化させるための現場のクイックウィン施策を積み重ねる他に勝ちパターンはありません。

そこで、AlgomaticではSaaS事業や開発パートナー事業に加え「AX for Enterprise」事業を開始しました。いわゆる「レンタルAI推進室」で、これまで弊社が支援してきた事例をもとに、企業内でのAI活用を伴走支援するサービスです。
元戦略コンサル組織コンサルのメンバーが社内にガッツリと入り込むサービスとなっており、ご興味がある方はぜひご連絡ください。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000120362.html


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記事は以上です。最後までお読みいただきいただきありがとうございました。


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