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「燃え上がるかき氷/すくわれないスーパーボール」#シロクマ文芸部

 かき氷の屋台から火の手が上がっていた。かき氷を作る機械を酷使し過ぎて燃え上がったようだ。


 酷暑の中、近所の各小学校で毎週行われている夏祭りに子どもたちと来た。コロナ禍で数年間開催されなかったが、昨年から再開された。暑すぎるし金もないしで夏休みだからといって遠出したりテーマパークへ連れていったりもできていないので、地域の祭りに過ぎないようなものでも、子どもたちは楽しみにしてくれている。

 しかし今年は昨年よりも暑さが酷い。天気予報アプリを入れたら、連日熱中症アラームが鳴り、「無用な外出は避けて」と警告してくる。夕方からの祭りなら大丈夫だろうと思ったが、まだ太陽は空に残っていた。子どもたちを座れる日陰に避難させて、私が屋台で食べ物を買ってくることになった。

 焼き鳥の屋台の行列に並んでいる間、ダークモードに設定しているスマホで電子書籍を読んでいると、画面を微細な砂が覆っていった。校庭の砂が風で巻き上げられているところで売られている焼き鳥は美味かった。

 たこ焼きを子どもたちに運び、焼き鳥を子どもたちに運び、フランクフルトを子どもたちに運び、かき氷の屋台に並んでいるところで、火の手が上がったわけだ。幸いすぐに鎮火した。私の子どもたちのように日陰に避難している者と、炎天下で並んでいる者たちに分かれていた。行列が前に進む理由で、人が離脱していく、というものもあった。倒れて運ばれていく者も増えてきた。命がけの夏祭りで、私は子どもたちにかき氷を運ぶ。

「次まだ何かいる?」
「何があるの?」
「夏祭りってのは、何でもあるんだよ」

 次は絵本の屋台に並び、子どもたちに向けて一冊ずつチョイスする。次は宝石屋の屋台に並んで、模造ダイヤモンドと模造ルビーを五十円で購入する。博物館の出店している屋台ではローランドゴリラの剥製やナウマンゾウの化石が売っているが、あんな大きなものは持って帰れない。校庭中央の櫓ではプロレスが始まっており、浴衣を羽織った動きにくそうなレスラーたちが空中殺法で相打ちになっていた。贋作専門の画廊が出店していた屋台からルオー風の油絵を30円で買ったが、暑さですぐに溶けだしてしまった。


 博物館の屋台はいつの間にか射的に変わっていて、ローランドゴリラの剥製がハチの巣みたいになっていた。スーパーボールすくいではビニールプールの中で手足の生えたスーパーボールが、祈りを捧げながら救いが来るのを待っていた。誰も寄り付かないので彼らは救われないままでいた。


 長い長い祭りはいつまでも夜にならず、黄昏時のまま時間が進まなくなっていた。
「そろそろ帰ろう」子どもたちに声をかけると、来た時よりも随分大きくなっていた。小学六年生の娘と小学一年生の息子だったのに、いつの間にか私より年長者に見えた。
「楽しかったねえ」とおばあさんに見える娘が言った。
「また来ようねえ」とおじいさんのような息子も言った。
 年老いた息子は若かった頃よりも軽くなっていたので、自転車の後部座席に抱えて乗せることができた。

 家に帰る途中で子どもたちは無事元の年齢に戻っていた。買ったはずの絵本もルオー風の絵画も、同じようにぺらぺらの紙切れになっていた。祭りで手に入れたものって、その場では光り輝いて見えても、家の中ではがらくたになっていくものだ。

「来週も別の所でお祭りあるけど」
「行く!」と子どもたちは答えてくれた。家に帰ると私は暑さにやられたのか、少し寝込んだ。よく考えたら砂のついた焼き鳥以外食べていなかった。

(了)

今週のシロクマ文芸部のお題「かき氷」に参加しました。
昨日行った地域の夏祭りをほぼそのまま書いたもの。生成画像は全てDALL-E3によるものです。

祭りに行った日のことを書いた記事。


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