見出し画像

三浦綾子「母」

「蟹工船」を書いた小林多喜二の母、小林セキへのインタビューという形で書かれた小説。母から息子への限りない愛が幾度も語られる。警察でリンチを受けて殺された多喜二と対面した母の慟哭が胸に響く。
後に彼女はキリスト教を知り、十字架に磔にされて槍で刺殺されたイエスと息子を重ねることになる。


 布団の上に寝かされた多喜二の遺体はひどいもんだった。首や手首には、ロープで思いっきり縛りつけた跡がある。ズボンを誰かが脱がせた時は、みんな一斉に悲鳴を上げて、ものも言えんかった。下っ腹から両膝まで、墨と赤インクでもまぜて塗ったかと思うほどの恐ろしいほどの色で、いつもの多喜二の足の二倍にもふくらんでいた。誰かが、
「釘か針かを刺したな」
と言っていた。


多喜二のきょうだいについて多く語られる。序盤に書かれた多喜二の兄、多喜郎は、学業の才を見込まれ、小樽で事業を成功させた親類のもとに養子に出される。その数カ月後に、急性腹膜炎であっけなく亡くなってしまう。

自分に子どもがいない頃に読んでいたら感じなかったかもしれない想いを抱きながら読む。今はすっかり元気な下の子だが、二度入院の経験がある。大したものではなかったが、「入院の必要がある」と聞いた瞬間に思い描いてしまった最悪の未来は、想像するだけで全身から力が抜けて何もやる気がしなくなった。

小説を書いて殺される、そんな時代があった。


三浦綾子の作品は初めて読んだ。Kindle Unlimitedで代表作がいくつか読めるようになっている。
私は続いて青空文庫版、小林多喜二「蟹工船」をDLした。

※何かの感想は、筆が滑りすぎて「思っていなかったことまで書いてしまう」ことにならないよう、簡素に書くつもり。






この記事が参加している募集

#読書感想文

190,514件

入院費用にあてさせていただきます。