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「ミニチュアメカキリンは紫陽花を好む(挿絵つき)」#シロクマ文芸部

 紫陽花を好んで食べようとするのだ、うちで飼っているミニチュアキリンは。紫陽花の咲き乱れる季節になると、すぐに首を突っ込んでいこうとする。紫陽花の咲いている場所を避けて歩いても、思わぬところで紫陽花を発見することもある。ミニチュアキリンの先祖であるキリンたちが、アフリカの地で好んで食べていた植物に形が似ているらしい。愛玩用に小型化されても、本能に刷り込まれている好物の記憶はなくならないらしい。

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 紫陽花には毒があるのだという。
 飼っているミニチュアキリンが花壇に咲いている紫陽花を食べようとする場面から始める。そこだけ決めて書き出してから、紫陽花について調べてみたら毒の話が出てきた。子どもや犬が食べてしまわないように注意してください、といった文言も出てきた。私の中では、ミニチュアキリンが紫陽花を食べることを止めるために四苦八苦する飼い主の話がもう転がり始めていた。自宅で食用紫陽花を栽培してキリンに与えることにする。人の家の紫陽花を食べてしまったお詫びの品として、飼い主は見当違いの物を選ぶ、さて何にしようか、などと考えていた。

 それなのに紫陽花に毒があると分かった時点で、この話は破綻してしまった。ほのぼのペットとの珍騒動、なんて話にはできなくなってしまった。

 私は悩んだ。紫陽花を食べない話にすることをまず考えた。紫陽花を眺めるのが好きなミニチュアキリンの話。紫陽花を食べても大丈夫なメカミニチュアキリンの話。全ての動植物に毒があり、誰もが毒に対する免疫を持ち合わせており、逆に毒が無毒化されている世界の話。紫陽花などは登場せず、仲良しのラブラドール・レトリーバーとミニチュアキリンがいちゃつくだけの話。「ふつうの低音部」という、軽音部から分離独立した、ベーシストだけが集まる部活の話。四人のベーシストに迫る、五本目のベースを抱えたヒロインの話。

 最後のは関係なかった。


AI作画

 それらを踏まえて書き直してみる。

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 紫陽花を好んで食べようとするミニチュアキリンへの対応策として、以下の方法をお勧めします。

1.紫陽花の咲いている場所に近づかない。
2.ミニチュアキリンを飼わない。
3.紫陽花の毒を無毒化するよう品種改良する。全ての紫陽花を。
4.ミニチュアキリンが紫陽花を食べても大丈夫なように品種改良をする。全てのミニチュアキリンを。
5.毒なんてこの世に存在していない振りをする。
6.新入生の凄腕ベーシストは既存の部員をないがしろにする傾向があります。

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 違う。特に最後のは違う。こんな見当はずれのAIの回答みたいな文章を書くつもりはなかった。私はどこへ向かっているのか。ただ、紫陽花を食べようとするミニチュアキリンの話を書こうとしていただけなのに。これでは「紫陽花から書き出す小説の話をうまく書けなくて右往左往している人の話」になってしまう。落ち着こう。落ち着くためには何が必要か考えよう。ハーブティーだ。紫陽花の葉を乾燥させた「甘茶」というハーブティーがあるのだ。そこらで見る紫陽花とは違う品種のようだし、当然毒の入っていない部分が用いられている。紫陽花について小説を書くからといって、取り寄せておいたのだ。良かった良かった。

 ねえよ。そんなものはねえよ。いやあるけど。販売はされているけど。うちにはねえよ。あとハーブティーを嗜む習慣もねえよ。もっぱら水を飲んでるよ。落ち着くつもりが落ち着かなくなってるよ。というわけで、オチもつかない、ということで(了)。

 なんてことはしないからね。ここまで書いてきたことを組み合わせて、ほのぼの動物小説を書いてみせるからね。そもそもミニチュアキリンなんていうアイデア、ここまで突っ込んでこなかったけど、かなりグロテスクなアイデアじゃないかって思うけど。キリンってかなり大きいから、ペットサイズへの品種改良ってかなり過酷な歴史がありそうだよね。もうメカの方がいいんじゃないか。

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 紫陽花を好んで食べるのだ。うちのメカミニチュアキリンの「ズィズ」は。基本プログラムとして遠い先祖の記憶が入ってしまっていて、削除できないのだという。紫陽花には毒があるのだが、メカなので食中毒を起こすことはない。しかし花壇に咲いている紫陽花を食べてしまうと厄介なので、私はズィズにつけた引き綱を引っ張って紫陽花から離していく。この季節は毎年こうだった。

 早朝の公園には人の気配がない。私はズィズに「ここからここまで」と区間を限定した指示を出して歩き回らせる。その間に担いできたベースをケースから取り出して、木陰でベースの練習を始めた。私の所属する「低音部」はベーシストしかいない。昨年転入してきた私は、男四人のバンド「ベース四本」に、たった一人の女性メンバーとして加入した。「ベース五本」になった私たちはいろいろあって大躍進して、その結果今年の新入生がたくさん入ってきた。しかしそのうちの一人で、凄腕のベーシストではあるものの、鼻もちならない厄介者がいるのが悩みの種であった。


AI作画。ペグが五個で弦が三本の変則ベース。メカキリンの背中にクレーンつけろなんて指示は出してない。

 ズィズは仲良しのラブラドール・レトリーバーと再会して楽しそうに遊んでいる。私も練習を一休みして一緒に遊ぼうかと思ったその時、頭上からべボーンというベース音が響いた。その音の響きにやられたのか、大量の葉っぱが落ちてきた。
「もう終わりかよ。お前のベースへの情熱はそんなもんかよ」
 やつだ。例の一年生の無礼な部員。いつからそこにいたんだ。
「昨日からずっとここで練習してたんだ。寝落ちしてたら、下からべベンボボンとへたくそなベースの音が聞こえて目が覚めちまった」
 昨晩から? 蚊に刺されまくってない? そんな私の心配をよそに、彼は激しくベースを弾き始めた。

 私は彼を置いて、ズィズとラブラドール・レトリーバーと遊ぶために駈け出した。この一時だけは、勉強のことも、ベースのことも、部活のことも、音楽のことも、恋愛のことも忘れられた。この時間のために生きているのだとも思えた。変質者ベーシストに構っている場合ではなかった。

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 何を書いているか分からなくなった私は今度こそ筆を置くことにした。
「何してんのー」と言いたげに、ミニチュアメカキリンのズィズが脇から頭を突っ込んできた。
「散歩行こうか」というと喜んで頭の二本の角をぴょこんぴょこんさせている。
「紫陽花を食べるんじゃないよ」とズィズに言うと、こくんと頷く。しかしどうせ分かった振りをしているだけだ。リードをズィズにつけて、ベースも背負ってもらった。私は玄関を出た。外では夏が始まっていた。


AI作画。背負い方が独特。

(了)

シロクマ文芸部「紫陽花を」に参加しました。
最近AIと戯れているので、テスト的に挿絵を使ってみました。書き上げた後でAIに批評を頼んだら、いろいろ改善点の提案を出してくれましたが、それらは全部無視しました。
※「ふつうの低音部」は「ふつうの軽音部」のパロディです。

note創作大賞2024エッセイ部門に参加した以下の記事からの流れで、「紫陽花を好んで食べるミニチュアキリン」の話を思いついたことから始まった話でした。



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