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佐藤大介「13億人のトイレ 下から見た経済大国インド」

13億人の人口を擁するインドでは、人口分のトイレは用意されていない。誰もが家にトイレを持っているわけではない。では公衆便所のようなところに皆が用を足しにいくのかというとそうではなく、特に農村部ではいまだに屋外に大小の便を散らしているのだとか。携帯電話の契約件数が11億件を超えながら、5億人がトイレのない生活を送っているのだとか。

ユニセフの調査によると世界でトイレのない生活をしている人は10億人近く。その約半数をインドが占めていることになる。経済が発達し、都市化が進み、国が急成長する影で、「野外でトイレをしている最中に蛇に襲われたりするのが怖いために、朝の一度だけで一日の排泄を済ます」という人がいたりする。水源の近くで排泄することにより汚染された水を飲んで感染症を発症し、亡くなる子どもが年間12万人いるのだという。

政府は全国にトイレを作る政策を実施し、各市町村にトイレを設置し目標を達成させた。数字上は。しかし設置したトイレを維持する設備管理までは行き届かず、多くの人々は野外排泄を続けていた。聖なる川として沐浴者が大勢いるガンジス川には糞便性大腸菌が基準値の二十倍達しているところもあるという。

カースト制度の最下層に位置する「ダリット」の中に、下水の清掃を専門にする人たちがいる。大した装備も着けずに汚水の詰まりを直し、壁に貼り付いた糞便をこそぎ落とす。当然病に倒れる人が多い職種だ。

トイレを通してインドの現実を知るという切り口で書かれた本書を読み、トイレがあることが当たり前だという生まれた頃からの常識が覆された。茂みでの野外排泄には蛇やサソリだけでなく、人にも襲われる危険性がある。それらのリスクが当然のように含まれている生活を、この国では想像しにくい。5億人という数字も実感出来るものではないが、それらは間違いなく一人一人の人間の重なりである。分かった気になる必要はない。そういう世界があることは忘れないでおきたい。


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