「生き直し」岡部えつ
幼稚園年長組の息子の卒園が近づいている。「幼稚園に行くのはあと◯日」と毎日言っており、ついに一桁台に突入した。この春から小学校に通うことになる息子に向けて「学校とは恐ろしいところだよ」とは言えないでいる。発達障害・軽度の知的障害のある現在5年生の娘は、時々登校しているが、基本家にいる。
「生き直し」の主人公、相原真帆は、民話小説の賞を受賞したことをきっかけに、小学校時代の途中から過ごした町を訪ねることになる。彼女の転校のきっかけは、いじめであった。教師に頼られていた彼女は、あるいじめられっこを救うように頼まれ、彼女は奔走し、実際にいじめは収まったように見えた。
真帆が生徒会に立候補し、元いじめられっこが応援演説を書くことになる。しかし応援演説の原稿提出日に、彼女は校舎の窓から首を吊った。
迫害のターゲットは、かつていじめを無くした英雄のはずだった真帆に向く。自殺した生徒の敵討ちとして、町ぐるみの迫害を彼女は受け、逃げるように転校する。
しかし転校先の学校でも、陰惨ないじめはあり、立場の変遷があり、それらが古い閉塞的な町に伝わる伝説と相まって、どろどろした様相を呈していく。
私は小学校時代、常にいじめられる側の人間だった。今思えば、過剰に暴力性を発揮していた生徒が共に私立の中学校に進学したのを鑑みるに、家庭内での抑圧を学校で発散させていたのかな、などと思うことはできる。3年時に仲良しだった相手に、4年時に酷くあたられるようになったこともある。
そんな彼らも、2人きりの時はかつての仲良しのように振る舞うのだ。暴力的な行動や不必要な迫害は決まって3人以上の人が集まっている状況で行われた。
ある時私は先述の「元仲良しだったいじめっこたち」に袋叩きにあっている最中、コンパスの針で一人の太ももを刺した。以後いじめはなくなっていった。
中学時代、ヤンキーとも呼べない中途半端な集団となっている、先述の人たちと一緒に帰ったことがある。かつて指導者的立場にいた一人が、下っ端扱いになっていた。彼の父親が早くに亡くなったのと関係しているのかもしれなかった。改めて私が迫害を受けるようなことはなかったが、小学校時代の懐かしい話題になっても、私がいじめられていた、という話は出なかった。
この本を読みながら、楽しかった記憶のほとんどない小学校時代を思い出す。記憶に苦しめられる、というほどではないが、息子に向かって「学校は楽しいんだよ」なんて気楽に言うこともできないでいる。
年頃となった娘が毛を剃り始めている。娘の大きな特徴でもある繋がった眉毛の間も剃ってしまった。からかわれることも多かったのだろう。かといって元気よく登校するわけでもない。
朝一Spotifyで「お気に入りの曲」をシャッフル再生すると、こちらを見透かしたようにKORN「Here to Stay」が流れ始めた。歌詞の和訳を確認すると、幼い頃の痛みについて歌われている。リピート再生しながらこの文章を書いた。
学校には攻撃性と暴力と差別意識と排他性が蔓延している。どこであろうと確実に。やがて傷つき帰ってくるかもしれない息子を、家庭で癒やす用意はできている。
ドラゴンボールごっこの最中に、「自分で投げた柱に飛び乗る桃白白(タオパイパイ)」の説明を始めようとしたら、「タオパイパイ」の名前の時点で笑いだして、なかなか前に進めなかった。
(了)