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雨の日と月曜日とししとうは

「ししとう」は、いつも私の気を滅入らせます。

辛いのを覚悟して食べるししとうは、いつも辛くないくせに、辛くないだろうと油断して食べるししとうは、いつも辛いからです。

なにも辛いししとうに当たったからってそうなる訳ではありません。むしろ辛くないししとうを食べた時にこそ、私の気は滅入るのです。

カーペンターズが唄う「雨の日と月曜日は」のように。



私は焼き鳥屋さんに行くと、いつも野菜串を注文します。なかでも、椎茸とししとうは私の大好物です。椎茸は、お店やその時々によって、当たり外れがある印象を受けます。肉厚でジューシーな椎茸が出てくる場合もあれば、痩せ細った薄っぺらい椎茸が出てくる場合もあるからです。椎茸自体が、個体差がはっきり表れてしまう食材なのかもしれません。

それに比べると、ししとうはとても安定感があります。どこで食べても大体において、ししとうはししとうです。焼き加減こそ多少の違いはあるものの、手ぶれ補正機能が付いているんじゃないかと思わせるくらいに、大きさも、味も含めてあまりぶれを感じさせません。

そんなししとうには、たまに激辛のししとうが混ざっていることがあるのは皆さんご存知かと思います。
割合にすると、だいたい十本に一本くらいの割合であの辛いししとうの彼は存在しています。

彼の特徴としては、種が少ないことと、形がいびつなことが挙げられますが、実際にそれを見分けるのはなかなか難しいようです。

そもそもししとうは、青唐辛子を辛くないように品種改良された食材なのですが、栽培中に高温の状態が続いたり、水が不足していたりなどのストレスを感じると、辛み成分であるカプサイシンを生成して辛くなってしまうのです。
もともと備わっていた青唐辛子の遺伝子が、ストレスによって引き起こされてしまい、まさに眠れる獅子が目を覚ましたかの如く激辛になるのです。

焼き鳥屋さんで食べるししとう串は、ししとうが四〜五本刺さって一串になっている事がほとんどだと思います。それを先程の割合で考えると、ししとう串を二〜三本食べると、彼が一人は混ざっている計算になります。

これを多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれですが、私はなかなか多いと思います。

なぜなら私が食べるししとう串には、大体において彼がいるからです。

料理の仕事を始めたばかりの頃、先輩に連れられていった焼き鳥さんで食べたししとう串にも、まだ妻と結婚する前にデートで行った焼き鳥屋さんのししとう串にも、ちゃんと彼がいました。

さらに極め付けなのは、私が六本木のレストランで働いていた頃、同僚と二人で行った焼き鳥屋さんのししとう串は、四つのししとうの内、三つが激辛の彼でした。これは青唐辛子串なんじゃないかと思うくらいの激辛で、私は涙を流しながら悶絶していた記憶があります。

そんなこともあり、私はししとう串を食べる時はいつも身構えてしまいます。いつ彼が現れてもいいように、常に左手にお酒をスタンバイしているのですが、そうやって気を張っている時に限って彼は姿を現しません。

それはまるで画面から出てない貞子のようなものです。「来る、きっと来る」と言っておきながら、画面から一向に出てこない貞子。本当に出てきてしまったら、それはそれは恐ろしいのですが、まったくもって出てこないのも、それはそれで物足りないのです。

実際に彼を食べてしまった時には、
「あー、まただよ。よく当たるんだよね、わたし。」
とか言っちゃうくせに、彼が一人も来てくれないと、なんだか肩透かしにあったような気分になってしまいつまらないのです。

まさにないものねだりの極みですね。これは隣の芝生が青く見えるどころの騒ぎではなく、ただのわがままです。

そんな自分のめんどくさい性格が垣間見えてしまうから、ししとうはいつも私の気を滅入らせるのです。

でもやっぱり、ししとうはとっても美味しいから、お酒のつまみにぴったりだから、ついつい頼んでしまうんですね。


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