短編小説 「こどもの遊び」
子供のころ、『ごろっちゃん』という遊びがあった。
誰が発案したでもなく、友達同士みんなで遊んでいたら、いつの間にかできていた遊びだ。
ルールは、住宅地の中をみんなで一斉に自分の気に入ったものを探しにいく。気に入ったものを見つけたら、『ごろっちゃん』という名前をつける。名前をつけたら、公園に集合する。みんなで『ごろっちゃん』を見せ合い、一番『ごろっちゃん』に相応しいものを決めるという、単純な遊びだ。
その住宅地のものならなんでもいいというルールだった。だから、みんなはとにかく目立つようなものだったり、意外性のあるものだったり、試行錯誤しながらいろんなものを持ってきた。
最初は綺麗な石とか綺麗な棒、落ちていた新品のお菓子、よくわからない機械、とかなるべく珍しいものを集めてきた。
ある時、誰かがマネキンを持ってきた。この住宅地の中でマネキンが見つかったことにみんなが驚いた。間違いなく今日の『ごろっちゃん』はこのマネキンだった。
次の日からの『ごろっちゃん』探しはみんな必死になった。あのマネキンを超えるものを見つけないといけない。みんなが住宅街の中を散策している時に、主婦の立ち話が聞こえてきた。
「ねえ、高木の・・・服、服。あそこのマネキン、盗まれちゃったんだって。笑っちゃうよね。」
誰かがマネキンを盗んだ。
こんなのルール違反じゃないか。みんなは、この仲の誰かに怒りを持った。その反面、自分にできることの幅が広がっているのがわかった。
次の日、誰かがリヤカーを持ってきた。またある時は大きいテレビを持ってきた。またある時は新品のゲーム機を持ってきた。そしてある時は車があった。
持ってくるものが徐々に大きくなっていたせいで、公園には持ち帰れなくなったガラクタたちで散乱し始めた。
しかし、みんなはやめるどころか、どんどんエスカレートしていった。
SUVの車だったり、外車、大きなバイクだったり、やがて、重機まで持ち出した。
ダンブカーやロードローラーを持ち出してきた時には、もう公園は元の形をなくしていた。
エスカレートしていくとはいえ、集められるものにも限界が来た。みんなが悩み頭を抱えている時に、ある奴が外車のトランクを開けた。そこにはピストルが入っていた。
そこから、そいつがどこからか銃火器類を集めてくるようになった。
他のみんなも負けじとライフルだったり、マシンガンだったり、バズーカだったりとありとあらゆるものを集めてきた。
やがて、あるやつは戦車を持ってきた。その日はそれが、『ごろっちゃん』かと思っていたが、そこに戦闘機を持ってくる奴がいた。
その二人のどちらかが『ごろっちゃん』に相応しいのか。そこに、冷たい空気が張った。
その時、誰かが誰のでもないスマホのTwitterを二人に見せてきた。
そこには、みんなの中の誰かがワイドショーに出ていた。
「中々見つからないので僕が『ごろっちゃん』になります。」
と言い出すと、その誰かが出演者全員を殺し始めた。
みんなが「今日の『ごろっちゃん』はあいつだ。」と認めた。
次の日、新聞には『ごろっちゃん』の文字で埋め尽くされた。
このかつて住宅街だった場所の人々から、全国民が『ごろっちゃん』について気になり始めた。
みんなはそんなことは気にせず、『ごろっちゃん』の捜索に没頭していると、主婦が話しかけてきた。
「ねえ・・・『ごろっちゃん』って何?。」
「遊びだよ。」
「なんで、『ごろっちゃん』なの?。」
「知らねーよ。」
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