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短編戯曲 「砂漠で迷う。」

登場人物 ・男 サラリーマン
     ・運転手 タクシーの運転手

 そこは日本にある大きな砂漠。当然、砂しかなく、どこまでも砂の地平線が広がっている。太陽に照らされた、その砂のど真ん中に運転手が座っている。

運転手 あちぃ。・・・だめだ、腹減った。

 運転手はタクシーの方を見ている。
 男がやってくる。

男   直りませんか。
運転手 無理ですね。
男   すいません。
運転  いや、無理にここまで来たのは私なので。
男   無理言って、こんな砂漠にこさせたのが。
運転手 いやいや、仕事ですから。
男   すいません。本当。
運転手 いいですよ。私もタクシーがダメになるなんて思わなかったんで。
男   すいません。
運転手 無線もダメになってて。
男   助け、呼べませんか?。
運転手 ええ。
男   あ、スマホ。
運転手 圏外です。
男   ・・・本当にすいません。
運転手 やめましょう。今は生きることだけ考えましょう。
男   そうですね。
運転手 そうです。こんな・・・砂しかない。
男   砂漠ですから。
運転手 こんな中に入ってきたの初めてですよ。
男   私、砂漠、初めてです。
運転手 そうなんですか。
男   ここ富山県なんですよね。
運転手 そうですよ。
男   全部、砂漠なんですか?。
運転手 ええ。
男   富山県が、全部。砂漠に。
運転手 ええ、そうですよ。隅から隅まで、砂漠です。
男   なんで砂漠になったんですか?。
運転手 知りません。
男   そうですか。
運転手 お客さん何しにきたんですか?。
男   え。
運転手 こんなところに、仕事?。
男   転勤です。
運転手 砂漠に?。
男   砂漠に。
運転手 へぇ、会社が、こんな砂漠にねえ。
男   ええ。
運転手 全然、どこにあるかわからないし・・・あ、左遷でしょ?なんつって。

 間

運転手 すいません。
男   水。
運転手 え?。
男   水、ありますか?。
運転手 ないですね。
男   そうですか。
運転手 喉、乾きましたね。
男   ええ。
運転手 腹も減りましたし。
男   そうですね。ちょっと。
運転手 こういう時、オアシスとかあったらいいんですけどね。
男   え?。
運転手 ほら、オアシス。水に、果物?。
男   ああ。あ、私の会社、オアシスの水ってのを売ってたんですよ。
運転手 ほお。
男   ペットボトルに水道水詰めただけなんですけどね。それを。
運転手 オアシスの水って。
男   ええ。
運転手 ちょっと美味しそう。
男   意外と売れてるんですよ。
運転手 そうなんですか。
男   そう、今度、「本当のオアシスの水」っていうのを新しく出すんですよ。
運転手 本当の?。
男   今度は本当にオアシスの水を詰めようって、それで。
運転手 ああ・・・あ、それで。
男   はい?。
運転手 転勤。
男   はい。
運転手 ああ、なんだかなあ・・・。
男   あ、サンプルみます?。
運転手 サンプル?。
男   今あるんですよ。
運転手 え。

 男はタクシーの方に行き、鞄を持って、戻ってくる。
 そして、中から2本、ペットボトルを出す。

男   オアシスの水です。
運転手 これが。
男   水道水ですよ。

 二人はペットボトルを見つめた後、オアシスの水を飲み干す。

運転手 うわ、本当にオアシスの水だ。
男   水道水なんですけどね。
運転手 水あるなら言ってくださいよ。
男   サンプルあるの忘れてました。
運転手 まだ、あるんじゃないですか?。
男   いや、これで。
運転手 本当ですか?。
男   本当ですよ。
運転手 食べ物とか残ってるんじゃないですか?。
男   ないですよ。見ます?。
運転手 はい。

 男はカバンの中身を出し始める。

男   書類関係、カロリーメイトのゴミ、本、あ、これグルメの本ですね。
運転手 また、腹の減りそうな物を。
男   スマホ、ハンカチ、あとは、このボタンのやつくらいですかね。
運転手 ないですね。
男   ないですよ。

 運転手はボタンを見る。

運転手 このボタンなんですか?。
男   これですか?。
運転手 はい。
男   何かあったときに、どんなところでも緊急の電波を送れるボタンです。
運転手 ん、どういうことですか?。
男   ほら遭難とか、圏外だろうがどこでも警察と消防に救助の要請ができるんですよ。
運転手 ・・・それ今押すべきなんじゃ?。
男   あ。

 男はボタンを押す。
 2人は安堵する。

運転手 本当、何やってるんですか。
男   忘れてました。
運転手 そんなんだから、砂漠に左遷させられたんじゃないんですか。

 男は分かりやすく落ち込む。

運転手 あ、すいません。
男   窓際なんです。
運転手 ああ・・・。

 間

運転手 ま、これでね。助かるし。
男   あ、せっかくだし、何か探してきます。
運転手 え。
男   汚名返上です。
運転手 いいですよ。
男   何かさせてください。
運転手 救助が来るまで待ってた方が。
男   大丈夫ですよ。お腹空いてるんですよね?。
運転手 いいですよ。下手に動いたら・・・。

 男は行ってしまう。

運転手 ああ・・・。

 運転手は座る。

運転手 腹へった。

 運転手はじっと砂漠を眺める。

運転手 砂嵐くらい・・・それは勘弁。

 男が急いで戻ってくる。

男   ありましたありました!!。
運転手 何が?。
男   オアシス!。
運転手 え?。
男   オアシスですよ!。
運転手 おお!。
男   本当のオアシス、見つけましたよ!。
運転手 果物は?。
男   なかったです、行きましょう!。
運転手 あ・・・。
男   さあ。
運転手 オアシスは・・・今はいいかな。
男   ・・・。

 おわり


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