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短編戯曲 「そんな目で見るな」

登場人物 ・ミヤザワ ・マキノ 

 とある会社の休憩スペース。
ペットボトルと空き缶のゴミ箱があり、その横に長椅子が一つある。

 長椅子に女性(マキノ)が缶コーヒーを飲んで休んでいる。

 やがて、自動販売機から飲み物が落ちる音が聞こえてくる。しばらくすると、缶コーヒー片手に男性(ミヤザワ)が現れる。

ミヤザワ お疲れっす。
マキノ  お疲れ。
ミヤザワ なんとか終わりましたね。
マキノ  ね。
ミヤザワ どうなるかと思いましたよ。
マキノ  急だったもんね。あ。

 マキノは長椅子の半分を譲る。

ミヤザワ すいません。

 ミヤザワは座り、缶コーヒーを飲む。

ミヤザワ あぁ・・・。
マキノ  (飲んでいる姿を見て)ふふ。
ミヤザワ はい?。
マキノ  飲みっぷりが。
ミヤザワ ああ。
マキノ  あ、(呑みのジェスチャー)いく?。
ミヤザワ お、いいっすね。
マキノ  ね。
ミヤザワ でも、まだ気抜けませんよ。
マキノ  大丈夫でしょ。
ミヤザワ 明後日、警察でしょ。
マキノ  片付け終わってるし。
ミヤザワ ガサ入れ終わってからの方が。
マキノ  まあ、そっか。
ミヤザワ そうっすよ。
マキノ  じゃあ、店考えといてよ。
ミヤザワ え。
マキノ  センス。
ミヤザワ ええ〜。

 ミヤザワはスマホを見る。

マキノ  おしゃれな店。
ミヤザワ いや、わからないっすよ。
マキノ  探せ、探せ。
ミヤザワ はいはい。

 マキノもスマホを見始める。

ミヤザワ あ。
マキノ  見つけた?。
ミヤザワ これ。
マキノ  ん。
ミヤザワ 狭いんですよね。

 ミヤザワはマキノにスマホをみせる。

マキノ  まあでも、いいじゃん。
ミヤザワ えっと、5人?。
マキノ  じゃない?。
ミヤザワ いや、4人だ。
マキノ  え。
ミヤザワ 部長。
マキノ  ああ、フィリピンか。
ミヤザワ はい。
マキノ  じゃあ、ここにしよ。
ミヤザワ 予約しときます。

 ミヤザワは電話をかける。

マキノ  いいねえ、仕事早いよ。
ミヤザワ あ、もしもし。予約したいんですけど。明後日。4人です。はい。はい。お願いします。
マキノ  少なくなったね。
ミヤザワ はい?。
マキノ  人。
ミヤザワ ああ。
マキノ  4人。
ミヤザワ ヨコタいなくなって三ヶ月ですよ。
マキノ  ヨコタさんやめてそんな経つ?。
ミヤザワ ええ。
マキノ  そっかあ。
ミヤザワ あんなんでも居てくれれば、ありがたいんですけどねえ・・・ちっ。
マキノ  まあ・・・。
ミヤザワ そう、使えなくてもいいんですよ。ヨコタ以下は困りますけどね。
マキノ  頭数、揃うだけでもね。
ミヤザワ そうっすよ。あー、ちきしょう。
マキノ  しょうがない・・・。
ミヤザワ まあ。

 ミヤザワは缶コーヒーを飲み干す。

マキノ  あ。
ミヤザワ 飲みました?。
マキノ  え?。
ミヤザワ それ、コーヒー。
マキノ  え、何?。
ミヤザワ 捨てましょうか?。
マキノ  ああ、入ってる。

 ミヤザワは空き缶を捨てる。

マキノ  あれ?。
ミヤザワ はい?。
マキノ  何言おうとしたんだっけ。
ミヤザワ 知らないっすよ。
マキノ  なんの話してたっけ。
ミヤザワ え、コーヒー?。
マキノ  違う。
ミヤザワ え?。
マキノ  なんだっけ。
ミヤザワ あとは・・・ヨコタがどうのこうのって・・・。
マキノ  それだ。ヨコタさん。
ミヤザワ どうしたんすか。
マキノ  死んじゃったって。
ミヤザワ え。
マキノ  ヨコタさん死んじゃったって。

 間

ミヤザワ そうなんですか。
マキノ  知らなかった?。
ミヤザワ ええ。
マキノ  急だよね。
ミヤザワ いつ?。
マキノ  知らない。部長がフィリピン行く前に言ってたから。
ミヤザワ そうですか。

 ミヤザワは長椅子の前の方をじっと見つめる。

マキノ  どうしたの?。
ミヤザワ いや・・・。
マキノ  責任、感じちゃってる?。
ミヤザワ なんで。
マキノ  よくここで怒鳴ってたじゃん。
ミヤザワ 三ヶ月も前のことですよ。
マキノ  まあ。
ミヤザワ そんなんじゃなくて・・・いや、なんだろう・・・そこに居たんですよ。三ヶ月前は。
マキノ  そうだね。
ミヤザワ そっか・・・。

 動かないミヤザワを見つめるマキノ。

マキノ  いいなあ・・・。
ミヤザワ え?。
マキノ  そんな感覚無くしちゃった。
ミヤザワ 何がですか?。
マキノ  誰かが死んでもそんな、その悲しい感じ?にならなくなっちゃった。慣れ?慣れかな?。
ミヤザワ 僕も慣れてるつもりでした。
マキノ  人の死に慣れちゃうんだよね。この仕事してると。なんだろう、業務の一環みたいな感じになっちゃってる。だから、まだ、そんなふうになれるのが羨ましい。
ミヤザワ 羨ましい?。
マキノ  そう。もう家族くらい悲しめないかもね。・・・いや。

 マキノは缶コーヒーを飲み干す。

マキノ  うげえ、冷めてる。

 マキノは空き缶を捨てる。

マキノ  戻るか。
ミヤザワ ・・・。
マキノ  おーい。
ミヤザワ はい。
マキノ  戻るよ。
ミヤザワ ・・・はい。
マキノ  何。
ミヤザワ そこにいて、僕をずっと見てたんですよ。
マキノ  誰が。
ミヤザワ ヨコタ。その目がなんだかよくわからなくて。怒りでも悲しみでもない、何もない目で俺を。いや、見てたのかな。
マキノ  さあ。
ミヤザワ ・・・死因とかって。
マキノ  わからない。本当、死んだってことだけ。
ミヤザワ そうですか。

 間

マキノ  ごめん。
ミヤザワ え?。
マキノ  なんか、こんな話しちゃって。
ミヤザワ いえいえ。
マキノ  戻ろ。
ミヤザワ はい。

 二人は去ろうとする。
 が、ミヤザワは足を止める。

ミヤザワ この先、どうなっていくんですかね。
マキノ  何が?。
ミヤザワ この先、十年後とか、自分がどうなってるのか、なんかそういう・・・やっぱいいです。
マキノ  そう。

 マキノは去る。 
 ミヤザワは振り返る。そして先ほど見ていた場所を見ている。それは場所をみるというより記憶を見ている。

ミヤザワ そんな目で、俺を見るな。


 おわり




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