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【日記】『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』が作られるのでおれはこの10年について書く

 よくきたな。おれはゾウのドントというものだ。いつもは怖い話や謎の短編を書いてインターネットという深い谷へと投げ込んでいるが、誰のためというわけでもない・・・

 だが2021年11月5日、『仮面ライダーオーズ』の新作映画が作られるというニュースが入ってきた。そして翌6日、NHKの全仮面ライダー作品ランキングで『オーズ』は強豪を抑えての第3位……おめでとうございます…………



 はじめてリアルタイムで全話観た特撮がオーズであり、放送後もメインキャストふたりの情報を仕入れてきたおれとしては、この完全新作……しかも完結編とかかれている……に寄せて、この10年間のふたりについて記しておかないといけないという気持ちになった…………
 いま「情報を仕入れてきた」と書いたが、正確には「主演ふたりに関わって強めの燃料が定期的に投入されてくる」というのが実際だ。読んでいけばその強さがわかってもらえるはずだが、それはそれとして……。
 ここでは『仮面ライダーオーズ』とはどんな作品で、この10年間、主演である渡部秀と三浦涼介のふたりの間にどんな感じの出来事があったのか……そうゆうことを記していく。

 なおおれはアイコンからもわかるように完全なゾウであり、人間界のルールにはまったく縛られず、すごい勢いでネタバレをしていく。まったくの無慈悲に……。おそろしいと思った者は今すぐにツタヤとかゲオに走って、オーズ関連作品を借りてくるとよいだろう……お店に行くときは交通安全とかに気をつけてね……
 また、自分に勢いをつけるために借り物の文体を採用しているものの、たぶん途中から徐々に元の文体に戻っていくので、ご了承ください……


①テレビ放送は2010年~11年


 そもそも『仮面ライダー』とは50年前……1971年くらいにはじまったヒーロードラマで、基本的には腰に巻いたベルトで変身して、悪い組織や世界と相容れない者たちと戦う……そのような物語だ。
 50年の間には様々なライダーが登場した。悪の手先のライダーや、凶悪犯のライダー、バイクに変形する奴、女性のライダー、ドーナツしか食べない主人公、第1話ですぐ死んだ主人公、菅田将暉、吉沢亮、千葉真一の息子など……ダイバーシティ…………
 オダギリジョーが変身したクウガを皮切りに、平成に入ってからの仮面ライダーを総称して「平成ライダー」と呼ぶ。今や若手俳優の登竜門としても名高い……。『仮面ライダーオーズ』はその「平成」の12本目にあたる。


『オーズ』のひとつ前の『仮面ライダーW』は、大変な成功をおさめた。キャストも物語も言うことなしで、最終回近くは全日本が泣き、ベルトとかもなんか超すごい数が売れ、血に餓えた転売屋が街をうろつき……「ふたりで一人の仮面ライダー」という設定もあって薄い本もいっぱい出て……MOVEMENT……社会現象になった……

 そのような作品のあとに出てきたのが『オーズ』だった。
 
 先週までの『W』が最高だったがゆえに、ファンたちは期待と不安とともに『オーズ』の初回を見守ることとなった。
 そしてその日、朝8時のテレビに映し出されたのは……

 ジャラジャラと積み上がるメダル……

 メダルから復活するおそろしい怪人たち……

 ケーキを持ちながら「ハッピーバースデー」を歌う宇梶剛士……

 そして……パンツ一丁で赤いメダルを持つ青年だった…………


 青年の名前は火野映司(ひの・えいじ 演:渡部秀)。「明日履くパンツと小銭があれば生きていける」と豪語する飄々とした風来坊だが、困っている人を見ると助けずにはいられない性分でもある。

 一方、太古の力が封じられたメダルを擁する怪人・グリードは5体。完全復活して世界征服的なことを目指す彼らの中で、何故か腕しかない奴がいた。必然、第1話では腕だけが空中を飛び回ることになった……このように…… 



 腕だけ怪人の名前はアンク(声・演:三浦涼介)。一応、鳥の怪人である。他の4体の怪人とは決別しており、しかも腕しかない。圧倒的不利な状態からパンツの青年・火野映司を抱き込みベルトを渡して「オーズ」に変身させることに成功。
 さらに、他の怪人に襲われ瀕死となった若い刑事の腕にスポッと憑依することで、「腕だけではなく全身」「人質としての人間の体」そして「美麗な容姿」を手に入れることにも成功する……なおこの綺麗な顔だが、態度口調は不良かヤンキーに近い……


(腕だけ怪人✕仮面ライダー)


 かくして「とにかく人を助けたい仮面ライダー」と「メダルを集めて完全復活したい怪人」──ライダー✕怪人という、前代未聞のバディが結成されることになる──。
 これが『仮面ライダーオーズ』の導入部分である。

②巨大感情…………


「お前とは利害関係が一致してるから組んでいるだけだ。人の命よりメダルを優先させるようなことをしたら二度と手を貸さない」
「……チッ、わかったよ。アホかと思ったら意外に頑固で面倒な野郎だぜ。それはそうとアイスは毎日食わせろ。アイスおいしい」
 みたいなビジネスライクな共闘からはじまり……様々な出来事、シビアな戦い、バカな戦い、シリアスなやりとり、鳥の怪人に鶏肉を喰わせる蛮行、そして平和な日常などが積み重なっていく…………

 ここに、
 アンクが憑依した刑事さんの妹で、謎の怪力を持つ少女・泉比奈。
 とにかく明るい映司のバイト先の店長・知世子さん。
 何かとケーキを作って祝いたがる怪人物・鴻上社長。
 ものすごく強いが定時上がり主義者の秘書・里中。
 鴻上の会社の実働部隊ながら芽が出ず、オーズの強さにイライラを募らせる男・後藤さん。
 などが絡んでいく……
 途中から肩に人形を乗せていて、人との会話の際は常に人形に向かって話す怪博士・真木が登場してこいつがヤバかったり……いきなり第二の仮面ライダーが出現して敵を一掃、「後藤さんがとうとうライダーに! 活躍できてよかった!」と思っていると正体が全然知らない人だったり……とにかくいろんな輩が出現して飽きさせない……

 本作のメイン脚本家は小林靖子。最近ではNHKドラマ『岸辺露伴は動かない』の名脚色でファンを喜ばせたが元は特撮の脚本家であり……特撮の他は劇場版の『刀剣乱舞』やアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の構成……つまり「男たちの巨大感情」が得意な人であり、同時に「人間、特に男が心身ともにひどい目に遭う」ことを描くのが好きな人だ。
 これらの得意分野と趣味が『オーズ』でも遺憾なく発揮されることとなる。

 
「人を助けたい」という映司の気持ちが、ほとんど強迫観念でメンタルケアが必要なくらいのやつであることがわかってきたりとか……
 アンクが片腕だけなのは「腕以外の本体サイドの別アンク」がいるためで、腕アンクはそいつに取り込まれる=自分を失うことを死ぬほどおそれているとか……
 刑事さんの体に憑依することで、メダルの怪人としては感じたことのなかった「この世界のきらびやかさ」を知り、アンクが何かに目覚めていくとか……
 そんなアンクとは反対に、体にメダルを取り込んでしまったためどんどん怪人に近づいていき、視界や味覚や理性がどんどんぼやけていく映司だとか……
 メダル争奪戦が加熱していく中で必然的に、共に戦いわかりあえそうになっていた映司とアンクが対立してしまう流れとか……
 けれど怪人であるはずのアンクにもこの一年で積み重ねてきた思い、割り切れない感情があったりとか……

 そういうヒューマンな脚本がうねり、ひとつの頂点に達するのが終盤の46話。
 海岸。映司とアンクは心の内をすべてさらけ出して、波に揉まれてずぶ濡れになりながら殴り合うことになる……男と男の殴り合い……巨大感情…………



映司「お前の欲しいものって何だ!? 人間か!」

アンク「もっと単純だ……
    世界を確かに味わえるもの……命だ!」

(中略)

アンク「お前も何か欲しがってみろ……
    そうすればわかる!
    お前は何か欲しいと思ったことが
    あんのか!? 
    あんのか、映司!」

映司「…………俺は……欲しかった…………
   欲しかったはずなのに、諦めてフタをして
   ……目の前のことだけを……
   (※俺が欲しかったのは、)
   ……どんなに遠くても届く、俺の腕! 力!
   もっと……もっと!

(第1話でアンクからベルトをもらう映司のシーン)

   …………もう、叶ってた。
   お前からもらってたんだ。

   一度も言ってなかったよ。


   アンク…………ありがとう」




 ……これを言われた時のアンク(三浦涼介)の表情がものすごいことになっており、
 私のつたなく貧しい文章力で無理に書くとするなら
「様々な気持ちに引き裂かれて心が千々に乱れ、何かが吹き出してしまいそうになっているが、
 本人はそのことを客観視できておらず、ただ自分の中で荒れ狂う感情に困惑している」
 といった顔で、ものすごいことになっている(2回目) こればかりは観てもらうしかない。


③テレビ放送が終わり、そして劇場版


 そんな映司に心動かされ、完全な命を手に入れるよりも世界の平和=映司たちのために行動することに決めたアンク。
 しかしこの行為の代償は極めて大きく、ラスボスを倒すとともに自我と肉体の核であるところの「コアメダル」が真っ二つに割れ、存在が消滅してしまうのであった。
 アンクや他の人々の尽力により、「ひとりで全部抱え込まず、他人と手を取り合って生きていくこと」を知った火野映司。
 彼は再び人助けのため、世界を回る旅に出ることにする。
 しかし今度の旅はひとりではない。
 共に助け合い、生きた人々がいる。
 行く先々にも、様々な人がいるだろう。
 そしてポケットには、割れたアンクのメダル。
「もしかしたら、いつかこのメダルが元に戻せるかもしれない。そうしたら──」
 そんな思いを携えて、映司は今日もどこかへ歩いていく──


 ……このように、テレビ放送版の『仮面ライダーオーズ』は最終回を迎えたのであった……
 ベルトの売り上げは見事に『W』を越えた。しかし放送途中、東日本大震災が発生。
 収録や制作途中、余震に驚いたり、被災地に思いを馳せたりすることもあったろう。
 内容的に、変更を余儀なくされた部分もあったかもしれない。
 現実の災害が襲った中で作られるヒーロー物語というので、ある種の重責もあったやもしれぬ。
 それらを乗り越えて、オーズは終わった。
 喪失感、少しの悲しさ、しかし明日への希望に満ちた……素晴らしい最終回であった……

 が。

 オーズには、まだ出番があった。
 仮面ライダーには年末、次のライダーと組んでの通称「冬映画」というのが存在する。
 今回は福士蒼汰主演の『仮面ライダーフォーゼ』とのタッグで、フォーゼと共闘するのは映画の終盤だけ。
 前半は「オーズ」だけで、物語を構成しなければならないのである。
 この最終回の、あとの物語を……
 これの……あと……?

 この最終回を書いた脚本家・小林靖子はフル出力で本作に当たっており、「もう煙も出ねぇ」というような状態であったという。
 続きをやろうにも、変身に使うメダルは最終話で全てなくなっている。
 手元に一枚残るアンクのメダルもパッコリ割れてしまっている。
 もちろん裏主人公たるアンクも不在。
 どうしたらいいのやら。万事休すである。


 そもそもがオーズ、劇場版にはあまり恵まれていない作品であった。


 ひとつ前の仮面ライダーWとの共演映画は、他の脚本家に任せたせいか、

「困っている人がいると助けずにはいられない映司というキャラが曲解され、
 空き地にビールケースを重ねて自分のバイト代をホームレスのオッサンに配っている」

 
 という事象が発生しており、その他の部分でも「織田信長の肉体から生成されたホムンクルスが、明智光秀の末裔であるバレエ少女を狙う」など、なんだかこう、アレなことになっていた。
 なお本編中、意味深に名前・声・シルエットだけが突っ込まれた幹部クラスの怪人らしき存在「ギル」を小林靖子は何故かガン無視。その後「ギル」は一度も出てきていない。


「ライダーと戦隊が大集合でおおわらわ!」で恒例だった通称「春映画」(※現在は制作されていない)も、
 「ああ、春が来たね。お祭りだね」といった様子だった。


 満を持しての『仮面ライダーオーズ』単独主演の映画(通称「夏映画」)も、
 理由は不明ながらいきなり『暴れん坊将軍』とコラボすることになり、
 江戸時代の町並みでオーズとマツケンが揃い踏み。葵の御紋とオーズの胸マークが並ぶという面白インシデントが発生している。

 これは邦画史に残る重大インシデントだったため、珍妙な邦画を紹介するマンガ『邦キチ! 映子さん』でも取り上げられている……


 しかもこの冬映画、タッグを組むのはとにかく明るく勢いまかせの『仮面ライダーフォーゼ』ときた。
「やった~オーズが帰ってきた~。…………でもアンクはいない…………」となるのはまずい。寒暖差が激しすぎる。

 崖っぷちとも言えたこの状況でしかし、オーズは特大ホームランをぶちかます。


④いつかの明日

 冬映画『フォーゼ&オーズ MOVIE大戦 MEGAMAX』(2011年)にて、アンクは帰ってきた……少しの間だけ。

 現在(2011年)の仮面ライダーを抹殺しようと、未来から刺客が送り込まれてくる。 
 そこにふらりと現れ、以前のように憎まれ口を叩きながら映司にメダルを手渡すアンク。

 しかし──映司にはわかっていた。
 自分の手の中には、割れたメダルがある。
 これは、「今のアンク」ではない。

 現れたのは未来、40年後からの刺客の移動に紛れて(?)タイムワープしてきたアンクだったのである。
 アンクは時空ホールが開き、閉じると共に静かにいなくなってしまう。別れも告げずに。
 ここはまだ、自分のいていい場所ではないからだ。

 映画の最後に、映司たちはこのようなことを言う。


「アンクが40年後の未来からやって来たってことは、遅くとも40年後の世界では、アンクは復活してるってことだよね?
 じゃあ、いつかはわからないけれど、このメダルは元に戻って……アンクは必ず、絶対に生き返るんだよ。
 いつかはわからないけど……。そう、いつかの明日…………


 ──本映画は『仮面ライダーW』の劇場版で監督を担当し、そのアクションのダイナミズムと巧みさから日本の特撮ファンの度肝を抜いた坂本浩一が手掛けた。
 坂本監督と言えば、変身前の俳優たちにガンガンに生身アクションをやらせることで有名である。
 テレビ本編や他の劇場版ではほぼ見れなかった、映司&アンク本人たちのスーパーかっこいいアクションが、
 これにてお役御免となったオーズ組の寝所・レストラン「クスクシエ」のセットを躊躇なく破壊しながら披露され、
 さらに前述のウルトラC的な脚本によって「より希望に満ちたエンディング」を迎えることができ、
 前までの劇場版3本の物足りなさを補ってあまりある傑作に仕上がった。
 
 
 仮面ライダーオーズは、ここに完全に完結…………してもよかったのであるが
 ここから「公式による強めの燃料の投下」か開始されることになる。

⑤燃料は続くよどこまでも


 その潮流は、テレビ放送終了直後からすでに発生していた。

 最終回直後。キャストたちのブログにおいて、スタッフや共演者らに感謝を捧げる文章が書き記された。
 その中でも渡部から三浦/三浦から渡部、つまり映司←→アンクに綴られた長文には友情と愛が奔出していて、それはもうどえらいことになっていた。あまりにどえらい感情の奔流だったためネットで騒ぎになり、片方のブログ記事が消されるという事態すら発生した。
 この長文ふたつは、最終回でふらついているファンたちにとどめの一撃を食らわせた。若干ケガ人が出たかもしれない。

 さらに上記『MAGA MAX』の上映が終わり、「ふたりで富士急ハイランドで遊ぶ」とか「箱根ふたり旅」などの雑誌グラビア企画(あったんですよそんな企画が)も一通り終わった2012年5月末、驚きのニュースが襲来する。

 「オーズ」コンビ、再共演のニュースである。


 東映が「ライダーや戦隊に出た俳優の新たな魅力を引き出す」と立ち上げた「TOEI HERO NEXT」、その第一弾に、渡部×三浦が選ばれたのだ。
『PIECE~記憶の欠片~』はシリアスなSFサスペンスで、渡部は謎の事件で恋人を失った記者、三浦は五重人格のカメラマンという難しい役どころ。

 そして予告が公開されると、ファンは騒然となった。
 三浦涼介演じるカメラマンが、暗い部屋で渡部秀が演じる記者をそっ…………と後ろから抱きすくめているシーンがあったのだ。

 えっ、なに? となった。
 これは大変なことであり、つまり、大変なことであった。これは一体なんなのか? どういうことなのか? 
 当時は『his』とか『窮鼠はチーズの夢を見る』とか『ダブルミンツ』のような映像作品はまるでない時代である。これは一体なんなのか? そういうことなのか?
 フタを開けてみればそういうシーンではなかったが……それにしてもこの予告編は動揺を誘うものだった。ファンの中には負傷者が出た可能性もある。

 2012年9月の公開初日舞台挨拶は満員。さらに、
「新ブランドの第一弾ということで、いろんなプレッシャーがあった。でも精一杯やってよかった」
「自分も、俺たちで(この新ブランドの一作目が)できるのかと思った。だけど仲間に支えられて初日を迎えられた」
 と、すごい重責を感じていたらしい渡部・三浦ふたりともに舞台上で泣くという事態が発生し、ファンも泣いた。

 
 その後も、仮面ライダーのゲームなどにおける新規ボイス収録、
 配信トーク番組で渡部秀にケーキを食べさせる三浦涼介(何故と言われても俺にはわからない。その場の流れ的な……)
 映司とアンクのフィギュア(腕だけverも人間体verも出た。人間体はちょっとソース顔だった)の発売、
 お互いのテレビ・映画・舞台・ライブ出演へのエールや言及、
 キャストの誕生日に集まってお祝いする写真がアップされる……
 ……などの接点が続き、個別の活動も多岐に渡っていき、細く長い「オーズコンビ」「キャストみんな」の交流は静かに進んでいった。
 ファンも「みんな仲良しだね!」とおだやかに見守っていた。

 ……あの日までは。

⑥主演俳優 兼 闇のプロデューサー

 百聞は一見にしかず。
 2017年10月4日のファンミーティングイベントで初披露された冬映画『ビルド✕エグゼイド 仮面ライダー 平成ジェネレーションズFinal』の予告と、会場の反応をご覧いただきたい。



 メインとなるのは今放送中のライダーたちだけど、「平成ジェネレーションズFinal」と書かれている。
 ファイナルってんだから、それなりのライダー俳優たちを揃えてくれるんだろうね? との期待感はそれなりにあった。
(※特撮の場合、スケジュールの都合で菅田将暉や福士蒼汰などの「中の人」が出れない場合、変身後のスーツ姿だけが出るという「客演」の手法がよくある。というかほとんどがそうなっている)

 本作は、その期待を上回ってきた。
 この、客席からの声援、悲鳴、絶叫……

 福士蒼汰(本人)が顔見せしたくらいまでの「キャアーッ!」には、まだ「わービックリ!」というトーンがある。
 しかしその後、渡部&三浦のふたりが出たときの「ギャアーッ!?」という歓声、ざわつき……
「今なにか、信じられないものが映った」というような落ち着かなさ……
 名状しがたい旧支配者の姿を見たとき、もしかすると人類はこのような反応を見せるのかもしれない…………

 このニュースを知ったインターネットの特撮パーソンたちも仰天した。
『仮面ライダーゴースト』で人のよさをふりまいたタケル殿。
『仮面ライダー鎧武』で最終的には地球を離れたはずの紘汰(西洋のアーマー姿で出立したのにラフな私服で戻って来てる)
『仮面ライダーフォーゼ』の後は引く手あまたで忙しかったはずの福士蒼汰こと弦ちゃん。
 ……からの、「映司がいて、詳細は不明だがアンクが復活してる」だった。サプライズだらけの予告の大トリだったわけである。前情報も匂わせも皆無。ひっくり返るしかなかった。重傷者も幾人か出たかもしれない……

 公開日が近づくにつれて、さらにおそろしいことがわかってきた。
 三浦涼介に「りょん君(※愛称)も出ちゃいなよ」と出演を誘ったのは、当の火野映司役・渡部秀だったというではないか。
 プロデューサーを交えての食事の席では軽い調子で、しかしその夜に「本気でメール」を入れたというのだから、これは……。



 さらに
「アンクの台詞を提案して、脚本に入れてもらった」(※渡部秀はアンク役ではない)、
「差し挟まれる回想シーンはテレビ放送から渡部秀本人が厳選した」

 などの、ちょっと何を言っているのかわからないくらいの介入が行われていたらしく、戦慄が走った。彼を闇のプロデューサー=闇Pと呼ぶファンさえいたが、その呼び名も頷ける手の突っ込みようだった。
 思えば以前の映画のメイキングでは共演者とスタッフに「秀くんって今も毎日鏡の前で変身ポーズ決めてるんだよね?」「買ったの? ベルト」と言われて「あんま掘り下げないでもらっていいスか?」と答えていた。ここが冗談などではなく、マジの人であったことが判明した形だ。主演にして最大の『仮面ライダーオーズ』ファン……「俺が一番オーズとアンクと映司を理解している」と言わんばかりの……



 さらにこの情報公開から一週間後、興奮冷めやらぬインターネットを異常熱波が襲った。
『仮面ライダーオーズ』にて第二のライダー・仮面ライダーバースを演じた岩永洋昭のInstagramで、岩永が三浦涼介を「お姫様だっこ」している画像が投下されたのだ。
 なお彼は男性を「お姫様だっこ」をするのが好きらしく、他の機会にも共演者を次々と抱えている(宇梶剛士も)。三浦も笑顔で応じているし、顔がすごく近いものの、いつものやつだった、のだが……
 コメントの一言が地雷を踏み抜いた。



>P.S渡部秀様 お前がいなくても、俺らはラブラブですから💓


 これは挑発に非ず、もはや宣戦布告であり、サラエボの銃弾であった。コメント欄に渡部秀本人が降り立ち、


>へ~、俺以外にもそんな顔見せるんだね
>ちなみに、俺に見せる笑顔すごいからね?


 と投稿。
 なにこれ。


 ……そしてその月のうちに、渡部秀のInstagramにはこのような画像が掲載された。



>ほらな。
 オレに見せる笑顔の方が凄い。
 PS岩永 オレの勝ちだ。

 
 こわい。
 年上俳優を呼び捨てにしてる。
 何故か勝ち負けの話になってる。
 怪人の方もすごくおだやかな笑顔だし。
 なんなの。

 そんなこんなの中で公開された『平成ジェネレーションズFinal』本編も、凄味に溢れたものであった。
 他のライダーたちが「みんな久しぶり! 俺らも元気でやってんぜ!」くらいの感触だったにも関わらず、(主演プロデューサーの仕業なのか)オーズ組だけ濃厚なふたりのドラマが展開されている。
 結局アンクの復活は、悪の組織によるメダルの偽造によって偶然、短時間だけ成立したものであり、アンクは映司とつかの間の邂逅を果たした後、はかなく消えてしまうのであった。

 ここで特に書いておきたいのは、以下の事実である。

「テレビ本編でも、劇場版でも、雑誌のグラビアですら、映司とアンクが直接手をつないだことは ”一度も” ない

 渡部&三浦のとしての旅行企画やイベントでは、手を繋いだことが幾度もある。
 しかし火野映司&アンクとしてはなかった。その瞬間は、徹底して排除されていたのだ。

 映司は「伸ばされた手はこの手で掴みたい」とよく言っていたにも関わらず。
 劇場版の主題歌が「手をつなごう(feat' 松平健)」であったにも関わらず。
 最終回直前には、泉比奈を挟む形で手を繋いだことがあるにも関わらず──

 テレビ放送の最終話、アンクは「お前が掴む手は、もう俺じゃないってことだ」と言い残す。
 伸ばされた映司の手はむなしく空を切り、アンクは消滅してしまったのだった。

 手をつないだことは、一度としてなかったのである。


 その「手をつなぐ」ことが、『平成ジェネレーションズFinal』で解禁された。
 塔から落下していく映司の手を、アンクが掴んで助けるという場面で……
 手をつないだままふわりと地上に降り立つ映司とアンク……
 元は腕だけで、さらに片翼だったアンクが、かりそめながらも肉体を得て……その背中からは虹色の、美しく大きな羽根が生えている……
 見つめ合うふたり……エモーションの波………………


 2010年から7年間、公式にはどこにも存在しなかったこの「手をつなぐ」場面、最後の砦。
 おそらく全国で数百人のファンが客席で成仏・往生・昇天したであろうと思われる。


 なお主演のふたりは映画公開後、連れだって自分たちの出た映画を観に行っている…………

⑦ふたりはなかよし


 翌2018年も、戦車の如き重量感の関係性は続いた。

 1月深夜、突如として開始した渡部秀のインスタライブ。「イェーーーイ!!!!」とテロテロに酔った三浦涼介と素面の渡部秀が路上から飲み屋に入る様子が流され、「渡部に延々としがみつく三浦涼介」「ファンへの挨拶で噛んだのを咎められた三浦涼介がムッとして渡部秀を無言で叩く」などの一部始終が配信された。

 8月のイベント「吉本ヒーロータイム」では、


Q.あなたにとってヒーローとは?

渡部「みうらりょーすけ」
三浦「わたなべしゅう」

(見つめ合う二人)



 などのやりとりに、一部のファンが昏倒した。ダメ押しとばかりに渡部秀による三浦涼介のお姫様だっこまでもが披露され、残りのファンの頭部が吹き飛んだ。

 さらに10月と11月、平成ライダーを総括する『仮面ライダージオウ』に、別の世界線の火野映司として渡部秀が出演
 アンクは存在せず映司は政治家をやっている世界線にも関わらず、アンクを思わせる赤いネクタイをしてスーツの胸に赤い羽根を刺すファンサを忘れることはなかった。

 
 明けて2019年3月、前回のように深夜に配信された三浦涼介のインスタライブでは、

1.カラオケ店で映司✕アンクのデュエットキャラソン(あるんですよ……)「Time judged all」を熱唱
2.三浦が取り出した自身のリップケア用品をいきなり渡部秀の唇に塗りはじめる
3.ふたつに割れたコアメダルのネックレスの片方ずつ(ペアネックレス)をそれぞれ首にかけているのを視聴者に見せつける

 他の、夢を見ているような光景が次々と炸裂した。




 そして2020年は『仮面ライダーオーズ』放送開始から10周年のアニバーサリー。
 渡部秀のネットラジオには他の共演者とともに三浦涼介が出演し、思い出話や現在の交流について花を咲かせた。
 放送開始のまさにその日からはYouTubeの東映公式チャンネルで全話無料配信。メインキャストが一言コメント動画を寄せ、ブログやツイッターにも感謝の言葉が並んだ。

 さらに明けて今年、2021年。なんと東京国際映画祭にて10周年記念上映とトークイベントが開かれることとなった。11月5日だという。
 全員とはいかなかったが、メインキャストのうち4人が登壇する……最終回からもう10年か……いやぁ、いろいろあったね……。
 仮面ライダーオーズの10年目は、このようにおだやかなお祝いムードで過ぎ去っていく……はずだった。
 11月5日の夕刻までは…………


⑧いつかの明日がやってくる

 2021年11月5日18時30分。
 東京国際映画祭会場。
 そこでドロップされたオーズ10周年の掉尾を飾るニュースが、『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』の発表だったのである。



「完全新作」「アンク復活」「完結編」の驚きは言うにおよばず、テレビ放送当時のレギュラーキャストが全員再結集し、当時そのままのメンツで新作が作られるという……

 そう。
「いつかの明日」が、ついにやって来るのだ。
 アンクが復活するその日が、とうとう。

 
 脚本は小林靖子……ではなく毛利亘宏、オーズではサポート脚本家だった人物だ。
 この人は怪話扱いされる「キタムランド」の回を手掛けたため変に有名だけれど、オーズで言えば行きすぎた正義を描く「バッタヤミー」の回、特撮なら大所帯を楽しくまとめた『宇宙戦隊キュウレンジャー』、舞台版のタイバニや『ミュージカル 薄桜鬼』……男同士の巨大感情作品をものしている真のPROである。というかキタムランドだってそんなには変な話ではないと思う。話自体は……

 さらに、世界最大級の激重オーズファン、渡部秀がいるし(主演なので)、アンク役の三浦涼介もいるし(復活するので)、「面白さ」としてはまず大丈夫であろうと予想される。
 ただし『平成~Final』で限りなく哀しい顔でアンクが消滅した前科があるため、メチャメチャ切ない終末が手ぐすね引いて待ち構えている可能性もある。

 予告を見ると三浦涼介はおそろしく老けてないのに、渡部秀=映司は昔と比べてシュッとしており、「おかえり、アンク」の声にも重みがあって、なんか背後の山が超絶大爆発している。こわい。どうなるんだ。映司お前はみんなと手をつなげ。頼むから一人残らず幸せになってくれ。

 あらすじを読んだら世界が戦乱状態と書いてある。大丈夫か。もうダメかもしれない。あとレギュラーキャストって言うんなら、アンク以外の怪人の人間体を演じた4人は出てくれるんですか。どうなんですか東映さん。
★22年1月追記:なんと上記の怪人さん4人もオリジナルキャストで再登板。ありがとう……ありがとう……


 渡部秀のツイッターを見たら「期待の声、不安の声両方受け止めた上で制作へと踏み切りました」と呟いている。制作に踏み切るのは役者ではなく事務所や東映ではないだろうか。まさかまた強火のプロデュース業を……?


(この爆発は……)


 …………このように長々と書き連ねてきた。ここまででたぶん10000字くらいある。だが10年のふたりの軌跡を概観してきたのだ、これでも短いくらいだろう…………

 10年となれば、人生の8分の1くらいの分量である。
 さらに言うなら、芸能界における10年は長い。とても長い。

 他の特撮作品の出演者の中には、諸事情で引退する人もいたし、海外に拠点を移した人もいる。事務所に不信感を抱き俗世を離れた人もいた……明るく元気でいい女優さんだったのだが……
 また、他の仕事がキツキツで特撮への出演が難しい人もいる。東映特撮班はなんか急にオファーをよこして来るらしいので、これは東映がよくないのかもしれない……ご依頼は計画的に……

 とまれ、そのような10年を無事に乗り越えて、キャスト全員が誰一人として欠けずにみんな揃って作られるのがこの『仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル』なのだ。
 これは、すごいことなのである。


 ──いちファンとしては正直、不安もある。
 明るく開けた無限の未来を感じさせる形で終わったオーズが完全に「完結」することへの不安だ。
 万全のキャストと、安心できそうな脚本と監督であってもなお、物語が完結して固定されること……そしてその内容を心配してしまう。

 しかし、明日は来る。
 素晴らしい「いつかの明日」を見せてくれると信じて、私は待つばかりである。


 ……ふたりの10年と完結編の話をしていたら感情の整理が追いつかず、この文章をどうやって締めればいいのか全然わからなくなってきた。うわぁどうしよう。

 なので最後は『仮面ライダーオーズ』の主題歌。大黒摩季が歌う『Anything goes!』の歌詞を引いて、それっぽい感じをかもし出して終わりたいと思う。


 
大丈夫 明日はいつだって白紙(blank)
自分の価値は自分で決めるものさ

Anything Goes! その心が熱くなるもの
満たされるものを探して
Life Goes On! 本気出して戦うのなら
負ける気しないはず



 ……私たちが夢想していた、「いつかの明日」は、2022年3月に、やってくる──



【いつかの明日へ 続く】

…………追記…………

 2月28日の最速先行上映で観てきました。

サポートをしていただくと、ゾウのごはんがすこし増えます。