見出し画像

とんでもハネムーン記(中編)

※(前編)はこちらから。

1.イルフシ到着からの奇跡

パイロットにこそ一抹の不安がよぎったものの、私たちは無事にイルフシ島に降り立つ事ができた。さっきまでの事が嘘のように、日本人と見られる同じツアー客の集団が見え、何もなかったかのように合流することができた。

その後、団体チェックインは終わったが部屋案内まで待って欲しいとの連絡。

まぁいい。

エメラルドグリーンの海に、
燦々と降り注ぐ太陽。
ウッドデッキに、
これでもかというほど心地よさそうなビーチベットが所々に並べてある。

なんだここは…。

大天国か…。はたまた。

メインコテージの屋根の下でそれらを眺めていると、これまでの移動疲れと時差ボケがいっきに伸し掛かったらしく、

"一生眺めているから誰も邪魔してくれるな。"

と思っていたはずの私はいつの間にやら眠っていたらしい。

どのくらい目をつぶってしまったのかわからない。ハッと目覚めた私に旦那がニヤニヤと一枚の写真を見せてきた。

画面には、顎が外れたレベルに口を開け、片足だけがソファーから落ち、よくわからない体勢で寝落ちする新妻が写っていた。


"旦那よ、よく目に焼き付けておくがいい。
それが、これから死ぬまで横にいる生き物だよ。
"

数十分は待たされただろうか。
今もって、全く呼ばれる気配がない。
あまり日程に余裕のなかった私たちは、1秒でも長く島を堪能したかった。

ちょうどお腹も空いていたし、遅れてきた手前、やはり一番最後にチェックインするのが筋だろうと、ちょっと近場を散策してみる事にした。(大人しくしていない大人。)

両側を木々で覆われた道が、島の奥へ奥へと続いている。何て美しい島だろうか。

数分歩いたところに、一棟のログハウスが現れた。

立ち寄ってみると、海に向かって、まるで繋がっているかのようにプールが広がり、その周りにはパラソルやプールサイドチェアが均等に並んでいる。
その上に寝そべって、まるで絵に描いたように、外国人客がお酒を飲んだり本を読んだりしている。

私たちはわかりやすく顔がほころび、そのログハウスに売ってあった大げさなハンバーガーを、それらしい雰囲気を味わいながらサイダーと一緒に流し込んだ。映画の世界にでもいまいか、と錯覚しそうになった。

またここでも意味のわからない余裕をかましているとお思いだろう。

しかし、この時間が、この後まさかの奇跡を起こす事になる。

完全に麻痺した価格帯のハンバーガーを平らげた私たちは、やっと気持ちが焦り出し、早歩きでメインコテージに戻った。

すると、同じツアー団体客たちが次々にはけていく姿が見えた。

………ヤバイ!!!

そう思って慌てて滑り込む。すると数少ない日本人スタッフが、最後にやってきた私たちに申し訳なさそうに声をかけてきた。

「お客様、大変申し訳ないのですが…、こちらの手違いでお部屋が取れておりません。ご予約された水上コテージが、全て…満室となっております。今、至急空き部屋を探しておりますので、もう少しお待ちください。」

この瞬間、もう終わったのでは。と思った。

最近でいう【詰んだ】である。

ここに到着するまでの数々の失態が、こんなに早くツケとして回ってくるものなんだと。
何という旅の始まりだと。

そういえば、私たちの大事なイベントは全て雨だったりしたもんだ。
結納や式の打ち合わせ、引越しなどなど……。
それに、やっと行こうと念入りに調べて出向いたカフェやパン屋、ケーキ屋、ラーメン屋などの臨時休業率も群を抜いて高い。ハッキリ言って自信がある。

私たちの日頃の行いは、そんなに悪いものだったろうか。。。。。

しかし、最悪、部屋がなくても、こんな景色の良い島で、リゾートである。テントのひとつでも貸してくれるだろう、などと考えたりした。

妙な待ち時間が過ぎ、再びスタッフが戻ってきた。

「大変申し訳ありません。やはりご希望のお部屋が見つかりませんので…、本日のみ、スイートルームをお使い頂き、お部屋が空き次第移っていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」



"はい?今、なんて言いました?
私たち、聞き間違ってますか?
え?えええ?!?!?!"

そうなのである。
私たちは人生初、そしてきっと最後であろうスイートルームに泊まる事になったのである!!!!!

「部屋空くな、絶対空くな、全日程満室御礼希望」

と叫びたかった。いや、何かしら叫んだかもしれない。

部屋に通されると…、もう口が開くとはこの事だ。
ウェルカムドリンクとフルーツ。(とりあえず、撮ろう。カシャ。)
ベッドには漫画のように並べられたハネムーン仕様の真っ赤な花びら。(カシャ。)
嘘みたいなサイズと形のバスタブ。(カシャ!)
デッキにはプールとソファー。(カシャァァ!)
何やと!そのまま海に降りられるようになっているではないか!!(カッッッシャァー!!)

もう止まらない。
ピンクでない林家ペーパー夫妻が、完全に部屋中を駆けずり回っている。

スタッフに何を説明されたかも全く覚えていなければ、スタッフがどんな目で私たちを見ていたかもわからない。

私たちは全ての運をここで使い果たしたのではないかと、嬉しさの先に一種の恐怖や不安感があるのに気づいた。

いや、しかし、怖がっている場合ではない。
時間は限られている。
思う存分羽を伸ばそうではないか!!!!

2.レストランにて…

-----人生初のロブスターとぼくら-----

到着後の奇跡に興奮冷めやらぬまま、私たちは夕食の時間を迎えた。

その島には数箇所レストランがあり、私たちはその中の地中海料理店を選んだ。

どうやら特大ロブスターが食べられるとのことだったからだ。
根っからの海老好きである私は初ロブスターに意気込んだ。

レストランに着き、メニューからすかさずロブスターを注文する。すると何やらスタッフの男の子が生簀いけすまで誘導してくれた。

どれを食べたいか、自分たちで選んでいいのだそうだ。

これでもかというぐらいデカいものは大味な気がしたので、それよりも小さいものを選び、「これがいい!」と指をさした。

するとスタッフがすかさず網ですくい上げ、

「ピクチャー!!ピクチャー!!」

とロブスターを素手で手渡してくる。

「えぇー!!マジでぇー!(笑)」

などと言いながら、旦那がロブスターを持ち、その隣に満面の笑みで私も立って、記念写真を撮ってもらった。
あぁ、嬉しい。お互いで撮り合うと、単独の写真ばかりになる。
まずは思い出1発目の夫婦揃った、ハネムーンらしい写真を撮ってもらえた。

当時、スマホを持っていたと思うが、カメラの性能のせいだったか、デジカメでほとんどの写真を撮っていたのであるが、後日現像してみると、

(満面の笑みであろう夫婦が握った)ロブスターと肩から下の人間2人の3ショットがしっかり撮れていた。

ありがとう、立派なロブスターのドアップだ。

そして、そのサイズまで育ったロブスターは、筋肉隆々でシリコンゴムぐらい硬かったぜ!(※個人の意見です)
ごちそうさま!!

-----ハネムーン中にまさかの-----

次々に頼んだメニューが運ばれてくる。
正直、日本食のレベルの高さを大いに実感する味のものが多かったのは事実。

その間、仕切りに私たちを気にしてくれている1人の青年がいた。

「味はどう?」

「飲み物は大丈夫?」

「おいしい?」

きっと、このテーブルの担当なのだろう。

その度に、会話担当であった私がつたない英語で答えていたのだか、途中からある事に気づいた。

この青年、質問する時も旦那だけを見ている。そして、答えているのは私なのに、1ミリの視線もよこさず、やっぱり旦那だけを見ている。

いや…、見ているのではない、見つめている。 

その時点では、目を見て話すべきだなんて、少し日本人の感覚が厳しすぎるのかもしれない。ということも考えたりした。

すると、何度目かに席に立ち寄った青年の手には白ワインが。
そして、何も言わずに笑顔で私たちのグラスに注ぎ出したのである。

「待って待って!頼んでへんよ!!要らんよ、ありがとう!」 

と慌てて断る。
何故なら、当時の私たちは、ほとんどお酒が飲めなかったからだ。飲まない酒にお金を使うぐらいなら、明日からのアジリティーに注ぎ込みたい。

ところが彼は

「これは僕からのサービスだから。」

と言うのである。

なぜなぜどうして?

ちょろまかされるのかと思ったが、やはり結果、代金には入ってはいなかった。

すごく嬉しいが、すごく困る。もうお腹いっぱいだと断っても、遠慮していると思われているのか、グラスが空いているのを見つけるや否や光の如くやって来る。

あの日、あまりにも飲んで飲んで!と言われ困ってしまったのだが、とても飲み切れることはできず、何度も注がれ、断りきれなかった旦那は砂浜に少しだけ流してしまった。。。。。(私にも同じだけ注げ。)
戻れるものならば、今の私たちが砂浜に寝転び、口を開けて全て受け止めてあげられるのにな。などと思う。

ごちそうさまをする仕草で、やっとの思いでワインの滝を止める事ができた私たちに、いや…、旦那だけに、突然彼がこう切り出した。

「僕、明日、誕生日なんだ。23歳。もうすぐ仕事が終わるから、良かったら、この後、バーで飲み直さない?」

んん?

んんん?

私は?行っていいんか?

誘われてないか???

どういうこと??

そして、この言葉を旦那に通訳しているのも私である。


ちょっと待てぇーーーい!!!!


ハネムーン中やぞ!!!

(もしかして今思ったら、ロブスターだけアップにしたんもワザとやったんか!?)


なんて思ったりもしたが、その時、旦那はノーノー(笑)センキュー!と断っていた。

私はちょっと面白いから本音はついて行ってみたいと漏らしたのだが、

「どこの誰が新婚旅行来て、奥さん置いて知らん兄ちゃんと2人で酒飲まなあかんねん。」

と、旦那は部屋へ戻りながらボヤいていた。

まさか、新婚旅行先で旦那がナンパされるのを目の前で見れるなど、思ってもいなかった。

-----思うところがあり-----

翌朝、
断ったことが少し可哀想だった。
自分でもお礼が言いたいからお願いがあると旦那が言った。

私がカタカナでメモに英語を書き、それと飛行機でもらったクマのぬいぐるみを持って昨日のレストランへ行き、旦那は一生懸命メモを読んで、そのクマを彼にプレゼントした。

「ヒョッッホーーーゥ!!!」

と彼は子供のように飛び跳ねて、レストランの仲間たちにそれを見せに走っていってしまった(笑)

その後ろで、この状況って一体何なんだろうかと思いながらも、とてもいい場面を見させてもらった気になった私である。

さて、旅もあと数日。

次回最終回です。

-----つづく-----

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?