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えほんのくにのしあわせな人たち#2

1)えほんのくにのしあわせな人とは

前回に続いて、絵本に登場する主人公にスポットを当てたコラムになります。なぜ、その主人公を「しあわせな人」と呼ぶのかというと、幸福の要因をたくさん持っている主人公だからです。この場合、幸福の要因とは、金銭や地位など物質面で他者より勝っているなど、比較によってもたらされる要因ではなく、その主人公の心のあり様によってもたらされ、その主人公の在り方から生まれ出る要因のことを指します。

具体的には、幸福学の第一人者と知られる前野隆司さん(慶應義塾大学大学院教授)が提唱されている、「幸せの4因子」の観点から見ることにします。

《幸せの4因子》                          ①『やってみよう』因子・・・夢や目標をもち、チャレンジし続ける    ②『ありがとう』因子・・・人とのつながりを大切に、感謝や利他心を持つ ③『なんとかなる』因子・・・楽観的に前向きに物事をとらえる      ④『ありのままに』因子・・・他人と比較せずに、自分らしさを大切にする

つまり、このコラムでは、この4因子が立ち現れている絵本の主人公を「しあわせな人」と考えています。

2)しあわせな人が登場する絵本を読む意味

「しあわせな人」が主人公である絵本を読むことに、どんな意味があるのでしょうか?仮説ではありますが、読み手(聴き手)と主人公との間に一種の同化作用が起こり、幸せ感が伝播するのではと考えています。つまり、しあわせな主人公が登場する絵本を読めば、読んだ人(聴いた人)も幸せになれるという考えに立っています。

【関連投稿:絵本を読めば、幸せで良い人になれる】

3)主人公ドッチと天女のおばあちゃん

今回、ご紹介するのは、絵本『天女銭湯』(作:ペクヒナ、訳:長谷川義史、ブロンズ新社)に登場する主人公の女の子、ドッチです。彼女は、韓国の下町に住む女の子。おそらく、就学前で、年齢は4~5歳くらいと思われます。

ドッチは、おかあちゃんと近所の銭湯「長寿湯」に行くのが日課です。あかすりは痛いけど、泣かずにがんばったら、ごほうびに大好きなヤクルトを買ってもらえる。彼女の銭湯での大きな楽しみです。

いつものようにドッチが大好きな水風呂につかっていると目の前に見知らぬおばあちゃんがぬす~っと現れます。それは、はごろもをなくしたという天女でした。初対面ではありますが、二人の息もぴったりで、ユニークな水風呂遊びで時間が過ぎていきます。天女の姿は、周囲の人には、見えていない。ドッチひとりが、無我夢中に水風呂で遊んでいるように見えていたと思われます。

しばらくして、天女のおばあちゃんは、何か飲んでいる人たちが周囲にいるのに気づきます。

天女「もしもし、おじょうちゃん、あれはなによし? みんなおいしそうにのんではるけど?」                               ドッチ「ヤクルトやん」                       天女「ヤクルン?」                         ドッチ「なんぎやなぁ ちょっとまってて」

そうなのです。天界にはヤクルトなる飲み物は、存在しない。だから、天女には、それがなんだかよくわからないわけです。そんな天女のおばあちゃんに、主人公ドッチは「なんぎやなぁ」と言いつつも、次なる行動に出るのです。

《めちゃくちゃ熱いお風呂にがんばって浸かる》⇒《あかすり、痛くて涙が出そうなのをがまん》⇒《おかあちゃんからヤクルトを買ってもらう》⇒《そのヤクルトを天女のおばあちゃんにプレゼントする》

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     『天女銭湯』ペクヒナ作 長谷川義史訳 ブロンズ新社           ☆天女がヤクルトを飲む姿が表紙になっている

4)主人公から「ありがとう」因子があふれ出る

この主人公ドッチの行動は、天女のおばあちゃんと遊んで楽しかった、また遊んでもらいたい、自分の願いからのスタートではありますが、相手を喜ばせたい一心で、苦手なあかすりをがまんし、ゲットした大好きなヤクルトを相手に贈ってしまう。まさに、幸せの4因子の中の「ありがとう」因子のキーワードである「利他心」にあふれた行動と言って良いのではないでしょうか?

ドッチくらいの年齢のとき、私にも銭湯の記憶があります。熱いお風呂は嫌だったけど、100数えて湯船から上がって、買ってもらった瓶入りのヨーグルト。冷たくて、フルーティで、どれだけ美味しかったか!もし、そのヨーグルトを誰かにあげないといけなかったとしたら、その選択はあまりに酷だと思うのです。

ドッチの利他にあふれた行動は、何か見返りを期待するものはないのですが、意外な展開で天女のおばあちゃんからのお返しを受け取ることになります。そのストーリー展開も楽しめるので、ぜひ実際に絵本を手に取っていただきたいなと思います。

ペクヒナさんの作品は、他にも人の心に肉薄する、魅力的な作品がたくさんあります。一部をご紹介して、今回の絵本コラムを終わりたいと思います。









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