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創作小説

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物語がはじまる!
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#シロクマ文芸部

小説 梅の木と美しい人

小説 梅の木と美しい人

梅の花と桜の花の違いも分からなかった幼かった私。
11歳の私たちはお花見と言って、梅の木の下で友達とままごとみたいなピクニックをした。パイの実やハッピーターンなど、各々がお菓子を持ち込んで。
二月末のその時間は寒かったはずなのに、私たちは夢中でお菓子を食べて笑い話をした。少女漫画の話や学校の嫌いな先生の話。男子のうざいところ。

その時強い風が吹いて、梅の花が舞い上がった。向かいに座っていたリカち

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小説 母とチョコレートの苦い思い出

小説 母とチョコレートの苦い思い出

 チョコレートから目をそらした私は、母にこの存在を気づかれてはいけないと思った。
「やっぱり買わんくていいわ」
 私はそう言って、その場からすぐ立ち去ることを決めた。
「本当に良いん?俊先生、チョコ貰ったら喜ぶんやない?」
 お母さんはそう言うが元々私はチョコなんて渡したくなかった。家庭教師の大学生にひねくれた小4の私がバレンタインのチョコを渡してもお返しを面倒がられるだけだと思っていた。母の言葉

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創作小説 シルクロードを思い出して花束を

創作小説 シルクロードを思い出して花束を

青写真だな

心の中で呟く。
この街でシャッターを切れば自ずと青くなる。

本当の青写真の意味は図面などを複写する時に使われる写真技法のことなんだけど、ファインダー越しの世界を見て真っ先にその言葉が浮かんだ。

「サラーム」
イスラム圏ではお馴染みの挨拶の声をかけられ、振り返ると6歳くらいの少年が笑っている。
「フォト、フォト」
と言いながら自分と私を指さす。
写真を撮ってということなのだろうか。

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創作小説 香炉峰の雪、布団の中であなたと

創作小説 香炉峰の雪、布団の中であなたと

 布団から出て来ない聡に声をかける。
「ねえ、やっぱり雪が積もったよ」
「うーん、良かったね。薫ちゃん」
 そんな風に言ってくれるけど、起き上がる気配は無い。昨夜は数年に一度の大寒波の夜だったのに、聡は終電まで職場の同僚とお酒を飲んでいた。
「電車も止まってるみたい。でも、休日の朝だから助かったね」
 布団に丸まったままの聡からの反応はない。意地悪な気持ちじゃなくて、心からの優しさで、(人はそれを

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