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多様性と共に衰退する国家

多様性の国フィンランド


菅内閣の人事が決まった時、あるツイートが話題になった。

日本の平均年齢70越えの内閣と、34歳の女性首相が率いて閣僚19人中12人が女性で構成されたフィンランド内閣を比較して、フィンランドは若い女性が社会進出していて素晴らしい!多様性に富んでいる!という内容のものである。

このツイ主は「消費税撤廃」「スパイ防止法の制定」「少子化対策」を日本の政治に求めているらしいが、今回は多様性について考えるために「少子化対策」をメインに取り上げて論じていくことにする。

フィンランドのイメージは、子育ての支援が厚く、男女平等で国民の幸福度が高い国というものではないでしょうか。

フィンランドの古い言い伝えでは、いじめっ子には平和や言論の自由、人権への尊敬の念を取り戻させるために、プレゼントの代わりにお仕置きをするためのかばの木の枝が送られるらしい。

フィンランドは多様性や寛容性の名の元に「全ての人の道徳的ただしさが認められる」社会を目指してきた。これは多様性が叫ばれる昨今の情勢の中で多方面から支持を受けたのだが、今、その多様性の在り方が崩れかけている。

西洋的な価値観に基づき、先進的であり人権意識の高いいわゆるリベラルな人たちは、保守的で排外主義的なものを「わるいもの」とみなしてきた。しかし、その多様性というイデオロギーによって作り上げてきた土台が、自らつくりあげたものによって崩されようとしている。

フィンランドに迫る危機

その問題を表面化させたのが「移民問題」だ。フィンランドは「高福祉国家」として知られている。その国で今、人口における移民の割合が上昇しつつある。それにより、雇用や福祉の享受を巡り国民と移民の間で軋轢が生じている。

フィンランドは多様性を尊重した結果、移民を受け入れ、彼らにも自分たちと同じような手厚い支援を実現させた。すると当然、国民と移民との間で「福祉の取り合い」が起こったのだ。本来高い税金を収めているからこそ受けることのできる「高福祉」を移民や難民が滞在許可ひとつでタダ乗りしているからである。これに不満を持った国民たちの一部はこれまで貫いてきた多様性の尊重を捨て、保守的な国民主義を支持し始めた。そしてとうとう国民主義を掲げる政党が2019年の総選挙で野党第二党まで勢力を伸ばしたのだった。

ここまででフィンランドが大切にしてきた多様性のせいで自国が揺れている事を理解していただけただろうか。ここから「男女平等」から「少子化」について話を進めていこう。

なぜ多様性を重んじると崩壊するのか

フィンランドでは世界最年少の34歳かつ女性の首相をはじめ連立4党の党首も全て女性という、まさにリベラリストたちが夢に描いたような状況となった。しかしこれは、近年台頭してきた「反リベラリズム(反·多様性)」とこれまで貫いてきた「西洋リベラリズム」との最後の争いである可能性が高い。これは若い女性たちを先頭に自由・平等・博愛・多様性・寛容性・男女平等の集大成をもって「反リベラリズム」を迎え撃つ形だ。

しかし、この構図が深まれば深まるほど国民主義政党が力をつけると見られている。なぜなら、これ以上女性の社会進出が進み、多様性を受け入れる社会になれば、国の持続可能性が乏しくなることが明らかになりつつあるからだ。

これは良く考えればわかる話だが、女性の社会進出が進めば進むほど、女性たちが子供を産まなくなる。

まず日本のデータから見ていこう。

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これは女性の就業者数とその割合のグラフである。

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こちらは1947年~2015年までの出生数と合計特殊出生率の推移グラフだ。

まずここで、人口が増えるということは合計特殊出生率が2.1以上であるということを理解しておいて欲しい。

このグラフから読み取れるのは、女性の就業者数が増えると共に出生数と合計特殊出生率は下がってきているということだ。女性が働くようになれば子供を産む数も減るという事は容易に想像できるのでは無いだろうか。

2018年の日本の合計特殊出生率は1.42、フィンランドは1.41であった。今やフィンランドは日本よりも深刻な少子化に直面している。これは、フィンランドの女性たちが出産するかしないかを選択できるようになったことで、子供を持つことよりも個人としての幸せを追求する人が増えたからであろう。

多様性と人口増加

多様性、リベラルな社会では産む自由と産まない自由が尊重され、その判断に政治は介入することは許されない。しかし、誰が何を言おうが多様性に富んだリベラルな社会の土台は国である。国を構成するのは言うまでもなく国民なのだが、その国民が減るというのは国を維持する上で致命的とも言える矛盾を抱えることとなる。

本来、男女平等が実現し、それぞれの自由が保証された国であっても人口が増えてもおかしくは無い。だがどうやら現実はそうではなく男女平等と個人の自由の元では人口が増えないらしい。しかしながら現在でも人口を増やし続けている地域がある。それはアフリカとイスラム圏だ。国連の調査によれば、アフリカは他の地域と比べて発展が遅かったため現在でも人口の増加を続けているとされている。しかしイスラム圏はこれからも人口を増やし続ける可能性があるというのだ。

イスラム圏の人口増加の理由

国連の人口予測モデルというものがある。そこで考慮されているポイントは出生率、移動率、死亡率だ。この3点のみを考慮に入れた場合、人口の減少は緩やかに進むとされていた。しかし、ある時女子教育率上昇を考慮に入れた途端にそのモデルは一変し、数字が劇的に小さくなったのだ。

ここでイスラム圏がなぜ人口を増やし続けられるのかという問いに対するひとつの想定される答えが浮きでてきた。それはイスラム教の教えが少子化を防いでいるというものです。ノーベル平和賞を受賞したマララユスフザイを覚えているだろうか。彼女はイスラム圏の女性たちの教育機会を増やすべきだという主張により受賞しました。つまりイスラム圏では女性の教育機会が乏しかったのです。先程示した国連の人口予測モデルに女子教育を当てはめた時に人口減少率が著しく下がったことを考慮すれば、なぜイスラム圏で人口が増え続けているのかよく分かるのではないでしょうか。(ここに断っておくが、私は女性の教育機会を減らすべきだとは思っていない。ただこのような仮説が立てられることを紹介してるに過ぎない。)

また、実はコーランの24章32節には『おまえたちのうちの独身者、またおまえたちの男女奴隷のうち善良な者は結婚させよ』という文言があるのです。コーランとは神の言葉を集めたものであるため、イスラム教徒にとって結婚は誰もがするあたりまえのこととして認識されます。そのため独身者用のアパートなど居住地も限られるなど独身者が生きづらい社会となっているのだ。

他にも、婚外交渉を禁止しているため夫婦間の性交渉は増えます。男性にも女性にとっても異性と交わるには結婚が絶対条件になるので、若い男女が結婚しようとするのは当然のことです。

また、出生率にはイスラム教の預言者ムハンマドの言行録に「天国は母の足元にある」という言葉が影響していると考えられます。母性がかなり重要視されているのです。アラブ社会では人を呼ぶ時に子供の名前を使って「○○○のお父さん」「○○○のお母さん」と呼ぶ習慣があります。子供がいるということはイスラム教徒にとって一種のステータスなのです。そのため、子供を持たない女性は肩身の狭い思いをするのです。

このような理由からイスラム圏の人口が増え続けているのです。全ての宗教にイスラムのような価値観を持ち込むのは不可能に近いですが、これをひとつ参考にするということは十分に価値があると思います。


多様性にどのように向き合うべきか

話を戻して、フィンランドに視点を移してみましょう。フィンランドがとったように、女性の教育を充実させて社会進出を推し進めるリベラルであり多様性を重視する社会は、人権的、政治的には「ただしい」かもしれない。しかし、それを重視するコミュニティは滅びる。

生殖を行わなければ人がいなくなり、持続不可能に陥る。こんなシンプルな答えによって人権的、政治的「ただしさ」を洗練してきた国が今にも崩れそうになっているのだ。

多様性とは、たくさんの「ただしさ」を互いに認め合う思想だ。多様性を肯定する社会では多くの「ただしさ」が存在する。しかしあることをきっかけにして、私たちの「ただしさ」を侵食してくる「ほかの正しさ」を許容することができなくなってしまった。世界はどう転んでもひとつの統一された「ただしさ」を築かなければならないとそう気づいたのだ。

自分たちの思想には致命的な弱点があるのにも関わらずその思想のために、その弱点を突くような思想を許容しなければならないのだ。もし、世界がひとつの普遍的な「ただしさ」に統一されていれば、人口を増やし勢力を拡大して私たちのコミュニティを脅かされることはない。しかし今の世界はそうではない。東アジア、中東など多くのコミュニティがあり、それぞれの「ただしさ」のもとに生活している。中国のウイグルなどに対する人権擁護を求めるの批判は、自己のコミュニティを脅かす他のコミュニティの存在のために起きるのだ。この世界には「多様性の弱点を突くようなやり方で自己のコミュニティを脅かす存在」がいるとまずいのだ。

私たちに先進的で、豊かな、自由な生活を可能にしてくれている多様性を尊重するリベラルな社会では人口を増やせず、持続不可能に陥ることに世界は気づき始めたのだ。

この問題を解決する方法が明確にある訳では無い。恐らくこの世の誰も知らないだろう。だからこそ、今生きていて、いずれ次の世代に命を繋ぐであろう自分たちがこの問題に真剣に向き合うべきなのだと思う。

多様性が叫ばれる今の世の中だからこそ、多様性のあるべき姿をもう一度考え直す時期に我々は生きているのかもしれない。


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