永続戦争の中にあるのかーミニ読書感想「現代ロシアの軍事戦略」(小泉悠さん)
小泉悠さん「現代ロシアの軍事戦略」(ちくま新書)が勉強になった。ロシアの戦争観や、基本的戦略を理解するキーワードを学ぶことが出来た。特に印象深いのは、権威主義的体制のロシアとNATOの対立が続く「永続戦争」と言う言葉。プーチン大統領はこの永続戦争の中で、頑なな姿勢を貫いているのか。
本書を読まなくては出会うことのなかったキーワードがたくさんある。たとえば「戦略縦深」。これは、敵の侵略に対して時間的な余裕を作るための空間的余白を意味し、要するに仮想敵国との距離だ。
ロシア側から見ると、ソ連の崩壊によって西側諸国との戦略縦深が減少した。サンクトペテルブルクからエストニア国境までの距離が約150キロで、これは大阪ー岡山間の距離しかないという。著者は「岡山に中国人民軍がいるとすればどう思うか」と問いかける。海洋国家の日本には想像できない、大陸国家の苦悩が分かる。
戦略縦深の概念から考えると、ロシアがウクライナのNATO接近を相当な脅威と受け止めていたのであろうと推測できる。また、現在東部地域に戦略を集中している点も理由が見える。
最も恐ろしいキーワードは「エスカレーション抑止」だった。これは、米国など強力な西側国家の参戦により戦局がエスカレートするのを防ぐため、デモンストレーション的に核兵器を使用するのではないかという見方だ。ウクライナ侵攻で使用されたとされる極超音速兵器もエスカレーション抑止の一手段とみられ、そう考えると核兵器使用も非現実的とは言えないから恐ろしい。
ロシアはソ連崩壊以降、経済的には後退し、軍事的には「弱く」なっているにも関わらず、権威と国際社会へ影響力を有する大国の地位を手放さない。この矛盾した状況の中から、非軍事的手段を平時にも駆使する「ハイブリッド戦争」の実践が生じている。
本書の特徴は、ハイブリッド戦争に目が向きがちな昨今であっても、ロシアの対外戦略の中心は物理的、古典的な軍事力であると指摘した点だ。こうした傾向や、永続戦争の構図が続くことを「長い2010年代」という表現で予見しているが、まさにその通りなのかもしれない。ロシアは驚くほど単刀直入に、ウクライナに軍を侵攻させたのだから。
プーチン氏の頭の中に、何があるのか。正解かはわからないが、考えるヒントを得られた気がする。
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