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心を宇宙へ飛ばすーミニ読書感想「流浪地球」(劉慈欣さん)

中国SFの金字塔「三体」シリーズの著者、劉慈欣さんの短編集「流浪地球」(KADOKAWA)が面白かったです。収録作はほぼ、宇宙が舞台。心を果てしなく遠い世界へ飛ばし、著者の圧倒的な想像力の世界に浸り、ぐーんと羽を伸ばせる作品集でした。


特に好きになったのは「呑食者」。星を飲み込み進む世代間宇宙船に乗った未知の侵略者、呑食者と人類との攻防を描き、「三体」にかなり近い世界観を感じます。

「三体」でも、無慈悲で人類を遥かに上回る技術力、攻撃力を持つ相手との戦いが描かれましたが、今回も「卑小な人類」の在り方が提示される。逆転劇に胸が躍るのもそうですが、何より「弱さ」「至らなさ」をどう受け止め、どう振る舞うのかという深い問いかけが心に残ります。

劉作品は、邦訳タイトルからしてどこか、中国故事を思わせます。「矛盾」や「臥薪嘗胆」のような。哲学的寓意と、突拍子もないSF的設定が融合し、独特の中国SFの魅力をかもしている。

唯一宇宙を扱っていない「呪い5.0」も良い。ある男性への恨みから生まれたコンピュータウイルスが、人々の遊び心やちょっとした偶然から変貌を遂げ、AI管理が普及した未来世界で思わぬ結果を招く、と言う話。劉さん自身が売れない作家として登場しているのにも妙味があります。

太陽系の外にある世界。人類を蟻のように踏み躙れる侵略者。「そういうものがあったら、世界はどうなるのか」と思う時、読者の心はどこまでも自由になっています。そんな時間をくれる劉作品にありがとうと言いたくなります。

解説で、訳者の一人の大森望さんは、「同時刊行の『老神介護』も読みたくなるはずなので、一緒の購入をおすすめする」と仰っています。予言通りになりそうです。

以前刊行の短編集「円」も素晴らしかった。


三体の魅力はこちらで語りました。

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