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イーロン・マスク氏に学ぶ特性のある人が善く生きるためのヒントーミニ読書感想『イーロン・マスク 上巻』(ウォルター・アイザックソンさん)

スティーブ・ジョブズ氏の評伝を書いたことで知られるウォルター・アイザックソンさんの『イーロン・マスク』の上巻を読んでいます。この時点でむちゃくちゃ面白い。タイトル通り、電気自動車のリーディングカンパニー・テスラ、民間ロケットの草分けSpaceXなど、革新的スタートアップをいくつも立ち上げてきたマスク氏の公式評伝。訳は井口耕二さん。文藝春秋、2023年9月10日初版発行。


私が本書をいち早く読みたいと思ったのは、マスク氏がASD(自閉スペクトラム症)であるのと情報に接したため。同じ特性がありそうな自分の子が、豊かな人生を歩くためのヒントを知りたかった。

本書によると、マスク氏は正式な診断を受けたわけではないそう。ただ、自覚的にも、周囲の評価の面でも、ASDのうちの昔で言う「アスペルガー症候群」の傾向があるそうです。同僚から「双極性障害」の指摘を受けたこともありますが、これについても医学的診断は受けていない。

マスク氏の特性は、他者との共感が困難なこと、ミッション至上主義で、同僚や部下にすさまじく辛辣な態度で当たってしまうことなど。

そんなマスク氏が、なぜいまも破滅せずにいるのか?本書を読んで大きく印象に残ったのは、マスク氏を近くで支える弟のキンバル・マスク氏の存在でした。マスク氏(イーロン)は幼少からほとんど友達がおらず、大人になってからはパートナーと何度と破局して離婚していますが、キンバル氏だけは近くにいて、精神的支柱になっていた。

また、マスク氏が起業家という仕事を選び、しかも宇宙や電気自動車といった未開分野をチョイスしたことも大きい。マスク氏はさまざまな製品開発要件を根本から疑い、部下を詰問し、不要な要件は見直してコストカットを図る。ASD的なこだわりを発揮するわけですが、それはトップだからこそ周りは従ってくれるし、誰も達成していない分野だからこそリスクをとった先に可能性が開ける。

米国の風土も羨ましく思います。日本であれば、私生活も無茶苦茶で、社会や人を振り回すマスク氏は目の敵にされていた気がする。

だけどもマスク氏は、単に共感性の欠落した人間というわけではない。それこそステレオタイプというもの。こんなシーンが好きで、ドッグイヤーをしました。

友人の30歳記念パーティーに向かう車内で、一人が座席に嘔吐した。ホテルに着くと、マスク氏と投資家のグラシアス氏以外はみんな降りてしまう。そのときのグラシアス氏の回想。

 「イーロンと顔を見合わせ、このままじゃ運転手さんがかわいそうだよなという話になりました」とグラシアスは言う。
 だから近くのセブンイレブンまで行ってもらい、ペーパータオルとクリーニングスプレーを買って車を掃除した。
 「イーロンはアスペルガーなんで感情がないように思われがちですが、ちゃんと思いやりがあるヤツなんですよ」

『イーロン・マスク』p233

ASDだからといって、感情があるやつじゃないんだよ。そう思ってくれる仲間が近くにいることが、マスク氏の何よりの幸福ではないかと感じたのです。

人に助けてもらうこと。活躍できる場所を見つけること。マスク氏が生き残っているのは、単に才能があるからだけではない。

ASDの子が、みんなマスク氏になれるわけではないし、「なれるんだぞ!」と発破をかけることが正しいとは思わない。ただ、豊かに、善く生きるためのヒントは得られる。成功するためにではなく、生き方を学ぶために、本書を薦めることは意味があるように感じました。

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