【書評】ダメな自分を好きになる本~「セイジ」じゃない方の「竜二」~
おこんにちは。
現役ライターのよだかえです!このnoteでは小説の書評を担当しています。
みなさん、「セイジ」という作品は知っていますか?
2012年に映画化、”西島秀俊さんや森山未來さんなど豪華キャストに加え、伊勢谷友介さんが監督をされる”ということで注目されました。
今回はその原作本に収録されている「セイジ」、じゃない方の「竜二」という短編小説を紹介します。
(こっちの「竜二」)
ずばり、私がこの本をオススメしたい相手は次のような人。
・学校や会社になじめない人
・学校や会社を辞めて引きこもってしまった子供やきょうだいを持っている人
・そんな自分を責めて苦しんでいる人
その理由をこれからお話ししますので、5分くらい時間を下さい。
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学校や会社になじめない人は「欠陥品」なのか
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・学校や会社へ行くと、自分の席があって、他愛ない会話を楽しむ友達や同僚がいる
・家族や恋人とケンカしたときも、そこには仲間がいて、気持ちが切り替えられる
学校や会社がそんな場所だったら、どんなに素晴らしいことかと思いますが、現実には学校や会社という環境になじめない人が一定数、存在します。
「学校や会社に行くことが当たり前」という価値観を持っていると、それができないことに不安や焦りを感じるかも知れません。
例えば、自分の子供が不登校になったとき、「このままでは大人になって苦労するのではないか」と心配になって、できるだけ学校へ行けるように、できるだけみんなと同じことができるように子供を叱咤激励したくなりませんか。
しかし、そうすることで返って子供は自分を追いつめて、引きこもりや暴力という手段で、自分や周りを傷付けてしまうこともあるでしょう。
果たして、“どうにかして学校へ行くこと”、“どうにかして会社になじむこと”だけが社会に適応する手段なのでしょうか。
個人的には、「それではちょっと選択肢が狭くて窮屈なのではないか」と思っており、もっと前向きで優しいやり方があることを知ってもらいたいと思っています。
(そのヒントはこの本の中に…)
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学校に行くのが嫌になった小3の思い出
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私が最初に学校へ行きたくないと思ったのは、小学校3年生のとき。
担任教師の差別を見て、辛くなりました。
とはいえ、先生のターゲットは私ではなくて、隣の席にいたTくん。勉強が苦手だったのか、先生が公開処刑をするように、Tくんをバカにして、それを見て生徒が笑う光景にものすごく動揺しました。
私が一番衝撃を受けたのは、Tくんが照れ笑いを浮かべて、そのいじめを受け入れていたこと。
「なんでTくんは笑っていられるんだろう」
不可思議でショックで、はにかんだ笑顔が強烈な映像として目に焼き付いています。
今となっては、笑ってごまかす以外に方法がなかったTくんの気持ちが痛い程わかります。けれど、当時の私には辛くて見ていられなかったし、私も同じことをされたら笑わないといけないのかなという不安もありました。
そして、学校へ行くのが嫌になりました。
自分が決して気に入られている生徒ではないという自覚があったからこそ、「次のターゲットは私なのではいか」と恐怖を抱いたし、「そうなったら耐えられない」という確信がありました。
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会社に行けない私は「欠陥品」なのか
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小3以降の人生においても、私は”先生”という立場の人が特定の生徒を差別するシーンを何度となく目撃し、その度に悲しみと不信感を合体させたような感情を募らせます。
それでも、“不登校”と呼べるほど、”継続的に不登校”することもなく、隙を見てはうまく休みながら人並みに学校を卒業。
しかし、就職すると、会社になじめなくて苦労することになります。
私は毎日会社へ行くことに辟易していました。
聞きたくもない上司の愚痴に付き合い、薄っぺらい世間話に笑顔を浮かべ、下らない飲み会に参加させられる―、「この閉塞感は小3の頃から何も変わっていない」と腹の中で社会をディスる毎日。
一方では淘汰されないように社会にしがみつくしかない無能な自分を持て余し、内側に矛盾を抱え、人生に絶望していたところがあります。
それでも、「会社を辞めるな」という実家のプレッシャーから辞めることもできず、無理解な家族を嫌悪しながら、自分を「社会の欠陥品」だと思い込み消耗していました。
(これは、確かに欠陥品かも知れない)
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「欠陥品」の私が立ち直ったきっかけ
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さて、私と同じような悩みを抱えている人も少なくないのではないでしょうか。今でこそ、私は仕事をして、子育てもして、情緒も安定して、家族や環境に感謝していますが、こうなるまでにはかなりの時間を費やしましたし、その時は既に30代半ばになっていました。
だから、冒頭で挙げた次のような人に、私は早く楽になる方法をシェアしたいのです。
・学校や会社になじめない人
・学校や会社を辞めて引きこもってしまった子供やきょうだいを持っている人
・そんな自分を責めて苦しんでいる人
もしも「自分のことだ!」と思ったのだとしたら、さらに質問します。
「このままでは社会で取り残されてしまうのではないか」という焦りとプレッシャーで自分を責めていませんか。
あるいは、こういう状況に追い込んだ家族や学校、社会を責めていませんか。
ひょっとすると、自分と環境を交互に責めて、それでも何も変わらない現実に絶望しているかも知れません。
私が最初この本を読んだ時、正にそんな状況でした。
そんな私が自分の経験を通して考える、自分らしく社会で生きるために必要なことはただ一つ。
ありきたりですが、「自己肯定感」を育むことに尽きます。
そして、そのために必要なプロセスは次の二つ。
「視野を広げること」と「自分を好きになること」。
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「視野を広げること」とは
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世の中には色々な人がいて、学校で浮いてしまう人も、会社でうまくやれない人もいます。そして、彼らは不幸でも敗者でもありません。それを決めるのは究極、本人です。
例えば、「世界にはいろんな人がいて、自分は特別じゃない」、「うまく社会でやれない人でも、その人なりに懸命に生きているんだ」ということがわかれば、自然体の自分を認める第一歩になるのではないでしょうか。
この「竜二」という小説には、学校を辞めて定職に就かず、借金を抱え、ギリギリで生きる“竜二”が描かれています。いわゆる社会不適合者の竜二に対比して、竜二の兄が選んだ職業は、完璧な社会適合者である公務員。
兄は弟をかわいがって心配し、自立するように促しますが、弟は兄を尊敬しつつも同じように生きられません。
二人は互いに思いやっていながら、しかし、生き方も人間性も真逆過ぎて相容れず、距離ができてしまいます。
私は最初この本を読んだとき、“竜二”に身を重ねて、「こんな風に社会に溶け込めず、不器用に生きている人は私だけではないのだ」と思えました。
会社員をしていると、周りは会社員だらけですから、「毎日出勤して、人と会話するのが辛い」という悩みはただの「痛い人」「甘い人」で片付けられます。
同じように、「学校に行くのが当たり前」という常識の中にいると、学校へ行きたくないことが「弱さ」や「落ちこぼれ」の象徴になります。
そのロジックで、私はずっと自分を責めていたのですが、竜二という存在を知った時、ただそれだけで自分を肯定された気がして、前向きになれたのです。
だからまず、自分の世界が全てだと思わないこと、視野を広げることが大切なのだと私は思っています。
その方法は本を開くだけ、部屋の中でもできるのです。
(これはかなり視野が広い)
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「自分を好きになること」とは
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例えば、「視野を広げる」ということを目的とするのであれば、宗教や歴史の教科書でも達成できますよね。でも、それだけでは、傷付いた人の心には刺さりません。
この本が優れていると感じる理由は、環境に馴染めない人が共通して持っている特性がアリアリと表現されている点にあり、その個性を短所として捉えるのではなく、角度を変えれば長所になるのなのだということに気付かせてくれるからなのです。
そんなエピソードを一つ紹介しましょう。
竜二は人生で一度だけ就職したことがあり、葬儀会社でまじめに働いていたのですが、一人のおばあさんの“あまりにも軽んじられる死”を目の当たりにしてショックを受けます。
彼自身が会社や上司から何かされたわけではありません。悲しい扱いを受けたのは、たまたま担当することになったおばあさんですし、彼女は既に亡くなっていました。
そんな何の恩義もないおばあさんがぞんざいに扱われる姿を見て、彼は心を痛めて、会社を辞めるのです。
私はここを読んで感情が揺さぶられ涙が溢れました。「自分が何かされたわけじゃなくても、傷付いていいんだ」と思わせてくれたからでしょう。実は、今でもこの文脈を時々思い出しては勇気をもらっています。
私は小3の時、本当はひどく傷付いていたのだと思います。
先生に露骨にいじめられても、笑って済ませようとするTくんの姿に、「なんてひどいことをするのだろう」と、世の中にショックを受けていました。
一方、周りを見渡すと、クラスメイトは傷付く様子もなく一緒になって笑っているー、そんな姿を見た私は、「自分が何もされたないのに傷付くなんておかしい」「私には傷付く資格なんてない」と、どこかで自分を責めるようになりました。
けれど、竜二を見て初めて「他人の痛みを想像して自分が傷付くことは悪いことじゃないんだ」と自分を認めることができたのです。なぜなら、私には、竜二が”勝手に傷付く変な奴”には見えなかったから。”敏感で繊細で優しい人”に映ったからです。
私は、昔から感情移入し過ぎることで周りから浮いている自分が嫌だったのですが、竜二を通して自分を見直し、少しだけ自分を好きになることができました。
(正に、「I ♡ me !」)
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物語の構造【三人称の語り】というスタイル
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さて、ここで少し切り口を変えましょう。
今まで書いてきたように私が「竜二」を読んで、視野を広げたり自分を好きになったりできたのは、ストーリーの秀逸さという内側だけでなく、物語の構造にも原因があるのだと思っています。
というのも、学術的な論点からこの小説を解釈すると、いわゆる”三人称の語り”という構造が、効果的に作用していると言えるのです。
この物語は、主人公の竜二が「私は…」という風に自分のことを語るスタイルではなく、竜二の友人が「彼は…」と三人称で語る形式をとっています。
この語り手である”友人”は、いわゆる普通のサラリーマンで、普通に大学を卒業して就職して、結婚して、子供を持っています。
この友人と竜二が対立関係にあって、前者が資本主義社会における勝者のメタファーであり、後者が資本主義社会における敗者のメタファーになっていると言えます。
そんな友人の目に竜二がどう映っていたのかというと…、
”不器用だけど、優しくて繊細な人”
なのです。そう思っていることが、物語を通してアリアリと伝わってくるのです。
友人は40歳にもなって定職も家族も持たず、フラフラしている竜二の姿に、どこか惹かれる自分を認めてこう分析します。
”自分が忘れた何かを竜二にみている”
もしも、竜二が「俺が社会になじめないのは、ちょっと不器用で繊細なだけ」と自称していたら、自意識過剰で面倒くさくありませんか??
それを敢えて対立する立場にいる友人が客観的な視点で説明するからこそ格別の説得力を発揮します。
その結果、竜二に自分を重ねた読者は救われるし、励まされるし、そんな自分を少し好きになれるのではないでしょうか。
ストーリーの内側だけでなく、外側からの学術的な解釈も付け加えてみました。
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500円で自分を好きになれるのだとしたら…
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そろそろまとめです。
この本には、「視野を広げること」と「自分を好きになること」を可能にする要素が詰まっていること、わかってもらましたか??
学校や会社に行けなくなることは突然変異ではありません。少しずつ傷を溜めていって、ある日コップがいっぱいになって行けなくなるのだと思います。だからこそ、回復過程においても同様に、時間をかけてその傷を少しずつ癒していく姿勢が必要なのではないでしょうか。
従って、「この本を読めば社会復帰できます!」ということはありません。
しかし、”自己肯定感を育む手助けになる”のは確かですし、「視野を広げる」行動を繰り返し、「自分を好きになること」を積み上げるしか、自分を立て直す道はないと思っています。
それは、ただ闇雲に、「みんなと同じことをしなさい」「学校や会社になじみなさい」ということではなくて、むしろその逆で、なじまなくても幸せになれる方法を見つけるプロセス。
「本を買って読む」という行動は身体的、金銭的リスクがほとんどありません。
文庫本はワンコインくらいですから、迷わずクリックしてみてください。
環境になじめない人が持つ、“独特の繊細さや優しさ”にまずは目を向けてみましょう。
これ以上、自分にも社会にもガッカリすることはありません。
たった500円で、自分や家族を好きなることから始めるのだとしたら、少しワクワクしませんか♡
最後までお読み下さり、どうもありがとうございました!!!
執筆 よだかえ
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