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理解しなくていい、ただそっといておいて欲しい 【正欲】

「多様性」
世の中には、自分が想像できないことの方が
圧倒的に多い

正欲_読書記録B

【本の基本情報】
〇ジャンル:日本文学
〇本の種類:単行本
〇著者名:朝井 リョウ
〇出版社:新潮社

■「正欲」について

深い青色に「正欲」という白文字、そこに今から潜ろうとしている一羽の鴨。
このシンプルであるが何かを感じさせる表紙が印象的です。

「正欲」という言葉は何を意味するのか興味を持たされるタイトル。
「セイヨク」と読めば「性欲」という言葉が浮かびます。

しかし、本作の「セイヨク」は単純に「性欲」という言葉に繋げられるものではありませんでした。

読了後に、このタイトルを見ると、更にそのタイトルの深さを知ることになります。

本作品はの内容は、肯定的に傑作と言われるか、否定的に問題作と言われるか
読む人によって大きくその評価、意見が分かれると感じました。

しかし、この評価や意見さえも不要なのではないか
こうやって読書感想文として、本作のことを書くことさえも不要なのではないかと
今、この記事を書きながら感じてしまっています。

■本当の意味での多様性と言えるか

本作品は、3人の男性が、男児のわいせつな画像を撮影したなどの容疑で、逮捕・送検されたということから始まります。

そういう問題を扱った作品なのかと安易に思ってしまいました。
しかし、本作品を読み進めていくと、その安易な思考を見事に打ち砕かれ、自分の知っている世界の狭さを思い知らされることになりました。

マジョリティ(多数者、多数派)とマイノリティ(少数者、少数派)。
そして今、国際社会において当然の権利だとされ徐々に浸透してきているダイバーシティ(多様性)。

本作品を読み進めていくと、日本におけるこのダイバーシティに対する考え方は
マジョリティ、多数派の人間たちが考え、ルールや定義を設定している
マジョリティの理解の範囲の中で設定されているダイバーシティのように思えてきます。

果たしてそれが本当の意味でのダイバーシティ(多様性)と言えるのか。
本作品では、このとても繊細なことを実に分かりやすく、そしてもっと深く描いています。

読めば読むほど、この繊細な部分に引き込まれ、伝わってくる深さを感じることが出来ました。

■「正欲」を読んで!まとめ

本作品は、読書感想文として書くことが非常に難しいと感じる作品でした。
扱われている内容が非常にデリケートなもので、そして著者が作品の中で描いていることを感じることが出来ても
それをここで私の書き方でうまく表現することが出来ないのではないかと思ってしまったからです。

本作品は、先ほども書きましたが、肯定的な考えで傑作とされるか、否定的な考えで問題作とされるか
読む人によって大きく変わってくると思いました。

しかし、この作品はどちらの評価になろうとも
私的には読んでよかったと思える作品でした。

1つ1つの言葉をしっかりと受け止め、その言葉の意味を自分なりに考え感じながら作品に引き込まれていきました。
これほど繊細なテーマを、大胆でありながら繊細に描き、読者にそれをガンガン伝えてくる。
私は肯定的な気持ちで傑作だと感じました。
「面白い作品」という表現ではいい表すことが出来ないと感じる作品でした。

読書記録として分析・評価していますが
本作品を読み終えて、まだ狭い想像しか出来ていない、狭い想像の世界で生きてきた自分が評価していいのか、できるのかと
これほど評価することを迷った作品はありません。

私が知らなかった、想像できてなかった世界を知り、本作品を読む前と読んだ後で、自分の変化をしっかりと感じることが出来ました。

まともな人間だったらまず被害者とかその親に謝罪って思うでしょう。そうならないってことは、まともじゃないんですよ。
「正欲」朝井リョウ P.353

この引用部分にもある「まとも」という言葉にとても違和感を感じるようになりました。
「まともって?」そう反応してしまうようになったのです。

まともとは、その人が想像できる範囲内のことであって、勝手に「まとも」だと思い込んでいるだけ。

本作品中には、このように読者が思わず自分の考え方や感じ方に対して
違和感や、疑問を感じてしまう。深く考えさせられてしまう言葉が多くあります。
著者の気迫がガンガン読者の体に投げ込まれてくる感じです。

この作品を正確に伝える力が私にはありません。
本作品は、読んだ人がそれをどう感じるか、その感じ方は実に様々で、それこそが多様性と言われることだと感じました。

この作品は、賛否両論あるかもしれませんが
「是非読んでみてください!」と言いたくなる作品です。

「正欲」とは何なのか、「正しい欲」。
自分たちが狭い考えの中で思っている「正欲」。
それとは別の「正欲」が、「欲」というものが「多様性」という言葉で表現できるのか。

この世の中に人間がいる限り、存在してはいけない感情などない。
存在してはいけない人間などいない。

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