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春の日のえんどろーる

寧音は春の川辺を歩いていました。うつくしいものは損なわれないものであると信じ、きずなが朽ち果てても、それはあらたなきずなの土壌となるのだと信じて。

寧音のまんまえから春のあらしが吹いてきて、彼女はなにかを思い出しそうなくらい喜びます。小さい頃いっしょにいた大型犬が抱きついてきたときみたいな、安心感を感じながら。

「あーあ、まるで馬鹿らしいことばっかじゃん! 私はもう二十四歳、これからゆるやかに老いていく、とかは言いたくないな、あたらしい言葉を探していたいな。

なんにせよ、エンドロールを歩いてるみたいな気持ちかもしれない。変だよね、私のじんせいは始まったばかりだっていうのに、いま私のまわりに音楽を流すのなら、エンディングがいい。ひかりあふれるエンドロール」

寧音は春の川辺を歩いていました。風に乗って、菜の花のかおりがかおってきます。寧音のコートが一時風に膨れます。それでいいのだと寧音は言います。なんにせよ、いまは春、エンドロールの只中の、おだやかなまひる。

「あーあ! 私はしってる。信じられるものの一切は今世紀中にウソになる。わたしはわたしの言葉を探さなくちゃいけない。これからゆるやかに老いていく、とかじゃなくて、全部空虚だ、とかじゃなくて、小説の最後の一文みたいな。そんな、ハッとすることばをわたしはまっている。

そうだよ、おわるのはいままで信じてきたもの。はじまるのはだれも信じなかったことがら。えんどろーるえんどろーる嘘みたいに、わたしはいかなる現実も受けとめていける」

寧音は春の川辺をスキップします。うつくしいものは損なわれないものであると信じ、きずなが朽ち果てても、それはあらたなきずなの土壌になるのだと信じて。そうです、そうなのです、考え尽くさなければならないことは、考え尽くさなければならないことだったのです。わかりますか? ここからは私だけが演じきってみせるエンドロール、春の日の、菜の花の、星野源の『SUN』とかながれている、ひかりあふれるエンドロール!

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