「隠れ手帳持ち」を救う就労継続支援B型の可能性①『「隠れ手帳持ち」の実態と課題』
どうも、ゑんどう(@ryosuke_endo)です。
みなさんの周りにも、きっといると思うんですよね。
自らは精神障がいや発達障がいがあり、障がい者手帳を取得しているのを、隠しながら一般生活を送ろうとがんばってる人。そういう人のことを、ぼくは「隠れ手帳持ち」と呼称しています。
これは、侮蔑しようとか侮辱しようとする意図はありません。むしろ、そういう状態にしなければならない空気や認識が偏っていることに怒りすら覚えています。
障がい者手帳の取得資格がありながら取得していない、または取得しても公表していない人々の存在は、直接的な統計では捉えられません。
当人が隠しているのだから仕方ありません。でも、内閣府が公表している最新の公式データをみることで、その存在を間接的に示唆し、規模を推測することが可能です。
ぼくとしては、隠れ手帳持ちになるような状況を解消すべきだと思いながらも、現状の障がい福祉等の仕組みを利用することで解消できないものかと考えている次第です。
そこで今回は、内閣府と厚生労働省のデータを用いて「隠れ手帳持ち」の実態に迫ります。
参照したのは以下。
1. 最新調査結果が示す障害者の全体像
まず、障がい者手帳の所持者数は以下のとおりです。ほぼ数字の羅列ですが事実を記載したいだけなのでご勘弁を。
障害者手帳所持者数の推移
障害者手帳所持者(推計値):610.0万人(前回559.4万人から9.0%増加)
身体障害者手帳所持者:415.9万人(前回428.7万人から3.0%減少)
療育手帳所持者:114.0万人(前回96.2万人から18.5%増加)
精神障害者保健福祉手帳所持者:120.3万人(前回84.1万人から43.0%増加)
手帳非所持者の状況
障害者手帳非所持で障害福祉サービス等を受けている者:22.9万人(前回33.8万人から32.2%減少)
障害者手帳非所持で、障害福祉サービス等を受けていないが、日常生活のしづらさがある者:114.1万人(前回137.8万人から17.2%減少)
データから見える傾向
データから見える傾向としては、以下といったところでしょうか。
精神障害者保健福祉手帳所持者の大幅増加(43.0%増)
療育手帳所持者の増加(18.5%増)
身体障害者手帳所持者の微減(3.0%減)
手帳非所持者で支援を受けていない者の減少(17.2%減)
2. 「隠れ手帳持ち」の存在を示唆する統計的証拠
手帳非所持者の存在
これらの調査結果を見てみると、手帳を持たずに日常生活のしづらさを抱える人が114.1万人存在していることがわかります。これらの人々の中に「隠れ手帳持ち」が含まれているのではないかと考えられます。
たとえば、軽度の発達障害や精神障害を抱えながら、社会の偏見を恐れて診断を受けていない、あるいは自身の状態を「障害」として認識していない人々などが、手帳非所持者に含まれる可能性が高いでしょう。
サービス利用希望者の存在
手帳非所持者で、障害福祉サービス等を受けていないが、サービスの利用を希望する者が17.4万人存在します。これは、潜在的な支援ニーズがあるにもかかわらず、何らかの理由で手帳取得に至っていない「隠れ手帳持ち」の存在を示唆しています。
これらの人々が手帳を取得しない理由を考えてみると、概ね、以下のようなものが考えられるのではないでしょうか。
診断を受ける必要があるなど手帳取得のプロセスの複雑さや煩雑さ
「障がい者」というラベリングへの抵抗感
就労や社会生活への影響を懸念
病気や制度に関する情報不足
精神障害者保健福祉手帳所持者の増加
精神障害者保健福祉手帳所持者が43.0%も増加していますが、これまで「隠れ手帳持ち」だった人々の一部が手帳を取得した可能性を示唆していますので、それ自体は前向きな傾向かなと思いますが、依然として多くの「隠れ手帳持ち」が存在する可能性があります。
しかし、この大幅な増加にもかかわらず、依然として多くの「隠れ手帳持ち」が存在する可能性があることを否定することにはなりません。精神障がいは外見からは分かりにくく、また本人も受容に時間がかかる場合が多いため、潜在的な障がい者数はさらに多いと推測されます。
3. 「隠れ手帳持ち」が生まれる社会的背景
では、なぜ「隠れ手帳持ち」が生まれるのでしょうか。この背景について考察します。
社会的偏見と差別の懸念
精神障害者保健福祉手帳所持者の大幅増加は、精神障害に対する社会の理解が進んでいることを示唆していますが、依然として偏見や差別があるのは残念ながら事実でしょう。この歪んだ社会認識が「隠れ手帳持ち」を生み出している可能性があります。
2022年11月に内閣府が実施した「障害者に関する世論調査」によると、障害者に対対する差別について問うた設問に「差別はあると思う」「ある程度はあると思う」と回答した人たちは回答者のうち88.5%と、非常に多いのが実情。
これを忌避して手帳を保持していることを公開しないことを判断していることも十分に考えられるでしょう。
制度の複雑さと情報不足
障害福祉サービスを利用したいにもかかわらず手帳を取得していない人々の存在は、制度の複雑さや情報不足が「隠れ手帳持ち」を生み出している可能性を示唆しています。
障害者手帳の取得プロセスは複雑で、多くの書類や医師の診断書が必要となります。また、どのような支援が受けられるのか、手帳取得のメリット・デメリットなどの情報が十分に行き渡っていない可能性があります。
自己認識の問題
特に精神障害や発達障害においては、自身の状態を「障害」として認識することに抵抗を感じる人も少なくないでしょう。
これは上で触れた社会的な偏見や差別に通ずる話でしょうが、そうやって自己認識によって手帳取得を躊躇させる要因となっている可能性も考えられます。
なぜ、そういった状況を生みだすのかを考えると、多くの人が自身の特性を「個性」と捉え、「障害」として認識するまでに時間がかかることを示唆しており、このような自己認識の問題が、多くの人々を「隠れ手帳持ち」の状態に留めている可能性が高いと考えられます。
4. 「隠れ手帳持ち」が直面する具体的な課題
じゃー、「隠れ手帳持ち」が直面する課題や課題には何があるのでしょうか。
適切な支援へのアクセス困難
ここで改めて厚生労働省の推計値をみると、手帳を持っていない、いわゆる非所持者で支援を受けていない人は114.1万人存在しているとありますので、実に国民の約10人に1人となる人たちが必要な支援にアクセスできていない現状を示しています。
これを多く見るか少なく見るかですが、たとえば、各階5部屋ずつある2階建てのアパートに単身で住んでいる人たちがいたとしたら、その中の1人は支援へアクセスできていないわけです。
具体的には以下のような支援です。
就労支援(障害者雇用枠の利用、ジョブコーチの支援など)
経済的支援(障害年金、各種手当など)
医療支援(自立支援医療、医療費の軽減など)
生活支援(ホームヘルプ、移動支援など)
これらの支援を受けられないことで、「隠れ手帳持ち」の人々の生活の質が著しく低下したり、社会参加の機会が制限されたりする可能性があります。
潜在的なニーズの未充足
さらに、※で表示されている、そういったサービス利用を必要で希望しているのにもかかわらず手帳を取得していない(取得できていない)17.4万人の存在は、「隠れ手帳持ち」の潜在的なニーズが満たされていない現状を示唆しています。
れらの人々が求めている支援とは具体的に何があるとおもいますか。
たとえば、発達障害を抱える人が騒音の少ない環境で働けるようにすることや、精神障がいを持つ人の勤務時間の柔軟な調整といった、職場での合理的配慮。
その人の抱える障がいに応じた配慮を提供してもらえれば生きづらさがなくなる人もいるはず。
他にも、コミュニケーション支援や移動支援など、社会活動への参加を支援してくれたり、日常生活や社会生活に必要なスキルを学ぶための支援プログラムにアクセスできるとうれしいかもしれません。
これらのニーズが満たされないことで、「隠れ手帳持ち」の人々は潜在能力を十分に発揮できず、普段の生活に対して安心して過ごすことができなくなっていく可能性もあります。
社会参加の機会損失
手帳を取得しないことで、就労支援や社会参加促進のためのプログラムへのアクセスが制限され、結果として社会参加の機会を逃している可能性があります。
代表的なところでいうと就労機会。
手帳を取得していなければ障がい者として雇用されることはできません。ただし、障がい者雇用を受けると一般就労よりも労働内容が一般就労者よりも軽減される一方、責任から遠ざけられるため賃金が低くなってしまいます。
それを避けるために手帳を保持していると開示せず、一般就労をしつづけることになりますが、結局、本人は職場に合理的な配慮を求めることができないため、かなり苦しみながら仕事をしつづけることになるわけです。
たとえば、あなたのことをまったく理解してくれる様子のない同僚たちがひしめく中でハイパフォーマンスを求められたとして、十分に成果を出し続けることができるでしょうか。
隠れ手帳持ちの人たちは、そういった境遇で仕事をしているのであることを知ってください。
結果、障害者雇用枠を利用できないけれど、一般就労をすることで職場に馴染めずに離職を繰り返す…。このことから就労の機会から話されていくことになります。
5. 個人事業主の視点から見た「隠れ手帳持ち」の課題
実は、ぼく自身、「隠れ手帳持ち」として個人事業を営む一人です。
個人事業主は何もしなくてもお金が入ってくるわけではありません。自分自身が稼働できない=事業運営の安定性に影響を与えてきます。
手帳を保持していることを公開しようがしまいが、事業契約を結んで発注してくれる事業者には関係ありません。納品の時期は厳しく決められますし、相応の品質も求められます。
それに応じることは決して容易ではありませんが、周囲の同僚から差別的な視線を向けられることや合理的な配慮を求めたいのに求められない状況に絶望することなく仕事をできるのであれば…と個人事業主を選択する人は少なくありません。
障がいを隠しながら事業を営むことによる心理的ストレスは、かなり大きなものです。これはもう、大変なものです。長期的に、公開しないことは事業者としてのパフォーマンスにも影響を与えます。
進行案件のスムーズな進捗と、新規案件の獲得はすべての個人事業主だけでなく、多くの事業を営む人たちの課題でしょうが、障がいを抱えているのに隠しながら事業を行うことは一般的な就労者よりも大きな敷居があります。
もちろん、すべての仕事が簡単なわけもなく、イージーモードに生きられることはいいことだと礼賛するつもりもありませんが、少なくとも障がいのある人たちがオープンにしても差別されず、合理的な配慮が当然のように振る舞われる社会にならない限りは、平等な社会ではないのではないでしょうか。
7. おわりに
今回紹介した調査結果は、「隠れ手帳持ち」の存在とその課題を浮き彫りにしてくれました。
まず、世の中にはそうやって苦しんでいる人がいることを認識してもらうために書いてきたのですが、その人たちに適切な支援の在り方を模索することは、多様性を尊重し、すべての人が自分らしく生きられる社会の実現に向けて不可欠ではないでしょうか。
特に、個人事業主としての「隠れ手帳持ち」の課題は、個人の問題だけでなく、社会の潜在的な経済損失にもつながる可能性があります。彼らの能力を最大限に引き出し、社会に貢献できる環境を整備することは、社会全体の利益にもつながるのです。
次回は、この「隠れ手帳持ち」支援の新たな可能性として、就労継続支援B型の可能性について詳細に探っていきます。
特に、高額工賃モデルの導入が、「隠れ手帳持ち」の課題解決にどのようにつながる可能性があるのか、を考えてみます。
ではでは。
ゑんどう(@ryosuke_endo)
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