見出し画像

賃金増が叶う労働者と叶えられる事業者ならびにそうではない人たち

枕にかえて

 どうも、えんどう @ryosuke_endo です。

リクルートが2022年02月02日、2021年10月-12月期の転職時における賃金変動の調査結果が過去最高値を更新したことを発表した。

2021 年 10-12 月期 転職時の賃金変動状況_20220202_hr_01.pdf

 身を持って体感している人もいれば、自分には関係のない話だと思ってしまう人もいるだろうが、少なくとも全業種において...なんて夢のような話ではないことは詳細を見れば明らかだ。

 調査結果に記載してあるのは「前職を比較して”明確に(1割以上)”増加した人」の割合を示すもので、3割強が前職よりも明確に増えたことを実感する一方、7割弱は「維持」か「減少」していることを暗示する。

 数字を見れば改善できていること自体はすばらしいことであるが、今後は事業者単位ではなく業界単位で人手不足が明確になっていくことは予想に難くないが、同時に賃金格差が生じることを推察するにも足る要素だろう。

 結果、労働者側に「賃金格差」となって降りかかってくる問題について僕なりに現状の前提を踏まえた上で考察してみる。

▶︎ 平均所得は30年前から一貫して”維持”

 こういう話をすると「労働者側の賃金が増加してないなんてことはない」とデータを出しながら否定する人がいる。

 確かに厚生労働省から出されている『令和2年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)』の結果を見れば増加しているように見受けられる。しかも、日本人的な社会慣習を鑑みると賃金が低くなりがちな女性側も増加しているではないか。

『令和2年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)』 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html

 しかし、この数字は本当に鵜呑みにしていいのだろうか。

 事実として男女共に賃金が上がっていると言えるものの、その増加率は微々たるものである。むしろ上がっていると表現するには物足りない数値で、むしろ「下がっていない」と表現する方が適切だ

 日本は本当に不思議な国で、経済が良かろうが悪かろうが関係なく「維持できること」は世界的に類を見ない脅威の立ち回りをする国だ。この横ばい力が2100年ごろまで続いてくれると未来を生きる人たちにとっては希望につながるのではないかとも思う。

 希望につながるのは未来、しかも50年以上も先の話だ。少なくとも僕が順当に生きることが予想できる今後の30年はシルバー民主主義が崩れることはないだろうし、期待することもおかしな話だ。

 改善してほしいのだが、現状はとても厳しい。

▷ 賃金が増加しているのは派遣労働者

 さて、話を本筋に戻すとしよう。上とは別のデータを見る。

厚生労働白書(令和2年版)を確認してみると、正規雇用の正社員に対する労働賃金は2010年から2019年までの間、1.00倍のため変化がない。これは冒頭に貼り付けたデータからも何ら違和感のない結果だろう。

 事実、日本の平均所得は1989年から2倍などは到底夢であるかのように一貫して伸びていないし下がりもしない、まさに「純然たる横ばい力」を発揮している

令和2年構成労働白書_平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者) https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-08-02.html

 だが上で正規雇用の正社員の賃金が少なくとも10年は変化がないことを確認したばかりだ。では、誰の賃金が上がったのか。また別のデータをみることで解決してみよう。

 同じく令和2年度の構成労働白書内で示されている正規雇用と非正規雇用労働者の賃金推移だ。正社員で短時間勤務者を観察すると時給換算ではあるものの1.21倍となっており、増加していることがわかる。

令和2年度厚生労働白書_正規雇用労働者・非正規雇用労働者の賃金の推移(雇用形態別・時給(実質)ベース)https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-03-24.html

 増加はしているものの、ここで記載されている「正社員」の区分内に雇用契約の期間(有期・無期)の記載はない。つまり派遣労働者である可能性ががある。

 そこで一般社団法人日本人材派遣協会のWebサイト上で確認できる派遣労働者の推移を見てみると有期雇用の割合が増加している。また、有期雇用の内訳にはパートタイム労働者の増加が顕著であることも示す結果となっている。

派遣の現状 | 一般社団法人日本人材派遣協会 https://tinyurl.com/y7etujy2

 ここから言えることは至ってシンプルに考えると、企業側は「雇用の負担」を負いたくないが「人手不足」を解消したい

 また、労働者側も「家庭の事情を踏まえると好きな時間に働ける状態を保ちたい」と願いつつ「それでは正社員として雇用契約を結んでもらえない」ことが前提となっていることだ。

 これらが絶妙に絡み合う前提として「経済成長ができていないから」なんてことになってしまっている。

 それと同時に僕は「地域創生」や「地方創生」といったキレイごとが内需拡大に目が行ってしまった結果、外貨を稼ぐことには繋がらなくなってしまっていることにもつながっているのかもしれないとも考えている。

 日本の経済自体が成長もできないからこそ、日本に99.7%存在する中小規模事業者は自社雇用を増やす方向よりも契約の継続に関して決定権を保有することができる派遣労働に頼る構造が盤石なものとなり増加しているのだ。

▷ 横ばい力の犠牲者は若者(30代以下)

 派遣労働者が派遣元で正規雇用としての社会保障を受けつつ、短時間で勤務をすることが実現する一方、非正規従業員の賃金も10年で微増している点も無視できない。

 厚生労働省が行っている労働力調査(非正規職員や従業員に関する調査)をみれば、労働者側の意識と雇用をする企業側との間に意識の齟齬があるといえる。

 企業・雇用主側からすれば、どの業界も『人手不足』で即時的に人員を増やしたいと考えても「日本人人材」に限定した求人を出したところで「集客」できない。できない理由はこれまでに見てきたデータから明らかである。賃金が上げられないからだ。

労働力調査(詳細集計) 2021年(令和3年)7~9月期平均結果 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/dt/index.html
労働力調査(詳細集計) 2021年(令和3年)7~9月期平均結果 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/dt/index.html

 労働者側も労働者側で「賃上げ不足」に悩まされている。「それは労働者側の要望が過ぎる」と考える雇用主もいるだろうが、40年前の年収400万と40年後の現在の年収400万では手取り金額が違い過ぎる。

 昭和の時代に消費税などは存在しなかったし、社会保障費の負担も現在よりも低い。消費税10%は単純に考えて手取り金額が10%減ることを意味する。400万円の年収は実質360万円なのだ。

 過去の平均年収と同額の収入があったとしても、手取り金額が低くなっているのだから労働者側が多くの賃金を求めることは当然だ。それは平成時代と令和を比較しても同じで、今の20代と30年前の20代が同様の賃金である場合、今の20代の方が圧倒的に「お金がない」のである。

財務省|国民負担率:主要労働統計指標|労働政策研究・研修機構(JILPT)

▷ 今後10年間は解決しないだろう賃金格差

 これらの前提を諸々と見てみた結果、日本語話者の労働者にとって未来が明るいのかと問われたらめまいがするほどに未来は暗い。

 今後もIT関係の利益率の高い業界や、それに適応して機械化や自動化などでデジタル化を推進して利益率を高める方向で推進できる事業者のもとで雇用契約を結べるだけのスキルや経験を有している人たちは順調に所得を引き上げることができる。

 反面、PCなどの端末が古くなってしまったりセキュリティに関しても特に気にもしない上に、デジタル化に対しても消極的で「よくわらかん」とする業界や事業者については人手不足を解消できることもなければ、賃金の引き上げもできないことから日本語話者の労働者と雇用契約を結ぶことができなくなる。

 結果として起こるのは業種間の経済格差であり、中で働く人たちの賃金格差である。

 これが解消するためには経済格差をドンドンと生み出すぐらいに日本経済が成長をする他にないが、そんなことができるのであればとっくにできているはずで、未だにできていないのだから小さな事業者単位ではあり得るかもしれないが、日本全体で解消されるのかというとかなり厳しい

 こうなってくると、個人がどう生きるのか、どう働くのか、どうやって個人や世帯で年収を引き上げるのかを考えなければならないし、考えて稼ぐことができる人だけが賃金を引き上げることができる時代なんだと思わざるを得ない。

 企業側は企業側で「高い賃金を出すことはできないから、この仕事だけやってほしいし、副業もOK」とする柔軟性と妥協点を持ち合わせなければ人材を確保することすら難しくなるのではないか。

 間違っても「雇用してやる」といった態度では激しい人材獲得競争で優秀な人材や有望な人材の確保すらできなくなる。労働者によるrecommendレコメンド(推薦や推奨、オススメといった意味合いで使用)をされる時代である以上は内部事情など明らかにされることを前提にしなければならない。

 企業側もツラい状況かもしれないが、何よりも労働者側も低い賃金で働かざるを得ない状況でがんばっている。もちろん企業側も労働者側に報いたいと思いながらも経営状況を鑑みながら苦しんでいる。

誰も悪くないのだとしたら、結局はそういう経済状況を生み出してしまった日本人全員が悪いのだと判断する他にない。だから各々が「どうすれば幸福なのか」を考えながら「仕事」を選ぶ他にないのだろう。

 いちいち勇気がいる時代である。

 ではでは。

 えんどう

▶︎ おまけ

▷ 紹介したいnote

こういうデータは調べればいくらでも出てくる。気になる話題がある人は調べる習慣をつけるだけで随分と見える景色が変わるはずだ。社会保障費がOECD各国と比較すると多くはないと主張する人たちにはぜひ賃金を増やしてもらいたい。

僕は男性の立場でものを申したが、女性の立場からみても現状の日本はかなり貧困国で、富裕層も貧困層も等しく貧しくなっている。そうなれば経済格差を生み出せるほどの経済成長を遂げなければジリ貧になっていくのは目に見えている。

現状を正当な賃金だと思えている人はどれほどいるのだろうか。少なくとも昭和終期から平成中期までの20代と平成後期から令和4年にかけての20代とでは正当さの認識が異なるだろう。僕たちの子ども世代は...と考えると泣けてくる。

▷ 本noteに関連する紹介したい書籍

一家に一冊、本で用意しておくべきだと言える書籍だ。物語調で進んでいくため、スラスラと入ってくるだけでなく、お金における認識や注意点などをわかりやすく説明してくれる。大変オススメの書籍である。

おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密 (しごとのわ)

▷ 著者のTwitterアカウント

僕の主な生息SNSはTwitterで、日々、意識ひくい系の投稿を繰り返している。気になる人はぜひ以下から覗いてみて欲しい。何ならフォローしてくれると毎日書いているnoteの更新情報をお届けする。

リンクを踏むと僕のTwitterアカウントへ飛びます


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。 お読みいただき、それについてコメントつきで各SNSへ投稿していただけたら即座に反応の上でお礼を申し上げます!