【読書感想文】『なぜゴッホは貧乏で、ピカソはお金持ちだったのか』（山口 揚平）
本書は、著者である山口揚平さんの『新しい時代のお金の教科書 (ちくまプリマー新書)』の前身となるものです。
冒頭、ピカソとゴッホという著名な画家について触れルところから文章から始まります。
双方が同様に高名を得ているにもかかわらず、一方は金銭に恵まれ、一方は貧困にあえぐことを引き合いに出し、その差を考察することから始まるわけですね。
結論としては、ピカソはお金の正体を知っていたのではないか、と。知っていたというよりも、その本質的な使い方を覚えたということで落ち着くのではないか、と思うのです。
生い立ちを含め、ゴッホは凄惨な人生を送っており、耳を切り落とすというまったくもって理解できない行動を起こすぐらい追い詰められていたのに、片や、同じような名声を獲得したピカソはまったくもって悲壮な印象、それを想起させることは一切ありません。
「お金の正体」を知っているかどうかというのは、高名な画家であろうとなかろうと関係なく、我々が生活している中で「お金」を扱う上では不可欠な知識であり知識であり見識のはず。
これまでのエントリでも、お金のことについて書かれた書籍をいくつか紹介してきました。
きましたが、大変申し訳ないのですが、どれを読んだところで、これをお読みのあなたが豊かになるなどという保証は一切ございません。
ただ、読んだことから、その知識や見識から行為変容、つまり、行動を変化させられるかどうかにかかっているということはあえて書かせてもらいたいと思います。
「お金とは信用である」というのは当ブログで扱ってきた書籍をお読みの方であれば当然の認識かと思われますが、そこから始めます。それは「信用とはなにか」を考えなければならないということです。
本書内にも掲載されてますが、デービット・マイスターが『プロフェッショナル・アドバイザー—信頼を勝ちとる方程式』の中で、信用を導き出す公式を紹介している。
信用度＝専門性＋確実度＋親密度/ 利己心
ちなみに、著者である山口さんは後々、これを信用度ではなく、価値に変換した上で利用しています。
さて、お金は「信用」であり、信用度というのは、専門性を高く保ち、仕事ぶりが確実で、親密な関係を構築したことに対し、自らの利益を優先する気持ちをあてて割り引くものだと理解しました。
ここまでの理解でいえば、他者へ貢献できる専門性を持ち、確実な仕事をし、親密な関係を築くことで、信用が高まり、それがお金に変換された際には大きな金額になることができるということです。
では、消費と投資の違いについてはどうか。
ぼくは以前、はてなブログで『子育て・教育はコストか投資か』というエントリを書いてます。
子どもに対し、教育の義務を課せられるのは養育者であり、その養育者の自己満足にお金を使うことは浪費であり、子どもの人的資本に影響を与えることにお金を使うことは投資であるとした内容です。
本書内で述べられている山口さんの見解としても同様のものです。
消費は「今の感情」に向けられるお金の使い方であり、投資は「将来」のためにお金を使うこととし、あくまでも今の感情に支配され、お金を使うという行為は投資ではなく、消費となる。
山口さんは、その判断を財務諸表でするべきだと述べており、企業だけではなく、一般家庭においても財務諸表的な考え方を持ってお金を扱うべきだとしています。
この点は落合陽一(@ochyai )さんも同意見であり、金融的投資能力として今後の日本において、会計能力が必須能力であることを『日本再興戦略』で触れています。
財務諸表から得られる情報は、消費か投資かの判断を行う上で不可欠だとし、それがお金の使い方を導き出すともしています。
財務諸表とは、P/L（Profit and Losis Statement）：損益計算書というものと、B/S（Balance Sheet）：貸借対照表というものから構成される企業のお金の記録表のこと。
想像できない人は、家計簿だと思えばいいかと。家計簿もピンと来ない人は、お金の出し入れを記録する用紙だと思えばいいかと。
それぞれについて簡単に説明をしてみます。
損益計算書というのは、会社の一定期間における経営成績を示す決算書。桃鉄でも出てきますよね。
絶対評価（利益）と相対評価（対比：前年、前期など）が混合された通知表みたいなもので、会社にいくら入ってきて、いくら出て行ったのかを計算し、余り、つまり利益を示すもの。
貸借対照表は、決算日時において（たとえば3月末日を決算としている会社が）、その時点で持っている資産（現金、不動産、など）と負債（借りている現金や不動産など）から余り（差額）を出して、純資産として計算する会社の財政状態を明らかにするものです。
これらを合わせて複式簿記と呼び、全世界で共通のフォーマットの上で運用されています。つまり、日本語で財務諸表（P/LやB/S）が読めれば、海外の企業がどんな経営状態になるのかも把握することが可能ということです。
逆を返せば、財務諸表が読めないということは、資産状況が把握できないということに...。
つまり、自分がお金を持っているのかいないのか、有利な状況になるのかならないのか、その時点でのお金のあるなしに左右されることになりますね。
ということは、明日、食事ができるかどうかしか判断できないという状況に陥ってしまうということに...
なぜなら、お金は信用だとするのであれば、その信用が貯めれているのか、そもそもマイナスでしかないのか、ということを判断する指標がわからないということです。
これは消費だとか投資だとかいっている場合ではないですよ。
自転車操業の状態で、入ってくるものをそのまま消費に回さなければならない状態というのは、余剰分がなくなってしまうため、投資だとかなんとかいっている場合ではないんですね。
個人や家族、会社だろうが、投資を行うためには原資が必要なのには代わりがないため、現状の状態を改善できる部分については改善を図る必要がある。
では、自らの資産状況が把握できたとして、「信用を高める」ことは何がいいのでしょう。
別に信用を高めることは資産状況となんら関係がなさそうですが、そうは問屋が卸しません。
たとえば、あなたが1万円を貸せる人の顔を思い浮かべてみてください。
別に金額は５千円だろうが、千円だろうが関係ありません。自分が簡単に貸すことのできる金額で考えてもらえばいいんですけど、その金額を貸せる人は誰でしょう。
顔が思い浮かぶ人と、そうではない人の違いは何か。その違いが信用です。
今後は人生の中で、仕事の延長で趣味になるのか、趣味の延長が仕事になるのか分からない人たちが増えていきそうです。“増えていきそう”というのは、常識が変容するまでに一定期間（10年や20年という単位）を要しますので、そこから言ってます。
その辺りについてはnoteで記事にしているので、お時間があればご覧いただきたい。
現在、「普通」だとか「常識」だとしている認識は、メインとなる年代が変わることで、簡単に変わるものです。
人の認識なんてものは、時代によって変容すると誰もが知ってますよね。だから、世間の常識なんてものも変容することを前提にするべきだというのは当然と言えば当然です。
となれば、2018年時点でも、ぼくたちの親世代からすると「そんなのは仕事じゃない」(そもそも仕事＝苦役だと思っている世代には現在のサービス業の大半は納得できるものではないだろう)と思われることが仕事として成立することを考えると、それがメインストリームになっていく可能性は否定できません。
ただ、急激に変わるには、技術的・時代的な前提条件が揃うことが必要になります。
それを考えると、急激にというよりも、今のようにポッと出てきた上で「なんかいいよね、この流れ」という雰囲気から徐々に醸成されていくんだと思います。
そうなった時に、誰が求められるのかといえば、すでに一定数の人たちに対して実績を作っている「存在」にお金という名の信用が流れるんでしょうね。
そうなった際、あなたは信用を駆使することができるかどうかを考えるべきで、お金というのはあくまでも信用を可視化するために便利な媒体・仲介でしかないというか、そんな使い方になっていくでしょうね、と。
相互に信用が高い状態を保てているのであれば、別にお金を介して売買を行う必要なんて全くなくなります。
そんな立場に立ってみると、お金を使うというのは「＝相手を完全には信用しきれていない」とも捉えることができますね。
なぜなら、相手に完全に信用する価値があるのであれば、別にお金を介して取引を行わなくても良いことになりますからね。
本書は、信用を消費としてしまうのか、投資をするのかということを考えるのに打って付けの内容となっているため、ぜひ、手に取って読んでもらいたい本です。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。 お読みいただき、それについてコメントつきで各SNSへ投稿していただけたら即座に反応の上でお礼を申し上げます！