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作品「翳りし光の巡礼」の解説

2022年撮影の「『翳りし光の巡礼』― Widow 昨日を生きるために」から。
普段はスタジオでの作品撮り中心ですが、日中の海辺での屋外ポートレート形式で実験的に撮影したものになります。

Photo by Seraph.M/©DOCTRINE
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概要

愛する人を、人生のそのすべてを喪った女性の、あても終わりもない旅の断片。
記憶や感覚は時間の経過とともに徐々にかたちを喪っていく。
最後にはそのかたちをとどめられなくなり脆くも崩れ去り砂粒のひとつのように世界のどこかへ舞い散ってしまう。

想い出とは、まさにこの記憶や感覚の集積である。
しかし、想い出を構成するそのひとつひとつが喪われていくということは最終的には想い出すらもかき消えてしまうのではないか。
想い出とはその人にとっての過去、それまでのすべてを集約した「想いの意識」の結晶。それを喪うことは人として生きる上で大きな恐怖だろう。

彼女は「喪失」のなかで、喪われゆくものを追い求めその手に掴むため過去に生きることにした。
喪失の先にある明日ではなく、幸福だった昨日を生きる。
記憶の場所を巡り、煌めく想い出の欠片を拾い集める光の巡礼。
それでも喪失はとまらない。
翳りゆく光。迫る闇。

解説

今回のロケーションは湘南の海です。
湘南の海辺といえば夏の明るく生命感や活気に満ち溢れたイメージが一般的ではないでしょうか。
特に「海辺のポートレートの多く」は希望を感じさせる生命力に溢れています。

ただ、そういった世界観は誰もがやっていて飽き飽きしている部分もあり、必ずしもそんな明るいことばかりじゃないよなという思いがあります。
特に「愛する者を喪った人が強く前向きに生きる」なんていうテーマはやり尽くされているでしょうし「そんな都合良く人は生きられないぞ」と今回は「喪失」をテーマに暗く悲しいものを引きずりながらの未来志向ではない作品としました。

作中の女性は恐らくこのまま希望は見いだせないまま、そう遠くはない未来に自分自身を喪失することになるでしょう。
常に喪服を纏い各地を彷徨い、すでに記憶は曖昧になり自己の境界も曖昧になっています。

今回のモデルYOMIさんはそういった「喪失」を実体験されています。
現実生活でのYOMIさんは日々を精力的に生きていますが、それでも喪われゆく過去を追い求めた時期はあるでしょうし「人の喪失」に至ってはその傷が癒されることは永遠にないと思います。

閉じた傷もきっかけさえあれば再び開いて血が滲みます。
人間の心は繊細で、けっして強くはありません。
だから常に未来ばかり観て生きていることは難しいのです。
後ろ向きに過去に生きることもたまには肯定されてもいいでしょう。
前を向くことは重要ですが、後ろを何度も振り返り左右に気をとられながら歩くのがリアルな人生なんだと思います。

余談

湘南の海といえば夏。
これは正しいんですがそれはブランドとしての側面で、地元の生活者にとっては春夏秋冬で湘南の海はあるわけだし、静かでだれにも邪魔されない海はむしろ冬にあったりします。

実際に現地の人は冬でも熱心にマリンスポーツを楽しんでいます。
冬の海は風が強く冷たく厳しい環境ではありますが、束縛されず海は自由に使えて澄んだ空気は遠くの富士山のシルエットをクリアにします。
だからこそ、湘南で暮らす人は冬の海に価値を見出すのでしょう。
湘南の海辺に暮らしているあるフォトグラファーに教えてもらいました。
「湘南の海を撮るなら2月だよ、冬だよ」と。

そんなわけで、冬の湘南の良さというものもひとつ描きたく、撮影環境としては過酷な時期を選びました。
撮影日は2022年2月26日、晴天、風速は5メートル程度に達して、まったく撮影日和ではありませんでした。
そんな環境でも協力してくれたYOMIさんに感謝。

この制作に携わった方の紹介

モデル

YOMI( @YOMInokuniyo )さん

YOMI nokuni.Clothing store
https://yominokuni.thebase.in

企画・制作

DOCTRINE - SINISTER ALLIANCE -
公式サイト

https://sinister.heavy-rubber.tokyo

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